第164話 神聖魔法と精霊
「この話は有名なんですか?」
クラウディアさんが話してくれた内容は衝撃だった。
神聖魔法をかつて持っていた者の具体的な話だったからだ。
人間の世界では大昔の神話でしか語り継がれない神聖魔法が精霊にとっては数世代前の言い伝えとして残っているのだ。
「いえ、精霊王に近い者だけが知っているわ。精霊全体に話せないほど重要機密ね」
「それを僕たちに話してもいいんですか?」
精霊王に近い重要な役回りにしか知らされない内容なら外部の人間に教えていいわけがない情報だろう。
「いいわ。あなたはこの話を知っておくべきだし、あなたを支える近しい人間もね」
何か見込まれたようだが見当もつかない。
「あなたの魔力は精霊にあまり好かれないわね。この話を知っているからというわけじゃなくて神聖魔法の魔力は精霊にとっては得体のしれない異物みたいなものなのよ。普通の魔力は精霊と同じ性質だから大丈夫なんだけど」
魔力の性質の違い。
神聖魔法は普通の魔法とは使う時の感覚なども違う。
魔法は物理的な反応を示すが神聖魔法は掴みどころのない気持ち悪さは確かにある。
「それにその話を信じるなら僕は神から敵対されるってことですか?」
「残念ながらその可能性は十分にあるわ。神聖魔法を持つ者の居場所を特定されるようなことはないみたいだけど見つかったら殺される可能性は十分にあるでしょうね」
「そうですか」
ここには自分の強化のために精霊を探しに来たが、それは期待できそうにない。
神に出会う話など聞いこともないので多分そこは大丈夫だろうが心配の種ができてしまった。
「あなたは厳しいかもしれないけどお友達はどうかしら?」
クラウディアさんの視線がユーリに向く。それは何か期待をしているような目だった。
「ユーリ? 何かあるんですか?」
視線を向けられた本人は何も気にしていないようだったので代わりに聞いてみる。
「この子魔力を全然感じないわ。ゼロではないけど」
「ユーリは身体強化ぐらいしか魔法を使いません。それが関係しているのでしょうか?」
ユーリは魔法が使えないというわけではないが、一般人に比べてもその素養はとても薄かった。
「この魔力で身体強化が使えるの!? 益々興味が出て来たわ。紹介したい精霊が居るんだけどいいかしら?」
クラウディアさんは少し興奮したような声になった。
「ユーリいいか?」
「ああ」
本人は興味がなさそうだがせっかくの機会なので提案を受けさせてみることにした。
個人的にも魔力の少ない人にあえて紹介したい精霊に興味があった。
「じゃあ案内するわね。少し気難しい性格してるけど気にしないでね!」
連れていかれた場所はそう遠くなくすぐに着いた。
ここも精霊王の住んでいる神木と同じような所だがっサイズが少し小さく、他と違うところとして外に訓練用の木人形がいくつもあった。
「ジュミ!」
クラウディアさんが誰かの名前を呼ぶと案内された神木ではなく、訓練用の人形が置かれた奥側から返事が聞こえた。
「お姉さま!」
出てきたのは少し小さめの女の姿をした子だった。
服装が和服っぽく、腰に小刀を二本下げており足元は足袋を履いていた。
「忍者……?」
「ニンジャ? とはなんですか?」
思わず呟いた言葉にクラウディアさんが反応した。
「ああ! 昔小さな村で出会った人たちが同じような恰好をしていたので。その人達が忍者と名乗っていました」
「何! それはシノビと言われる者のことではないか!? おじい様の言っていたことは本当だったのか!」
つい出た言葉を誤魔化そうと咄嗟に嘘をついてみたがまさか相手がそれを知っているとは思わなかった。
「そのシノビと言われているかわかりませんが、あなたと似たような恰好をしていましたよ」
「本当か! 詳しく聞かせて欲しいのだが!」
ここまで来たら嘘を通そうと思い自分の”記憶”を頼りに話を作る。
しかし詳しい話はできないので断ることにした。
「それは残念ながら出来ないんですよ。その村はもうありませんし、その後どのようになったかもわかりません」
「そうか……。だがお前がその忍者とやらに接触した話は聞かせて貰えるか?」
「ちょっとジュミ! 一方的に話をしないで! この人達は精霊王様公認のお客様よ!」
「そうか! 私の名前はジュミ! その忍者という者に憧れていてな! 失礼した!」
ジュミという精霊は自分の興奮を抑え住処である神木へと招きいれてくれた。
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