第36話 約束
「恩を売る話をしていたら、まさにその話がくるとは思わなかったわ」
リーゼロッテとシャルル姫は、アシムが帰った後も話していた。
「それに、闇組織の必要性について認めていた?」
「そうね、子供なら何故悪いものが必要なのか理解できないのが普通だと思うのだけれど」
「サルバトーレ家の教育が素晴らしいなら、没落などしていないだろうし」
アシムという子供のあの理解力はどこから学んだものなのか。
もしかすると親が嵌められたのをみて何かを学んだのだろうか。
シャルル姫とリーゼロッテは思案を巡らせるが、答えが出るはずもない。
「とにかく、闇組織に留飲を下ろさせることは可能だわ」
「そうだね」
「これで、どれだけアシムの信頼を得られるかね」
「順調にいけば、貴族なのでこちら側に取り込めると思うけど」
「一度没落したのよね」
サルバトーレ家が信用されていなかった。
不安を覚えつつもその武力を存分に発揮して、王国の役に立ってもらいたいものである。
☆
次の日、アシムはまたユーリの家に来ていた。
「あれ? エリゼさんは?」
「もう仕事行ったよ」
「今日は早いな?」
「当番だとさ」
「当番?」
「掃除したり、店の開店準備の当番さ」
「なるほど」
「それで? なんの用だ?」
「今日も、良い盗みっぷりだったよ」
「お前はストーカーか!」
「そうともいう」
スリを追いかけるストーカーとは。
「で? マジでなんだよ?」
「権力者様と会う約束ができた」
「いつだ?」
ユーリの顔が真剣になった。
「明日だ!」
「急だな!」
「そう言うなって、僕の事情だから仕方ないだろ?」
「そこは、権力者様の都合じゃねぇのかよ!」
「いや、明日から僕は組織を調べ始めるからね、こういったことはさっさと終わらせるに限る」
「はぁ、会えるなら文句はねぇよ! ただその権力者に納得できなかったら降りるからな」
「分かってるさ! 期待しててもいいよ?」
「自分でハードル上げといて大丈夫かよ」
「あえて自分を追い込むことで、逃げ場を無くすのさ!」
「権力者の立場は変わらんだろ」
「気にしないでくれ」
「ツッコまんぞ!」
「ツッコんでいる自覚があったのか! 嬉しいよ」
どうやら、ユーリはアシムに遊ばれていたようだ。
「とにかく、明日の夜になってしまうけど大丈夫?」
「大丈夫だ、夜は姉貴がいないから都合がいい」
「分かった、じゃあ暗くなったら迎えにくる」
「了解した」
次の日の約束を取り付け、アシムはユーリの家を後にする。
(よし! 明日は気合をいれて調べるぞ!)
アシムは闇組織との交渉材料を手に入れるべく、危険な調査に乗り出すのだった。





