第41話 村
「じゃあな!」
ユーリはアシムと別れる。
今日、凄い人物と出会った。
この国の姫様だ。
おこがましいことに、ユーリは姫様を数秒間見つめてしまった。
一目ぼれだ。
あんなに美しい女性に会ったら仕方ないと、ユーリは思ってしまう。
家の中へ入る、そこはいつも通り一人の世界だった。
「ここから抜け出せるのかな……」
アシムの前で見るユーリからは、想像できないような弱音が出る。
「俺も、姉貴もこんなクソみたいなことしないで生きていけたらな」
しかし今、その可能性が目の前に転がっている。
美しい女性に会ったことで、ユーリの心は揺れていた。
「自由に生きられない不幸か」
アシムに言われたことを思い出す。
「自由な仕事をして、自由な家に住んで、自由に恋をして」
そのどれもが、今のユーリには欠けていた。
なにも、恵まれた仕事に就きたいわけじゃない。
なにも、大きな家に住みたいわけじゃない。
なにも、一国の姫と結ばれたいわけじゃない。
「人と、他愛無い話をしたいだけなんだ」
自分の仕事は言えない。
自分の住んでいる家が、立派なことも言えない。
好きな人の元に通うことも出来ない。
「こんなんでいいのか?」
飢えないでいられる。
立派な家に住めている。
だけど、そこに自由はなかった。
自分の心の自由が、そこには無いのだ。
ユーリは、一人夕食を食べながら、自分と向き合っていた。
☆
「今日は奴隷商を追っかけるか」
先日、追跡を途中で切り上げたので、今日は決定的な瞬間を見届けたい。
昼からになるが、奴隷商を見張る。
「オーナーを追っかけるか、従業員を追っかけるか」
先日の話を鑑みると、奴隷の調達に行くはずだ。
奴隷は奴隷商にしか扱えない魔法で、奴隷にされる。
その魔法の入手方法は秘密とされていて、噂では国王が特殊なアイテムで、付与できるとか言われている。
「オーナーだな!」
奴隷契約を行うには、多分オーナーが必要だろう。
奴隷契約の魔法は、それだけの価値がある。
暫くすると、少し大きめの馬車が奴隷商店の前で止まる。
建物の中から、オーナーが出てきた。
「お! ついにか」
出発する馬車を追いかける。
街中ではスピードがそんなに出ていないので、アシムの脚力なら余裕で追跡できた。
しかし、街を出てしまったので、距離をある程度あけなければ、遮蔽物がなく見つかってしまう。
スピード的には、超人アシムからすれば問題なかった。
なんとか上手く追跡をして、馬車が静かな村に止まるところまで来た。
馬車を村から見えない所に止めている。
「ここで攫うのか?」
確かに、街から外れた村では、人が居なくなっても騒ぐのは村人だけだ。
王都から結構距離があるので、衛兵が駆け付けたところで大抵間に合わない。
アシムは、静かに村に入っていった。





