第167話 四元素の巻物
「よし! 最後の扉が見えてきたよ!」
ここまでカラクリ城を順調に攻略しいよいよ大詰めといったところに差し掛かっていた。
「罠を解除した、先に進んでいいぞ」
ユーリは慣れた手つきでトラップを見破り、無効化している。
魔法で仕込んだトラップだった場合、魔法を使えないユーリに解除は難しかっただろう。
だが、ここのカラクリは今のところ全て物理的なものであり、逆に魔法では解除が難しいものばかりであった。
「ぐぬぬぬ! お主らやりおるではないか!」
ジュミは悔しそうに手ぬぐいを噛んでいる。精霊の国では手ぬぐいは日常的に手に入るのだろうか?
でなければそんなに噛んでは傷んで……まさか千切れるほど噛むとは思わなった! 当の本人もやってしまったという顔で落ち込んでいる。
そんなジュミの様子にみんな気づかないようで、そのまま最後の扉の前に集合している。
「えへへへ。最後の扉私が開けてもいいですか?」
ここまである意味トラップの早期発見にも貢献してきたサリア様が扉の開放権を求めてきた。
皆の顔を伺う限り、またトラップに引っかかるのではないかというような声が聞こえてきそうだ。
だが、俺の考えは違う。確かにユーリが発見できなかったトラップをことごとく踏み抜いてきたじゃじゃ馬ではあるが、逆をいえばトラップに掛かっても大丈夫な人間ではあるのだ。
廊下で巨大な鉄球に追いかけられた時も、剣山の生えた落とし穴を踏み抜いた時も。彼女は運よく回避してきたのだ。
身体能力が高いわけでもなく、冷静に対処しているわけでもないのにだ。彼女は特別な何かを持っているとしか言いようがないと思っている。
ならば! ここは最後の関門になるであろう扉開閉の権利を彼女に渡すのが一番だろう。
「いいですよ」
「おいっ!」
何か言おうとしたユーリを手で制し、サリア様に任せる理由を説明する。
「皆の言いたいことはわかる。サリア様はここまでことごとくトラップを発動させてきた。だけど考えてみて欲しい。あれだけのトラップを発動させておきながら怪我人はゼロだ、それは皆の頑張りもあるかもしれないけど、僕にはそれだけじゃなくサリア様に何か特別なものがあるんじゃないかって思うんだ……聖女だし」
「アシム様! なんか酷い!」
サリア様は少し不満げではあるが、俺が推薦しているということもありプクッと頬を膨らませる程度に終わっている。
「危険とはいえここまで無事対処できたのは事実か。それに聖女の運の良さも目の当たりにしたしな」
ユーリは賛成というより反対はしないという感じだ。
「私は口出しせんぞ!」
ジュミはそもそも意見を言う仲間というより、見守る試験官のような立場なのでどちらでもない。もちろんサリア様は自分で言い出したので答えは決まっている。
「反対意見はないみたいだね。それじゃあサリア様開けていいですよ」
皆の許可を得たサリア様は意気揚々と扉前に出て行った。見た感じどこにも仕掛けはなさそうで、ここまで一度クリアしているであろうジュミの態度から見ても何か起こるとは思えなかった。だが……。
「あれ! あれれれれ!? 開きませんよ!」
最後の扉であろう板は押しても引いてもビクともしないようだ。サリア様は顔を真っ赤にして頑張っているが、一向に開く気配はなかった。
「サリア様、ちょっと代わって頂けますか?」
それを見かねた俺はサリア様に交代を告げる。
「私の力じゃ無理みたいですね。お言葉に甘えさせて頂きます」
どうやらサリア様は扉が重すぎると判断したようだ。それならば、身体強化で力を出せる俺やユーリに任せた方がいいと思ってそうだ。
しかし、俺の予想ではこの扉は女性でも簡単に開けられる仕掛けになっているはずだ。仕掛けというより、そういう元々の作りなのだが……。
扉に手をかけ”横方向へ引いてみる”。
「あはははは! お主引き戸を知らないのだな! なかなか面白い見世物だったぞ!」
最後の扉は問題なく横へスライドし部屋の中が見えるようになった。そう、サリア様は引き戸を押したり引っ張ったりしていたのだ。それでは開かないのは当然である。
ジュミに笑われ、サリア様の顔は真っ赤である。王都に引き戸はほとんどなく、サルバトーレ家に特別に作らせた和室モドキの部屋ぐらいだろう。
だが、以前サルバトーレ家に泊まっていたサリア様はそのことを知っているハズなので、思い至らなかったことを恥ずかしく思っているようだ。
「サリア様、行きますよ!」
サリア様が恥ずかしくて悶えている間にユーリとジュミは中へ入っていってしまっていた。それでもモジモジしていたので、手を取り強引に中へ引きいれる。
「あっ!! はいっ!!」
相変わらず顔が赤いサリア様は中へ入っても顔が赤いままだった。むしろ先ほどより赤みが増しているように思える。
「おい! そこのバカップル! 私が解けない最後のカラクリだぞ!」
先に部屋に入っていたジュミが何やら最後のカラクリを持ってきたようだ。
「巻物?」
「そうだ。この巻物を読んで謎を解かねばならん! しかし私にはさっぱりなのだ」
受け取った巻物を広げてみる。
「これは……」
中には文字が書かれており、大きく”封”と書かれた周りを囲うように絵が描かれていた。
「火、水、風、岩……土か!」
その絵は四属性を表しているようで、巻物に対応した属性魔法を流し込む仕組みのようだ。
試しに少し流してみたが、それぞれの属性を適量かつ同時に流し込む必要があるようで、魔力の波長を合わせないとダメなようだ。
「これは解けないわけだ!」
「何かわかったのか?」
巻物の謎が気になるであろうジュミが喜々として覗き込んでくる。ジュミへ自分の考察を説明してあげる。
内容としては、この巻物は何かを封印しているモノであること。そして、その封印を解くには四属性の魔法を上手く流し込まなければならないこと。そして、四属性の魔法を持っている人はほぼいないため、同時に適量を流し込むことは至難の業であるということ。
「それぞれの属性を持っている四人で流し込むのは無理ということなのか?」
「不可能ではないと思う。だけど、魔力の強さを寸分たがわず調整するのは他人同士である以上相当難易度は高いはずだよ」
大体でいいなら合わせるのも難しくはない。だが、この巻物は寸分違わない精密さで魔力を調整しないといけないようだ。
「では、この巻物を解くのは無理というこのかの」
「はい、解いたよ」
「は!?」
簡単には解けないという封印の解除を諦めようとしていたジュミの口からなんとも間抜けな声が漏れた。





