第171話 聖炎の代償
「ユーリ殿はみるでない!」
聖女用の神官服を脱がせ始めるとジュミがユーリの目を覆った。
「わかったわかった! 後ろ見てるから目に指を食い込ませようとするな!」
相当強く抑えたようで、ユーリが失明の危機を感じていた。
「ジュミ! 今から神聖魔法を使う。嫌なら離れていてくれ」
精霊が嫌うであろう神聖魔法。魔法、魔力への干渉をするならこれが一番の方法だろう。
神聖魔法がなくとも相手との魔力同調を行うことで干渉することは可能だが、今回は魔法陣という外的要因があるため、魔力同調では難しいだろう。
「大丈夫だ。何かあれば手伝う」
ジュミの覚悟に頷く。もしかしたらジュミと魔力同調を行い、魔力を供給してもらう可能性もある。
ユーリでは魔力量が圧倒的に足りないので、精霊であるジュミの助けがあれば心強い。
「頼む! 止めてくれ!」
サリア様の身体に刻まれた魔法陣が脈を打つように光っている。
肌蹴させた衣服の隙間から覗く白い肌。その上を走っている魔法陣へと黒い魔力を流し込む。
(これは! ヤバイかも!)
サリア様の暴走している魔法陣の魔力を神聖魔法で喰らい尽くす。だが、サリア様の体内の魔力も同時に吸い取ってしまっている。
サリア様の体内魔力はどうにか宿主を守ろうと抵抗しているが、魔法陣の魔力暴走が邪魔をして上手くいっていない。
このままでは魔法陣の魔力を吸い尽くす前にサリア様の魔力が尽きてしまう。魔力が尽きたからといって死ぬわけではないが、確実に身体への負担は大きくなる。
「アシム殿! 何をするのじゃ!」
サリア様の背中へ手を回し、上半身を抱きかかえるような形にするとジュミから困惑の声が上がった。
「魔法陣との接触部分を増やして魔力操作をやりやすくしてるんだ! このままだとサリア様の魔力が暴走に負けてしまう!」
「そ、そうか! いや、だがサリアの魔法陣に触れるということはその素肌に……なんとハレンチな!」
理解はしてくれたようなので今は何も言わない。というか他にかまけている労力が惜しい。今は少しでもサリア様の魔力を上手く操作する必要がある。
「クソッ! 流石に魔法陣の魔力を吸いながらサリア様の魔力を操作するのは難しいか」
魔法陣との接触部分を増やし、暴走している魔力を吸う速度は上がったが同時にサリア様の魔力を操作するのは難しかった。
「魔力を操作? 私にはそんなことはできないが、魔力を流すことはできるぞ?」
最初ジュミのやろうとしていることが分からなかったが、俺の身体に無属性の魔力が流れ込んだ時には理解ができた。
「いいぞ! ジュミそのまま魔力を同じ強さで流してくれ」
魔力を流すという行為をジュミが肩代わりしてくれることで少し余裕ができる。
流石に魔力に指向性を持たせることはできないみたいだが、そこは俺が担当してやる。
そうしてジュミの魔力が魔法陣とサリア様の間に入って壁になるように誘導してやる。
「よし! これで集中できる! ジュミ! 今出してる魔力を維持する感じでお願い!」
形が整えばあとはジュミに維持をしてもらえば俺の必要タスク数が減って、魔法陣の暴走を抑えるのに集中できる。
そしてジュミは頑張って維持をしてくれたので、無事神聖魔法で魔法陣の方の魔力を吸収し尽くせた。
「アシム殿! 大丈夫か!」
疲れが出たのか身体に力が入らなくなり、倒れこんでしまう。ジュミとユーリが駆け寄ってくるのが見えたが、そのまま意識を手放してしまった。
◇◆◇◆◇
「やっと目が覚めたか」
どうやら白いベッドの上に寝かされているようだ。精霊もベッドで寝るんだな。
「アシム様!」
先ほどまで倒れていたはずのサリア様が俺の手をとって額に密着させる。
お祈りを捧げるようなポーズで泣いていた。
「サリア様! どうしたんですか!?」
恐らく倒れた俺のことを心配してくれたのだろうが、少し眠れば治る程度にしては大袈裟な反応に見える。
「アシム様! 心配しました! 一か月も目を覚まさなくて、このまま目を覚まさなかったらどうしようって思ったら私、私」
えっ! 一か月! 確かにサリア様の魔力暴走を止めた後、気をう失うまでは覚えている。
だが、一か月も寝込むほどのダメージだったとは思えないし、化け物を倒したときも呪いをかけられたなどの不測の事態にはなっていなかったはずだ。
「精霊王が一か月治療を続けてくれたんです」
サリア様の後ろから精霊王が現れる。
「ふんっ! サリアに泣かれては困るからな! それに、貴様あの化け物を倒したそうじゃないか。それには俺も感謝している」
なんと。俺を嫌っていたと思っていた精霊王が一か月も治療を続けてくれたようだ。それだけ自分の容態は危なかったのだろうが、いまいちピンこない。
「そ、そうなのか。精霊王様ありがとうございます」
「ふんっ! 礼ならサリアに言うんだな! お前の身の回りの世話を甲斐甲斐しくしていたのはサリアだからな!」
礼を言われ慣れていないのか、精霊王は気恥ずかしそうだ。
「サリア様もありがとうございます!」
「い、いえ! 私がやりたくてしたことなので」
これまたサリア様も下を向いて顔を真っ赤にしている。ちょっと恥ずかしがりすぎのようにも見えるが、それもまた可愛かった。





