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第170話 聖炎

 

 空虚に浮かび上がる札が赤く光りだす。その光が化け物の全身に行き渡ると、欠損部分が瞬く間に再生する。


「解呪できそうか!?」

「まだです! もう少し時間がかかります」


 ジュミのいう呪い札というものは、札そのものが破壊されても再生してしまうという代物らしい。実際化け物の胸骨とともに呪い札を破壊したが、すぐに回復してしまった。

 そして、呪い札の対策として有効なのが解呪の魔法で呪いを解くか、ジュミの師匠が残した巻物のようなもので封印するかの二択なのだそうだ。

 呪い札は常に周囲から魔力を取り込んでいるので、実質永久機関と化している。


 となると、頼りになるのは聖女であるサリア様である。ジュミも呪いを解く忍法を扱えるが、忍法は効力が弱いものが多いらしく、あの化け物には全く効かなかった。


 というか忍法気になる!


「なんだかコイツ段々強くなってないか?」

「倒すたびに魔力が多くなってやがる!」


 化け物は再生するたびに魔力を取り込むのだが、どうやら倒されてもすべての魔力が霧散することはなく、吸収する魔力が一定のため少しずつ膨れ上がっているのだ。


「ユーリ! できるだけ倒さず相手の攻撃を無効化するぞ!」

「無茶いうな!」


 文句を垂れながらも実行してくれるのがユーリという男だ。口だけは悪ぶっているが、誰よりも優しい心の持ち主である。まあ、俺に対しては照れ隠しもあるのだろうけど。


 魔法攻撃だと破壊してしまい再生する度に敵の力が増してしまう。ならば破壊できない物理攻撃で相手の動きを封じればよい。


「ぐっ! コイツ! 力強くなり過ぎだろ!」


 攻撃を受けたユーリは思わず後ろに飛び衝撃をどうにか逃がす。だが、化け物はスピードも上がっており、回避後の無防備な状態のユーリに追撃を行った。


「このっ!」


 俺もどうにかユーリをカバーしようと攻撃するが、化け物の動きを封じるまではいかない。


「ユーリ! 避けろ!」


 必死に叫びユーリを見るが、間に合いそうにない。今いる場所からはどうにか動けそうだが、あとが続きそうにないのだ。

 このままでは恐らく化け物に追いつかれやられてしまう。ターゲットを俺へ変えたいが、化け物はユーリを先に倒しこちらの人数を減らそうとしているようだ。


「仕方ない。使うか」


 イチかバチか。神聖魔法で攻撃をする。呪いに効果があるかわからないが、試すしかない。

 右手に風魔法を左手に神聖魔法を纏わせ神聖魔法が効かなかった時用に破壊も視野に入れる。

 できれば精霊に嫌われている神聖魔法は使いたくなかったが、こうなれば致し方がない。


「ユーリ殿! 私を使うのじゃ!」


 魔法を発動した瞬間にジュミの声が聞こえた。

 ジュミはユーリのもとへ向かい、吸い込まれるように重なった。恐らくジュミがユーリと契約したのだろう。

 そこからユーリの動きが明らかに変わる。化け物に負けていたスピードも各段に上がり、打ち合って負けていた力も化け物を上回る。


「これは、相性抜群じゃないのか?」


 ユーリの攻撃に化け物は防戦一方になる。普通の戦いならばこのまま勝てるのだが、いくら化け物を物理的に圧倒しても意味はない。

 だが、時間は稼げる。この戦いの速さにはついていけるのでユーリとともに足止めを行う。


「アシム様! 準備できました!」


 数分の戦闘の後サリア様の準備が整った。


「なるほど、時間もかかるわけだ」


 ここまで準備がかかってしまったサリア様だが、その姿を見て納得する。


 ――――――身体全体を覆う魔法陣


 今から放つ解呪の魔法を強化するためなのだろうが、その魔法陣は顔や胴体、足と余すところなく張り巡らされていた。

 恐らく服を脱いでまで書いたのだろう、若干衣服が乱れている。


「燦然たる御魂の元に命ずる! 悪を打ち払い常世の闇を焼き尽くせ! 聖炎呪解!」


 詠唱だ。聖女であるサリア様は詠唱と魔法陣がなくても回復魔法が使える。だが、今回は詠唱を使い魔法陣さえも己の身体に用意した。

 ここまでの準備が必要な解呪魔法とは一体どれほどのものなのか……。


 サリア様の放った魔法は炎のように燃え盛っているが、その様には光り輝く魔力が(まとい)、俺の使う神聖魔法とは真逆の印象を受けた。

 俺の神聖魔法が忌み嫌われる闇ならば、サリア様の魔法は世界を照らし出す光。


 光の炎に包まれた化け物は動きを止める。


『キシャャャャャア!』


 甲高い叫び声が断末魔となり身体が溶けていく。最後には呪い札も燃え盛り消えていった。


「やった……のか?」


 あれほどの激戦が1個の魔法にて終焉を迎えた。驚異の再生能力を見せられ、強力な魔法をも有効打にはなりえないほどの化け物。

 それがあっさりと消えてしまうあたり、やはり聖女は別格なのだと認識させられた。


「サリア様!」


 解呪の魔法を撃ち終えたサリア様に目を向けると息苦しそうにしながら座り込んでいた。

 意識が朦朧としているようで、駆け寄って身体を支えてあげると体重をこちらに預けてきた。


「これは……魔法陣が動いてる?」


 いつの間にかジュミとの同化を解いた二人もそばに来ていた。


「魔力が魔法陣の中で暴走してる……しかもそれがサリア様の体内の魔力を刺激して暴走を二次的に引き起こしてるな。このままだと魔力が暴走し続けてしまう」


 魔力暴走が起こっても魔力を放出して魔力枯渇状態になれば自然と治まる。だがサリア様は自分の身体に刻み込んだ魔法陣が蓋となっていしまい、体内の魔力を放出できない状態だ。


「お、おい! なにをしておるのだ!」


 サリア様を治療しようと衣服に手をかけた俺を見てジュミが非難の声を上げる。


「全身に書かれてる魔法陣をどうにかしてみる」


 年端もいかない少女を引ん剝くという鬼畜の所業を今は気にしている場合ではなかった。


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