第184話 冷緑の森②
目を真っ赤にし、開いた口の隙間から涎を垂らしている獰猛な四足歩行動物が唸り声を上げる。
「アシム! エアリス! 右側は任せた!」
アダンの指示により俺の倒す魔物が確定される。
姉のエアリスも一緒に戦うので、そんなに多くの魔物を屠ることはできないが、今日の初戦としていい運動になるだろう。
今は白薔薇の騎士団と交代する形で、アダン、エアリス、俺の三人が森の中の間引きを行っている。
アイリスや今回の旅に同行してくれた使用人たちはキャンプ地でお留守番だ。
正直アイリスは今回の間引きに参加しても十分活躍できる実力を持っているのだが、いかんせんまだ五歳である……。
まあ、俺が五歳の時はハンター業で魔物を狩りまくっていたのだが、あれはやらなければならなかったので例外だろう。
「アシム! いくわよ!」
エアリスが戦闘開始の合図を出す。
対面している魔物は、この森の中では比較的強い部類に入るらしく、その話に違わぬ獰猛さをを見せている。
赤いたてがみのようなものが頭部の上に走っており、豹をかなり大きくしたような体躯から繰り出される攻撃は空気を斬るだけで爆音を鳴らしていた。
猫パンチと揶揄るにはあまりにも強力な一撃を躱しつつ、エアリスの方をちらりと見る。
姉は高い木の上に登っており、こちらに狙いを定めるように剣の切っ先を下へ向けている。
それを確認できたので俺は簡単な魔法を発動させる。
「ストーンロック!」
豹型の魔物はその図体の大きさからは想像できないような速さで動く。
ストーンロックは大小様々な石で相手を囲い込み、動きを封じる。
大量の石ということもあり、重量も中々で、大型の魔物の動きを封じるのに適した魔法なのだ。
しかし、今回はあえて砕けやすいように魔力の練りをわざと弱くするという趣向も凝らしてみた。
そんなこと知らない魔物は自分の動きを封じようとしてくる石を躊躇いもなく打ち砕いた。
「よし掛かった! 姉上今だ!」
俺の合図を待ってか待たずか、石が砕け細かくなったものが魔物の目を襲った辺りでエアリスが一直線に飛び降りてきた。
豹型の魔物の頭から一本の剣が生え、数秒するとその大きな体は崩れ落ちた。
「アシム。今のやり易かったわ」
「あの砂埃の中でも狙いを外さないのは流石だね」
「ふふっ。ありがとう。これでも学年では結構強いほうなのよ」
学年で強いどころか、学園で最強の間違いではなかろうか?
とはいえ俺も学園の実力者を知っているわけではないので、断言はできないのだが。
「お父様の戦い方見ておこうよ」
「そうね」
アダンは二匹の魔物と戦っている。
まあ戦力差は歴然としているので、今回は俺もエアリスもアダンも準備運動を兼ての戦闘だ。
この森の中で強い魔物といっても所詮は毎年間引きされる程度の奴らだ。
白薔薇の騎士員一人なら危ないかもしれないが、集団なら余裕で駆除できるような魔物しか残ってはいない。
逆に、毎年間引きしているのにある程度の強さをもった魔物が出るという厄介さはあるのだが。