第150話 お友達
「ユーリ! 昨日のこと覚えてるか?」
「昨日? 教会のババアをとっ捕まえたことか?」
カベイラたちに襲撃されたことは覚えていないようだ。
記憶を消すと言っていたので、どこまでの記憶が無くなっているのか確かめる必要があった。
「やっぱりか。実はカトリーナを倒したあと俺たちは別の奴らに襲われたんだ」
「別の奴ら……カトリーナを倒したあとの記憶が無いのと関係あるのか?」
「ああ、お前とサリア様は気が付いたら気を失っていたよ」
実際カベイラに気づいたときはユーリたちは捕まえられていた。
記憶を消すといってもほんの少しの量だっただろう。
「そいつらは……”お前”より強いのか?」
聞かなくともわかっているだろうが、納得ができないといったところだろうか。
「強い! 間違いなく。どうにか見逃しもらえたが、今の状態で敵対したら確実に負ける」
「……」
サルバトーレという最強の血筋を経験したユーリにとっては信じ難いことなのだろう、沈黙をしてしまった。
「強くなるぞ」
「何?」
「だから! 誰にも負けないぐらい強くなるぞ!」
「お前、親父にも勝てないくせにどうやって強くなるんだよ!」
アダンには剣術の指導を今でもみてもらう時があるが、やはり勝てない。
現状では最高の師であることは間違いないのだが、カベイラを見てしまったら物足りなく感じてしまう。
「父上とカベイラの強さは別だ」
「カベイラ?」
「ああ、今回負けた相手の名前だよ」
父であるアダンの強さは技術的な強さだ。
剣の扱い方や、体の使い方そういったもので相手を圧倒する。
もちろん身体能力も飛び抜けてはいるが、主に技術的な部分が特徴的なのだ。
それに比べカベイラは圧倒的なパワーにスピード。ガードも間に合わなければ受け止められないし、回避も間に合わなければ意味がない。
「技術では負けていないはずだ」
こちらが一撃を入れられたのもその部分が大きいだろう。
だがこちらの攻撃が当たってもダメージはほとんどなかった。
「パワーやスピードの強化が必要だ」
「そりゃ必要だろうさ。でも今までもやってただろ?」
そう、サルバトーレの鍛錬は基礎部分もしっかりしている。
これを続けるだけでも十分伸びるはずである。
「もっと強くなる方法を使うだけさ」
「そんな簡単に……まさか鍛錬を今の倍に増やすとか言うなよ?」
「それだけじゃないさ! もちろん違う方法も考えてるよ!」
「ちょっとまて! それだけじゃないってどういう意味だ?」
「精霊っているだろ? それと契約できたらいいなって思ってるんだ」
以前モリトンと戦った時に精霊の強さは感じた。
あれもヴァンパイアたちと同じような”力”という部類の強さにつながると思っている。
「精霊! アテはあるのか? というかそれだけじゃないって、鍛錬増やすって意味だよな?」
「アテがないわけじゃないけど……」
それだけ言うと扉を叩く音が聞こえた。
「誰だろう?」
「おいっ! それだけじゃないの意味を教えろ!」
ユーリが何か言っているが、今は来客が優先である。
「どうぞ!」
入室の許可を与えると、扉のノブが回りはじかれるように開いた。
「アシム~!」
「あ! 姉上!」
現れた人物は抱き着いてきたエアリスと……。
「すみません。外でお話が聞こえたので……」
聖女サリアだった。
「どこから聞いてたの?」
「精霊と契約をしたいというのが聞こえまして」
「精霊……知ってるの?」
思わぬ横やりだが、何か情報が得られるならばラッキーかもしれない。
「はい」
サリア様はエアリスとユーリを一瞥して話始める。
「聖女という人は普通の人よりも回復魔法に適性があります」
「そうなんだ。だから色々治せるんですね」
「はい。その適正が高いことには理由があるんです」
そこでまた言葉を切って喉が動く。
「聖女は精霊とお友達なんです!」
「はい?」
思わず聞き返してしまった。
「だから! 私は精霊とお友達なんです!」
一瞬の静寂が室内を覆いつくした。





