第158話 嫌われ者
「精霊に嫌われている? 僕何かやりましたか?」
ここにくるまでに何か嫌われるようなことをしてしまったのだろうか、もしくはサリア様は精霊の間でアイドル的な存在で、妬まれているのだろうか。
「いえ、あなたが何かをやったというよりは、あなたから感じる魔力が問題ね」
「僕の魔力?」
精霊に嫌われる魔力があるのだろうか。それが理由ならばどうしようもないと思うのだが……。
「ええ、といってもギルの嫌い方はサリアのことが大部分でしょうけど。でもあなたは精霊と契約がしたいのでしょう? それだと”その”魔力では厳しいわね」
「僕の魔力は他の人と違うんですか?」
風魔法や身体強化魔法をよく使っているが、特別な何かを感じたことはない。魔法の威力はまだ勝ってはいるが、妹のアイリスの方が魔法制御においては上だし、身体強化を使って姉のエアリスと互角に打ち合えるといった程度の才能だ。
クラスメイトと比べれば勿論飛びぬけているとは思うが、騎士団長や父であるアダンを見ているのでまだまだ上は存在することを知っている。
「ええ、あなた何か特別な力を持っていない? 例えばここに来るときに見送りにいたあの王女様のような」
「特別な力……」
そういえばシャルル様も固有魔法を持っている。
そして自分も固有魔法なのかわからないが、神聖魔法という未だによくわかっていない力を持っているのだ。
「その顔だと図星のようね。言わなくていいわよ、お姉さんが少し傷つくだけだから」
「それを言われると……」
クラウディアはこちらを見つめてくる。
神聖魔法はかつて神をも殺した魔法だと言い伝えられている。そんな物騒な魔法を持っていますとは軽々しく言えない。
「言いにくいのはわかるわ。だったら私が当ててあげましょうか? というよりも精霊に隠す意味はないわよ、その魔力神聖魔法でしょ?」
「わかっていたのですか?」
完全にバレているみたいだったので観念して喋ることにした。
「確かに僕は普通の魔法以外に神聖魔法という力を持っています。この魔法は直接相手に触れるだけで魂に干渉する危険なものなのであまり人には言えないんです」
簡単に説明をすると、初耳だったサリア様が驚いて口が開きっぱなしになる以外反応がなかった。クラウディアはやはりといった感じだった。
「そうね、とても危険な魔法だわ。でもあなたの神聖魔法の魔力はある程度コントロールされているわ。魂を”焼き尽くす”相手を選べるんじゃない?」
「そこまでわかりますか」
精霊に魔法では敵わないようだ。相手の魔力が読み取れるうえに使える効果まで言い当てられるとは、人間に理解できる範疇をゆうに超えている。
「そんなに驚いた顔をしないでも大丈夫よ。確かに精霊は魔力に敏感だけれど、相手の使える魔法まではわからないわ」
「では何故僕の魔法がわかったのでしょうか?」
神聖魔法であることは看破されてもなんとなくわかるが、効力の及ぶ相手まで選べるという詳細な情報まで読み取っているのだ。
「その魔法を知っているからよ。神聖魔法はとある精霊が司っていた魔法なの」
「司っていた? 精霊が……」
「そう、精霊というのはそれぞれ属性を司っているの。火の精霊は火の魔法を、光の精霊は光の属性を。まあ、簡単にいうとそれぞれに差はあるけどその属性に特化した魔力を持っているの」
火の精霊は火の魔法にしか変換できない魔力を持っているということなのだろう。なので、いくらクラウディアが凄い精霊でも他の属性魔法を扱うことはできないのだ。
「精霊は生まれながらに決まった属性なのだけど、稀に属性魔法とは違った精霊が現れるの」
「精霊に親とかはいないんですか?」
話の本筋からは逸れてしまうが、精霊の誕生秘話について気になってしまった。
「精霊に親はいないわ。全ての精霊は神樹から生まれ出るの。言い方はよく聞こえないでしょうけど、精霊とは世界が使わなかった魔力の残り物なの」
世界が使わなかった残り物……。この世界の原動力は魔力ということなのだろうか。いずれにしても精霊は何か凄い秘密を持っていそうだ。
「でも、クラウディアさんや他の精霊たちは意思を持っていますよね? とても魔力の残り物とは思えないんですけど」
「そうかしら? 私たちにとってはこれが普通なのよ。残った魔力が固まり、そこに意思が宿ると精霊の誕生よ」
精霊自身がわからないならこの疑問は一生わからないかもしれない。頭のいい研究者が調べればわかるのかもしれないが、現状精霊は人間と積極的に交流をしているわけではないのでそれは難しいだろう。
「話を戻すけど、あなたの魔力と同じ精霊は神聖の精霊と言われていたわ。その当時はまだどんな魔法なのかわからず、そして他の精霊の魔法に興味を持つ者も少なかったわ」
どれぐらい昔の話なのかわからないが、もしかしたら神話時代の重要な話しなんじゃないかと感じた。





