第186話 冷緑の森③
「父上! お見事です!」
「お父様! 凄い凄い!」
アダンは俺たちが魔物を倒すのを待ってから、お手本となるように立ち回ってくれたみたいだ。
アダンの立ち回りは、複数の敵に対して一時的に一対一を作り出すというものだった。
アダンは剣技のみでの立ち回りだったので非常にシンプルだったが、俺がもしあのような立ち回りをするなら、魔法を駆使して剣で確実に一人づつ屠っていくのが正解だろう。
流石騎士団で隊長を任されるだけのことはある。
「死体を片付けるぞ。そのままにしては腐敗が進むからな」
倒した魔物は燃やして腐る部分は完全に無くしてしまう。
そうしないと腐敗部分は毒になるし、腐らなくても他の魔物の餌になり繁殖を促してしまうそうだ。
「よし! 行くぞ! 今度はもう少し魔物を引き付けてからにしよう」
いわゆるトレインと言われる手法だ。
大量の魔物を引きつけるのでとても危険な行為なのだが、こういった間引きなど事前に準備ができている状態ではしばしば使われる方法なのだ。
早速トレインのきっかけとなる魔物を探すため森の奥のほうへ進む。
しかし、なかなか魔物が現れず、結構深くまで入り込んでしまった。
「アシム、エアリス! 何かがおかしい。一度引き上げるぞ」
アダンは何かを感じ取ったのか撤退の判断を下してきた。
その考えに俺は首を縦に振る。
確かにこんなに森の奥深く、間引き前の森なら魔物に出会わないのはおかしい。
魔物も恐れる何かがいる可能性が出てきた。
「お父様! 何か聞こえませんか?」
エアリスが何かの音に気付く。
言われてみれば、人の話すような声が聞こえる。
「こんなところに人? いや、エルディア達かも?」
この森の中で行動しているのは俺たちとエルディア達だけだ。
白薔薇の騎士団はキャンプ地で待機中だ。そしてエルディア達は斥候といいつつ自由行動をしている。
聞こえてくる声は焦っているようで、大きな声を出したら聞こえるぐらいの距離にいるようだ。
「何かあったのかもしれん。様子を見に行くぞ」
アダンの言葉にエアリスとともに肯定の意を示すと、三人ですぐさま声の元へ向かった。
声が聞こえる距離なので近いと思ったが、意外と探すのに手間取ってしまった。
最初に目に入ってきたのは、全身が血で赤く染まった横たわる男だった。