第172話 はっきり気づいた
私は馬鹿だ。
激しい後悔の渦が全身を駆け巡るが、どう考えてみても己の浅はかさしか見えてきません。
あの化け物を倒すという選択肢しか頭になかったがために、アシム様をこんな状態にまで追いやってしまいました。
あの時化け物を倒すには自分の全力を出さなければなりませんでした。しかし、その方法をとってしまったがせいでアシム様に無理をさせてしまいました。
戦闘面では問題はなかったそうですが、私が倒れ、その治療をアシム様が行った後に気を失ってしまったと聞きました。
回復魔法など使えないアシム様が行ったことは、私の暴走した魔力を己の魔力でコントロールするという方法でした。
これは精霊王様が話してくれたのですが、他人の魔力をコントロールするなど尋常ではない技術らしく、それに加えアシム様の中にある神聖魔法の魔力と私の中にある光の精霊、クラウディアの魔力の相性は特に悪いらしいのです。
その反動で力尽きてしまったのではないかと言っていました。
ベッドで眠るアシム様を見ていると、胸が締め付けられます。
連日アシム様の元へ通っていると、クラウディアが楽しそうにからかってくるようになりました。
「サリア! アシムはどう?」
「今日も眠ったままですよ」
私の返事を聞いてクラウディアは目を細める。
「それはわかっているわ! 聞きたいのは、眠っているアシムの顔は恰好良かったかってことよ!」
今は容体が安定しているようで、もう何日も経たないうちに目を覚ますだろうと言われていました。
そんなこともあってか、クラウディアの遠慮がなくなってきています。
「ええ、恰好良かったですよ」
「あらあら、最近は素直になっちゃって! でもお姉さん安心したわ! このままサリアちゃんは自分の気持ちを押し隠すのかと思ってたから。それじゃ他の女にあっという間に取られちゃって、泣くんじゃないかって心配だったのよ!」
最初はクラウディアにからかわれて意識しちゃってるからと思っていました。
でも最近はアシム様の顔を見る度にドキドキが止らなくなってしまいます。
好き……。なんだと思います。
アシム様も、私自身もまだまだ子供ではあります。
ですが、貴族様は幼い頃から、早い人は生まれた時から婚約者が決まっているなんて話も耳にします。
アシム様は個人で爵位を頂いた将来有望な方。
ゆくゆくは王城へ招かれ、国政へと関わっていくことになると思います。
準男爵様という、貴族位としては一番下の位ではありますが、同世代の中……いえ、バスタル王国全貴族の嫡子の中では間違いなく一番の実績を誇ります。
考えれば考えるほど、この恋が報われることはないと思ってしまいます。
聖女と教会で担がれてはいますが、結局のところ私は平民。
妾になることは可能かもしれませんが、第一夫人などは無理でしょう。
いえ、聖女という立場を考えるなら、夫以外の人物に操を捧げることはできないでしょう。
そうなると、第二夫人、第三夫人ということになりますが、やはり平民という立場が邪魔してしまいます。
アシム様の凄さを考えると、貴族の間で人気が出ることは間違いありません。
むしろ、現時点ですでに婚約者がいてもおかしくはありません。
よくよく考えてみれば、私は一度サルバトーレ家の屋敷に泊まったことがあるとはいえ、アシム様の周りのことをよく知りません。
アシム様の姉であるエアリス様とは仲良くさせていただいていますが、父であるアダン様でさえ数回お顔を拝見させていただいだだけ。
その時も軽い挨拶程度でしたし、妹様であるアイリスさんに至っては一度もお話ししたことがありません。
どうやら人見知りということで、私がいると出てきてくれないみたいです。
普通ならアダン様が挨拶だけでもと紹介してくれるのでしょうが、サルバトーレ家は忙しい方々が多く、沢山いると聞いている部下の皆さまの姿さえ見えません。
「でもアシム様は貴族ですし……」
「あらあら、好きな人に貴族も平民もないわよ? むしろサリアちゃんは聖女という立場を存分に生かせるじゃない? 貴族にも平民にもない最強の武器だわ!」
「聖女が? でも私はどこまでいっても平民ですよ? 将来有望なアシム様には釣り合わないです」
私の言葉にクラウディアは諭すように話し始めた。
「サリアいい? アシムは確かに凄い優秀よ。だけど今は聖女、神の使いでもあるあなたの方が立場は上よ? つまり、アシムが大出世する前に婚約を取り付けてしまえばいいのよ! それに、アシムは大聖堂も作っているわ、むしろ聖女を妻に迎え入れることは何も不自然じゃないわよ! そして、あなたを妻に迎えたアシムは増々権力を強めていくわ! つまり、立場を考えるならあなた以上の適任者はいないの! あと必要なのは国の中心人物になっていく夫を支え続ける覚悟だけよ!」
クラウディアはいつになく熱く語る。
王国へ帰ったらヴィーナにもからかわれそうだ。
だけど、もし仮に私がアシム様の側にいていいとするなら。
今の私にこれ以上嬉しいことはない。





