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第180話 グール

 

「アシム? 上の空のようだけど大丈夫?」


 不意に声をかけられ少し驚いたが、声の主であるエアリスのいうとおり俺は他のことを考えていた。


「うん……ちょっと考え事をね」

「そう、あんまり一人で抱え込まないでね。いつでもお姉ちゃんに相談するのよ」

「ありがと」


 優しい姉だ。

 無理やり聞き出そうとはせずにこちらのペースに合わせてくれる。

 それでいて才色兼備ときた……完璧か?

 いや、たまに弟のこととなると周りのことが見えなくなることもあるのでそこは欠点であろう。


「それじゃあ、私は騎士団の人に呼ばれてるからあっちに行ってくるね! 寂しくなったら絶対呼ぶのよ!」

「う、うん。いってらしゃい」


 いよいよ冷緑の森へ魔物を間引くためにバレンタイン侯爵邸を出発しようというところである。

 そこで姉のエアリスは同行してきた白薔薇の部隊に呼ばれていたのだ。

 白薔薇の騎士団は女性だけで構成された部隊で主に王女など女の王族の身辺警護をしている。


 そこに姉が呼ばれたのは大方スカウトを含めた交流だろう。

 エアリスはすでにその才覚を発揮しており、学園で行われた武闘大会で最年少優勝を果たしたのは伝説になっている。


「あらあら、お姉ちゃんが居なくなって寂しいのかい? おっぱいしゃぶりたいなら僕のがおすすめだよ?」


 カベイラが面白そうなものを見たと喜々として話しかけてきた。

 一応変装をして探索者エルディアになりきっているようだが、いつもと同じように感じるのは俺だけだろうか? 


「お断りだよ。それより昨日の話のとおりで本当にいいのか?」

「つれないなぁ。まあそうだね昨日のとおりに頼むよ」


 カベイラのいうことには、最近冷緑の森で出現しているグールという魔物はヴァンパイアの仕業だという。

 カベイラ達は人間との共存を望む派閥らしく、人間を殺すほど血を飲むことはない。

 だがそうではないヴァンパイアもいて、カベイラ達はそういう人間を殺すほど血を飲むようなヴァンパイアを粛正して回っているようだ。


 人を殺してしまうとやはりヴァンパイアの痕跡が残ってしまうらしく、人間との間に軋轢を生みかねないのだ。

 ヴァンパイアと人間の殺し合い。

 下手をしたら全面戦争なんてことになりかねないので、数が少ないらしいヴァンパイア側は代償が大きくなってしまうらしいのだ。


 そこで今回。

 冷緑の森にいるであろうヴァンパイア討伐にあたって時期が丁度魔物の間引きと重なってしまい、どうせならこれに参加しながら倒してしまおうという考えに至ったのだ。


 確かにバレにくい森の中で人間側に悟られないように魔物のついでに”何か”を討伐してしまうのは賢いやり方だ。

 そして今回カベイラが俺に対して協力を要請してきた。

 一緒に戦ってほしいということではなく人間サイド。特に白薔薇の騎士団員を遠ざけてほしいとのことだ。


 俺としては特に問題はない。

 白薔薇の騎士団はシャルル様の護衛で付きっきりだろうから難しい注文ではない。

 唯一懸念があるとすればシャルル様がキャンプ地から動くことだがそれは恐らく護衛の人たちが許さないだろう……。


「さあ! 魔物を倒しに行くわよ!」


 バスタル王国王女であるお姫様が鎧を着て剣を掲げた。


「シャルル殿下……まさか森の中を動き回るおつもりですか?」


 まさかと思い聞いてみる。

 一国の王女が魔物の間引きなど行うなど誰も思っていない。

 今回は魔物間引きが終わった後、キャンプ地である湖でシャルル様と合流してバーベキューをするという約束だったはずだ。


「そうよ! だから来たんじゃない?」


 確かに後から合流なら遅れてキャンプ地に入るべきだ。

 間引き組と一緒に行動していることを怪しむべきだった。

 これではカベイラ達がヴァンパイアを討伐している場面に遭遇する可能性が出てきてしまう。


「いくら弱い魔物しかいないといっても危険がないわけではありませんよ?」

「もちろん承知していますわ! お父様からも許可はとってありますから!」


 まさかの国王公認であった。

 一国の王には失礼だが馬鹿ではなかろうか?

 これで何かあったらどう責任をとるのだろう。

 まさか今回の主導者であるバレンタイン侯爵にとか……理不尽すぎる。


 俺は誰か止める者はいないのかと周りを見渡してみるが、驚くべきことに一番止めるべきであろう白薔薇の騎士団とリーゼロッテが隊列を綺麗に組んで待機していた。


「アシム昨日の話聞いていなかったの? シャルル様も一緒に行くって言ってたじゃない」


 確かにそれは聞いていた。

 だが一緒に行くというのはキャンプ地までの話であって、決して間引きへの同行ではないと思っていたのだ。

 最後の望みと思いカベイラのところへ視線を向ける。

 カベイラなら自分たちが動きにくくなる状況を止めようとしてくれるはずだ。


「アシムが守れば大丈夫だろ?」


 コイツ!

 これをわかっていて俺への依頼だったのか!

 簡単なお仕事だと思っていたのが、四十人の騎士団員プラス一姫(いちひめ)の管理任務になってしまった。

 それとなくカベイラことエルディア一行とを引き離すように誘導しなければならなくなったのもまた面倒だ。


 俺はせめてもの抵抗と睨んでやったがカベイラはどこ吹く風状態だった。

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没落貴族は現在カベイラ編となっています。

ゆっくりにはなりますが、確実に更新していきます!

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