第2話 才女の姉
「なんだ、今日は珍しく早いじゃないかアシム」
「そうなんですよお父様! 私が起こしに行く前に出てきちゃって!」
昨日までの俺は、この剣術の練習が嫌で嫌で仕方がなかった。
しかし、今この窮地を脱するには、自分の才能を確かめる必要がある。
「さあ! 始めましょう!」
「なんだ? やる気だな、なにかあったのか?」
父親が?を頭に浮かべる。
「あらあら、アシムどうしたのかしら」
おっとりとした口調で姉も不思議そうにする。
「いつもは、魔法でどうにかすると言っていたのに、ようやくサルバトーレ家としての自覚が出てきたか」
サルバトーレ家は、剣術が国内でも1番と言われる程の武勇を誇っている。
魔法の才も優秀で、サルバトーレ家の姉妹は大いに期待をされている。
「僕も男ですから」
俺の言葉に、父も姉も微笑ましそうに笑った。
まさか、没落した父親が頼りないから頑張るとは言えない。
「それは僥倖! ならばサルバトーレ家の嫡男として最強を目指せよ!」
凄いプレッシャーのかけ方だが、壁という壁にぶつからない才能を持った奴の感覚なのだろう。
しかし、自分は上手くいかないことがいっぱいあるということを、知識として知っている。
「あら、食べちゃいたい」
7歳の姉の口から何やら不穏な言葉が聞こえたが、お腹が空いているのだろう。
「では、父上! お願いします!」
「よかろう」
もう貴族ではないのだが、武の名家ということでしつけはちゃんとされている。
◇◆◇◆◇◆
「はぁはぁはぁ」
自分の訓練を終え、倒れて休んでいる横で父と姉が稽古をしている。
「エアリス! いいぞ!」
姉は、手加減されているとはいえ、父の剣術について行けるほどの天才だ。
ちなみに自分の実力はというと、父に片手ハンデをつけてもらって、その場から一歩も動かないで相手をされるぐらいだ。
勘違いしないで欲しいのは、俺はまだ5歳ということである。
7歳であれほどの剣術を使う姉がおかしいのだ。
「よし、今日はこのあたりにしよう」
「はい! ありがとうございました!」
父親とはいえ剣の師匠だ、礼儀は必要だ。
「アシム、今日はカッコよかったわよ」
父がさっさと家の中に入るのに対し、姉のエアリスが話しかけてきた。
「姉上、ありがとう」
「ふふ、どうして急にやる気になったのか気になるわね」
「あの、僕も男なので」
「そうじゃないわ、やる気になった出来事が知りたいのよ?」
なるほど、姉はやる気になった何かしらのきっかけがあったと思っているのだろう。
「僕も5歳です! サルバトーレ家の名に恥じないような男になりたいと、昨日思ったのです」
「あらあら、もしかしてデュラム家との婚姻の話を気にしているのかしら?」
実は5歳の誕生日会の時にサルバトーレ家を嵌めた、デュラム家が嫌がらせに来たのだ。