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第175話 王女からの呼び出し


 夕食中に家族全員でバレンタイン侯爵領へ行くことを決定したが、食事終わりにアダンから呼び止められた。


「アシム! シャルル殿下から呼び出しの言伝を預かった。明日登城するように」

「シャルル殿下ですか?」


 名指しということは、準男爵としての呼び出しだろうか。


「ああ、内容も聞いている。お前を夏休みの間だけ騎士団員として迎え入れたいようだ」

「騎士団員!? 僕はまだ八歳ですよ?」

「ああ、だから仮ということだな。これは恐らくお前の実力を見込んでのことだ。いい経験になるだろうから、私からは特に断りはい入れなかった」


 父も同じ騎士団ということで入れやすいのだろうか?

 だが、まだ八歳にはいくらなんでも早すぎると思うのだが……。


「あっ!」

「どうした?」


 入学式当日のことを思い出す。


「そういえば、入学式当日に騎士団長のジークフリート様に騎士団に興味はないかと誘いを受けていました。冗談かと思ってましたが、もしかして体験入団のお誘いだったかもしれません」

「すでにジークフリートに誘われていたとはな。どうやら騎士団は本気でお前の入団を考えているらしいな」

「本気……ですか?」


 俺はサルバトーレ家嫡男である。

 爵位は男爵。

 それを考えると、治める領地はないので騎士団員になることはできる。

 むしろ、騎士団員になり、実績を積んで王直属の近衛にまでなれば大出世である。

 その場合は、私兵団を維持する余裕はなくなり、一戦士として己を磨いていくことになる。


「ジークフリートは平民出身で、実力を最重要視する。親の贔屓目なしに見てもお前とエアリスは将来有望だからな」

「姉上も!?」


 アダンの見解によると、俺とエアリス姉さんは騎士団に目をつけれているだろうとのこと。

 副団長であるリーゼロッテが主にシャルル様の護衛を担当しているが、その繋がりもあるだろうと。


 今回姉上ではなく、俺に騎士団の仮入団を打診したのは、女であるというところに配慮しているのではないかということだ。

 騎士団は男性が多く、女性のみ集められた白薔薇の騎士団というものもあるが、そこは実力主義という感じではないらしい。


 むしろ騎士団というものは、貴族の三男四男が集まったような場所であり、ジークフリートのような実力で成り上がった者は少ないようだ。


 それを聞くと面倒そうな集団だなと思ってしまった。


「それですと、叩き上げのお父様やジークフリート団長はあまり好かれていないのでは?」

「はははっ! 奴らはよくも悪くも実力主義を謳っている奴らだ。確かに最初は貴族でもない平民が何をしに来たという目で見られる。だがそれは、貴族は剣術の稽古ができる環境にあるから、ある程度信用できるというところから生じてしまった風習だな」


 アダンの評価だと、実力主義を謳ってはいるが中途半端ということだろうか。

 力を示せれば認められそうではあるが、それでも面倒そうな組織なのは変わりなさそうである。


「殿下直々の打診とはいえ、強制ではない。正式な入団ではないしな。バレンタイン侯爵領で魔物を間引く予定を伝えれば問題はないだろう。ただ、断るにも殿下の元へは行かないといけないぞ?」

「はい。心得ています」


 騎士団への仮入団で給金が出ても、それは侯爵領の間引きには敵わないだろう。

 ここは断る一択だな。


◇◆◇◆◇◆


「私も一緒にいきます」

「へ?」


 シャルル様が変なことを言うので、思わずこちらも変な声を出してしまった。


「なんですかその変な顔は?」

「失礼。しかし、魔物の間引きだよ? 危ないよ?」


 今はシャルル様の部屋の中なので、敬語禁止区域である。

 しかし、シャルル様も一緒に行くと言い出すとは思いもしなかった。


「私も同行するから問題はない」


 背筋がピンと伸び、見事な姿勢でお茶を飲んでいるリーゼロッテが参戦してくる。


「騎士団に夏休みはないんじゃなないの? それに副団長っていう立場の人が忙しくないの?」

「確かに騎士団に夏休みはないが、自由がないわけじゃない。お前の父だって行くんだろ? それに私はシャルル様護衛の任についている。むしろついていかないという選択肢はない!」


 なんだかんだ遊びに行きたいだけのようにも見えるが……まあ、王女が行くと言ったら、準男爵である自分に止める術はないのだが。


「わかりました。僕がどうこう言うことも出来ないしね。バレンタイン侯爵は大変そうだ」

「ふふふ。前から冷緑の森の湖には行ってみたかったのよ! あそこは運がよければユニコーンが現れるっていうじゃない?」


 そうのなのか。

 ユニコーンは是非見たいが、そこは運が良くないと無理なのだろう。

 それよりも、今回は魔物の間引きをしつつ、シャルル様にも気をつけておかなければならない。

 俺たちが戦っている間は屋敷で大人しくしてくれているといいのだが。


「安心しろ、今回の護衛には白薔薇の部隊も連れていく。お前が気を回さなくても済むさ」


 白薔薇の騎士団か……本当面倒なことにならないことを祈るばかりである。

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