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第162話 神殺し(神話時代)

地面に伸びる月明かりがやけに明るく感じる。

その光に照らされてジウン様の顔が闇夜に浮かび上がった。


「そこに座るとよい」


今ジウン様と月がよく見える丘まで来ている。

どうしてこんな場所なのかと疑問に思うがそれを聞いていいような雰囲気ではない。


「ライガ……以前お主にはこの世界の救世主になれると話したのう」


その話は何年か前に聞いていた。

この世界に危機が訪れたときに神聖魔法が世界を救うという予知夢を得ているということだ。


「じゃが他の可能性もあるのじゃ」

「他の?」


まだこの魔法について隠していることがあるということなのだろうか。


「世界を救うという予知夢と同じくこの世界を"破滅”させるという予知夢も出ておるのじゃ」

「え! 破滅っ! だってジウン様はこの魔法を誇れって言ったじゃないか!」

「そうじゃ! ライガよお主の魔法は誇るべき魔法なのじゃ。予知夢でお主の可能性が”二つ”示されたということは世界の命運はお主の行動によって決まるということじゃ!」


今日までジウン様の話を信じて自分の魔法は世界を救うものだと心底信じていた。

しかしこの世界を破滅させるのも自分次第ということを聞いて少なからず動揺していた。


「ライガ! しっかりせんか! 世界の命運を背負うということは基から変わってはおらぬ! ようは自分の心の持ちようじゃ」

「心の持ちよう……?」


ジウン様はすぐに心の揺れを感じて活を入れてくれた。


「そうじゃ! 恐らく世界を救いたいか破滅させるかはお主の取る選択肢次第じゃ。”その時”になったらわかるじゃろう」

「その時?」

「うむ。”神を殺す”その時じゃ」


邪神討伐を依頼され恐らくこれからその討伐へ向かう。そしていざ”その時”になったら自分が迷う何かがあり、その何かを選び取らなければならないのだろう。


「ライガよ、ここまで言っておいてなんじゃが……自分の好きなようにせい。どうせワシらには何が正解かわからぬからな」

「正解がわからない? 世界を救うのが正解じゃないの?」


普通に考えれば邪神を倒して神界大戦を終わらせることで世界が救われるはずだ。


「そうじゃな。その時のお主にしかわからないじゃろ」

「予知夢では破滅の原因はわからないの?」


夢で見たということはその原因もわかるはずと聞いてみる。

それがわかるならば破滅へと向かう選択をせずに済む。


「わからぬ」


ジウン様は無情にも首を振る。


「じゃが予測はできる。破滅へと向かう予知夢の中では何もわからなかったが、世界を救済した予知夢には邪神を倒すお主の姿があったそうじゃ」


その情報は素直にありがたい。

それを基に考えるならばやはり邪神の存在がキーポイントと言えそうだ。


「お主にこのような役割を押し付けてしまいすまぬな」


ジウン様が悲しそうな表情で頭を撫でてきた。

その手の温もりはとても暖かったが、それと同時に震えも伝わってきた。


「大丈夫だよ! 邪神は強いだろうけど、俺のこの魔法は絶対負けないからさ!」

「そうじゃな」


ジウン様は少し表情を崩したがその目の奥にはやはりどこか悲しげな光が宿っていた。

ジウン様がこんなに悲しそうな顔をするということは邪神討伐は簡単なことではないのだろう。

もしかしたら自分の命と引き換えにやっと倒せる相手なのかもしれない。

それならばこの悲しそうな目も理解できる。だが、このために自分の魔法があると信じてきたのだ。今逃げ出してしまったら自分の存在価値を否定してしまうことになる。


「行くのじゃな?」

「うん!」


ジウン様の問いに精一杯の返事をする。


「わかった。なればワシも同行するとしよう」

「え! ジウン様もくるの?」


突然申し出に驚く。邪心討伐には神聖魔法が使える自分と案内役の神が行くものと思っていたからだ。


「そうじゃ。邪神を倒すことはできないが、その道中お主を全力でサポートするのじゃ」

「それは心強いけど、危ないよね? 世界がこんな風になっちゃうような戦いをする相手だよ? 死んじゃうよ?」


この問いに対してもやはり目の奥の悲しみを宿したまま答えてくれる。


「やはりお主は死ぬ覚悟があったようじゃな。じゃが心配せんでもいい、神聖魔法を持つお主を邪神は殺せぬ。予知夢でもお主は生きて立っておったそうじゃからな」

「そうなんだ! じゃあ大丈夫だね!」


生きて帰ってこれるという話を聞いて安心できた。邪神を討伐できると聞いてはいても簡単にはいかないだろうなと思っていた。

場合によってはこちらの命をつぎ込んでやっと倒せる相手だと予想していたのだ。


「ああ……大丈夫じゃ」


再びジウン様の掌が頭に触れ、その温もりが体全体に伝わる。

しかしその温かさにはなんとなくごめんなさいと謝っているような感情も込められているような気がした。



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