第174話 どうやら学校が終わるようです
期末テスト……。
精霊の国から帰ってきた俺に待っていたのは、ろくに勉強する時間も取れない状況でのテストだった。
日本でいうところの小学校低学年程度の内容なので、ほとんど大丈夫だったのだが、どうしてもわからない教科があった。
「歴史は無理だってぇ~」
そう。
日本で学んでいた算数だったり、文字に関してはすぐに覚えることができた。
だが、歴史について新しく暗記しなおすしかなく、勉強しなければならなかった。
他の教科についてはもう学校で学ぶ必要がないほどのレベルではないので、完全に油断していた。
「二か月も勉強してなかったんだから仕方ないよ」
最後のテストを終え、落ち込んでいるとマーシャが励ましに来てくれた。
「そうだけど」
落ち込んでいても仕方ないということはわかっているが、ひそかに狙っていた初等部全教科百点計画が早くも崩れてしまった。
「歴史無理だっていっていましたけど、高得点なのでは?」
マーシャの隣にいるテラも会話に参加してきた。
ちなみにこの二人は全教科百点の可能性が高い。
そもそも簡単なテストなうえに、真面目に勉強をしていたようだ。
貴族家でも家庭教師を雇っていたであろうマーシャはまず間違いないだろう。
「ふっ! アシムよ、心配するな! 俺様は半分しか解けなかったぞ!」
モリトンだ。
学園が始まってすぐ俺に喧嘩を売ってきて返り討ちにしたが、しばらくの間大人しくしていたかと思ったら、俺が復帰した途端馴れ馴れしく絡むようになってきていた。
「半分……モリトンお前もっと頑張れよ」
貴族家は家庭教師を雇って、入学前に勉強をしているはずなのだが。
モリトンは真面目に勉強をしていないのだろう。
かくいう俺も歴史と魔法の勉強以外はほとんど上の空なのだが。
「でもテストも終わったし、明日から夏休みだね!」
マーシャの言葉が教室に伝播したのか、夏休みの話で教室が騒がしくなった。
「アシム君は夏休みどうするの?」
夏休みをどうするかという質問に、腕を組み少し考える。
「僕の家は男爵家とはいえ、色々お金がかかったからね。ハンター業でもやって稼ぐかな」
主に大聖堂建築のせいなのだが、王都にくるまでに貯めていた貯蓄もほとんど使ってしまい、それでも足りなかったので商人から借金もしている。
私兵団を持っている以上、人件費はバカにならないので、少しでも稼がなければならない。
一応私兵団にもある程度稼がせてはいるが、以前のような汚い仕事はさせていないので、鍛錬との兼ね合いで稼ぎが間に合っていない。
その分兵士としての質は高いので、魔物狩りや、他国との戦争となったときは活躍してくれるはずだ。
「ハンターやってたんだ! だからあの遠征の時もテキパキしてたんだね」
ハンターをやっているということは大っぴらには言っていないが、別に隠す必要もない。
「それじゃあアシム君に、稼ぐって意味ではとってもいいお話しがあるんだけど聞く?」
「稼ぐにはいいいお話し? 是非お聞かせ願いたい!」
マーシャは子爵家だ。
稼ぐお話しを持っていてもおかしくはない。
「バレンタイン侯爵領でのお仕事なんだけどね」
「バレンタイン侯爵領? なんでマーシャが侯爵家のところで仕事を?」
以前コーデイル公爵に御呼ばれしたとき話した御仁だ。
娘のアメリアさんも同じ学園に通っているはずだが、まだ見かけたことがない。
「領地が近いからお付き合いがあるの。今、バレンタイン侯爵領にある冷緑の森で魔物が増えていてね、その間引きをするお仕事なんだけど……どうかな?」
領地が近いのか。
アメリアさんとも仲がいいのかもしれないな。
「ちなみに、その冷緑の森は避暑地としても有名で、大きな湖のそばでバーベキューするのがお勧めよ!」
なるほど。
魔物狩りが終わった後は、バーベキューを楽しむこともできるのか。
お金も稼げて、夏休みも満喫できそうなプランではある。
「わかった。もう少し詳しく事情を聴いて、家族に相談してみるよ」
「うん! 来てくれたらアメリア様も喜ぶと思うわ!」
「アメリアさんと仲いいの?」
「そうよ。小さい頃から遊んでもらってて、私にとって姉のような存在なの」
知らない人達でもないので、これを機会に交流を持ってもいいかもしれない。
この後ライアとマイアも行きたいということになり、俺は実家にこの話を持ち帰ることになった。
そして学校が終わり、久しぶりの実家に帰ると、エアリスとアイリスが出迎えてくれた。
「アシム~! お帰り~!」
「お兄様!」
何故か姉のエアリスも甘えて抱き着いてきた。
これでは姉ではなく妹のようだが、久しぶりの家族団欒ということもあり嬉しいのだろう。
家にはたまに帰って来ていたが、そのほとんどは私兵団の運営の相談や、大聖堂建設計画の会議など仕事のようなものだった。
精霊の国に行っていたこともあり、夏休みの計画を話すことができていない。
父であるアダンも夕食前には帰ってきており、家族全員が揃った。
もちろんユーリも一緒に夕食をとるため、五人でテーブルを囲む。
前期にあった出来事をそれぞれ報告する形で団欒が行われ、アダンは小隊の隊長(副団長の下の役職)にまでスピード出世を果たし、エアリスはなんとあのアメリアさんと仲良くなったということだった。
「エアリス姉さん。そのアメリアさんから夏休みのお誘いはなかった?」
「あら、なんでわかったの? 夏休みバレンタイン侯爵領に遊びにこないかって言われたわ。もちろん
家族と過ごす予定だから断ったけど」
姉上は断ったのか……ちょっと言いだしにくいけど、提案はしてみないといけない。
「実は、そのアメリアさんの友人からの誘いなんだけど」
俺は家族みんなでバレンタイン侯爵領へいかないかと誘ってみた。
お金を稼がないといけない状況と、夏休みを家族で楽しく過ごすことを両立した素晴らしいプランだと熱弁したら意外と簡単にみんなの意見が合致した。
「それはいいな! バレンタイン侯爵からは度々お声掛け頂いているから、いい関係を築けそうだ」
「家族で過ごせるなら賛成よ」
「湖で遊びたい!」
サルバトーレ家全員での旅行が決まった瞬間だった。





