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第161話 来訪者(神話時代)

ジウン様と話をした後少し気が楽になった。

俺の魔法はまだまだ未知数らしく、来るであろう神々の戦いで滅ぶこの世界を救えるということだ。

スケールの大きな話ではあるが、ジウン様から聞く言葉に嘘は感じなかった。


それから数十年後、ジウン様の言っていた神界大戦が本当に起こってしまった。

精霊や人間のいる世界で戦うわけではないらしく、神界という場所で戦争が起こっていてその余波が押し寄せてきている。

 魔物の活性化や大地の揺れにより被害が出た場所が多発し特に人間の住処は酷い有様のようだ。


「ライガ! 精霊王様がお呼びだ」


精霊王の使いが俺に声を掛けてきた。最近は名のある精霊達を集めては会議を開いていたみたいだが、まさか若造である自分が呼ばれるとは思ってもみなかった。


「精霊王様が俺に?」

「そういってるだろ! さっさとこい!」


使いの者は露骨に嫌そうな態度を見せている。コイツは以前から俺のことを嫌う一人で、昔は虐めのようなこともやっていた。

 しかしいつからかそういったことをパタリとやめて改心したのかと思ったが、精霊王の使いになってからはまた似たような態度を取るようになった。

 おそらく外聞をよくして精霊王の使いになろうとしていたのだろう。目的を達成したら元通りというわけだ。


そんなやつについていくと、会議が行われている部屋の前にたどり着いた。使いの者が扉をノックすると中から入るように声が掛った。


「ライガか! 挨拶はいい、そこに座ってまずは話を聞け」


精霊王様は焦っているのか、いつのもの挨拶は省略してさっそく本題に入った。

集まっている他の精霊達も同じ状態なのか、こちらの礼儀など気にしていない様子だった。


「それでは私から説明をさせていただきます」


精霊王の側近が説明してくれるようだ。近くには補佐官のミシャも控えている。


「神界大戦が現在勃発していることはご存じだと思います」


この説明は他の精霊は一度聞いているようで、俺個人に語り掛けるような形だ。


「その影響により私達の住まう大地は多大な影響を受け、被害が広がってきています。このままでは神木達にも何かしらの被害が出るかと思われます」


誰なのかわからないが、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。この神木は精霊にとっては親みたいなものでそれが無くなってしまえば今後精霊は一切生まれなくなってしまう。


「しかしながら我々にできる対策はほとんどなく、被害を最小限に抑えつつ神界大戦の終了を待つほかありません」


つまり、神々が争いをやめない限り被害は出続けるということだ。


「そんな……神界大戦がいつ終わるかなんてわからないじゃないか」


小さい呟きだったが、補佐官のみが喋るこの会議室では大きく響いた。


「そうです。神界大戦はいつ終わるか予測がつきません。現に神界大戦は何千年も前から起こっており、近年は一時的に停止していただけに過ぎません」


最近までは神界大戦は終わったものだと認識されていたが、今回の件でまだ終わっていなかったことが判明したのだ。


「そして先ほどの会議で今回の大戦についての対策が決定されました」

「対策?」


他の世界の戦争を解決できる案でもあるのだろうか?

しかし相手は神、そう簡単にどうこうできる相手ではない。


「実は今回直接神と名乗る者が来訪しました」

「神!」


やはり他の面々は反応がなく、この空間で何も知らないのは自分だけのようだ。

 側近がミシャへ目配せを送ると機敏な足取りでどこかへ向かった。しばらくするとミシャが誰かを連れて戻ってきた。


「アガルタからやって参りました、戦を司るローウェンと申します。この度は精霊の皆様の力をお借り致したく参りました」


ミシャが連れてきた人物はローウェンと名乗り深々とお辞儀をした。

神とはこの世界の創造神であり、絶対的な力を持っている。そのことをジウン様から聞いていたので、先入観になってしまうがもっと尊大な態度を取ってくるような存在だと思っていた。


しかし今目の前にいる神と名乗る人のような存在は、まるでこちらに助けてもらいたいというような態度で頭を下げている。

 自分の想像と真逆の姿を見て一瞬固まってしまったが相手はこの世界の生みの親、何も喋らないのは失礼かと話しかけてみる。


「精霊に何かできるのですか?」


言葉を放った瞬間、その場にいた全員の視線が一斉に自分に向けられた。


「はい。神聖魔法使いの精霊ライガ様! あなた様に邪神討伐をお願いしたいのです」

「……」


ローウェン様の言葉がはじめ理解ができなかった。邪神とは、その名の通り神なのだ。

 それを自分に討伐してくれと言ってきている。わけがわからなくなっても仕方がないと思うのだ。


「ライガ! 以前話したじゃろう。滅ぶこの世界を救うのはお前じゃと」


何も反応できないでいると会議に参加していたジウン様が話しかけてきた。


「おお! 事前に話が通っているならありがたい! とはいえ心の準備も必要だろう。ライガには落ち着く時間を与え、詳しい説明はジウン殿に頼みたいがよろしいか?」

「承知した」


こちらの様子を見かねて精霊王がこの場を切り上げてくれ、ジウン様と一緒に退室することとなった。



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