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第156話 訪問

 学園が始まり二か月が過ぎた頃の週末、ついに精霊王との対面を果たす。

 このことは王族は知っているようで、出発前にお忍びでシャルル様が訪問してきた。

 実はシャルル様も以前精霊王に謁見されているようで、その時の話を聞かせに来てくれたのだ。


 精霊王に会うとその人の魔力を見られ精霊との相性を計ってくれるそうなのだが、シャルル様は固有魔法との相性が良くないらしく、パートナーとなってくれる精霊はいなかったそうだ。


 一国の姫といえども相性が悪いとどうしようもないらしく、泣く泣く諦めたらしい。

 その時のことを話すシャルル様は本当に残念そうで、今でも心残りがあるといった感じだ。


 その時の話を思い出しながら精霊王の住まう城へと入る。

 ここまでくるのに光の精霊が作った道らしきものを通ってきたので、自分一人で再度訪問をしようとしても精霊の国がどこにあるかわからないので無理だ。


「立派な木だ」

「ふふっ、これは神木で、精霊達から漏れ出る精気を吸って育っているんですよ?」


 それは城というよりバカデカい大木で、少し緑色に発光しており何とも神秘的な光景を作り出していた。


「精気を吸われて精霊は平気なんですか?」

「はい! むしろ余分な精気があると体調が悪くなるので、神木の近くに住んでいる精霊はいつでも元気なんですよ!」


 神木は精霊に深く関わっているようだ。もし人間がこの神木に目をつけてなにかしようとすれば、タダでは済まないだろう。


 精霊王への謁見に向かっているが特に案内などはなく、サリア様が先導をしている。

 神秘的な光を放つ神木の中を通るという貴重な体験をしているのだが、その光景が現実のものとして実感できないでいた。


「不思議な感じですね」


 案内がいない代わりにいつも通り雑談をしながら気を紛らわせるのはありがたかったが、ここにくるまで精霊らしきものを見なかったのは少し不安になる。


「神木はこの世界の中心と言ってもいいものですからね。川や植物、あらゆる自然のものは神木がなければ枯れてしまうそうですよ?」

「結構重要な情報ですね。人間はそれを知らないのでは?」


 自分たちの住む世界のエネルギーがどこからきたのかなんて知らない人がほとんどだろう。生まれた時から当たり前にあるものだと認識しているのが普通だ。


「知って人間がどうこうできるものではないですからね。神木は力強く根付いていて、切り倒すどころか、表面を削り取ることすらできないほど丈夫なんですよ?」

「もしかして、削ろうとしたことがあるんですか?」


 まるで体験したかのような話し方だったので、まさかとは思いつつ聞いてみたらサリア様は悪戯っぽく笑いこちらに振り向きながら答えた。


「ありますよ? 多分今日アシム様も体験なさると思います」

「え! 神木って傷つけてもいいの? いくら丈夫だからってそういう行為は罰当たりとか言われないんですか?」


 自分の感覚での考えになってしまうが、大事にしているもの、それも世界の中心であると言われる神木に傷つけるような行為は何か罰が当たりそうで怖いのだが……。


「大丈夫ですよ。むしろ削りとれる人は神木に選ばれし守護者として認められるそうですよ?」

「神木に守護者がいるんだ」


 世界の根幹に関わる神木だけに、自衛のために選ばれるのかもしれない。


「昔はいたそうです。現在は精霊王でも神木への干渉はできないそうです」

「昔……それはどれくらい前なんですか?」

「精霊王がいうには、かれこれ千年はいないだろうと言ってました」


 千年……家にある本や家庭での勉強でそこまでの情報はなかった。歴史の勉強ではせいぜい五百年前の文字が書かれた古文書が見つかったぐらいで、記録にきちんと残っているのは三百年前までだ。

 その五百年前の古文書も本物か怪しいらしく、現在も研究中とのことだ。


「着きましたよ」

「着いた?」


 サリア様が到着の言葉を告げたが、それらしい扉はなく、神木の壁面が続くばかりであった。


「少しお待ちくださいね」


 サリア様は何もなさそうな壁に向かって手をかざす。

 呪文などを唱えたわけではないが、触れた部分の光が徐々に強くなり左右に開かれていくのがわかった。


「どうぞ」

「え?」


 驚きの光景だが、着いたということはここが精霊王のいる玉座のある部屋である可能性は高い。

 案内がないとはいえ、入室の許可ももらっていないのに入るのは少し抵抗があった。


「大丈夫ですよ。事前に精霊王からは許可貰ってますから」

「わ、わかりました」


 サリア様は本当に気に入られているらしい。サリア様に出会えたことは本当に幸運だったのかもしれない。

 自分一人では間違いなく精霊王への謁見など叶わなかったはずなのだから。


「サリア! ますますいい女になってるじゃないか! どうだ俺の(もの)になる決心はついたか?」

「なりません! この方が今回私を救ってくれたアシム・サルバトーレ様です」


 精霊王の誘いをサラッと断り仲を取り持ってくれる。


「はじめまして。バスタル王国準男爵、アシム・サルバトーレと申します」


 以前国王と謁見した時と同じく膝をつき礼をとる。


「お前がアシム・サルバトーレ……気に入らないな」


 どうやら精霊王に嫌われてしまったようだ。

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