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第148話 深い夜

意識が覚醒するのを感じ目が開いて周囲に色が戻ってくる。


どうやらベッドの上に三人で寝かされているようだ。

横にサリア様とユーリが胸を上下に動かし寝息を立てている。


「目が覚めたかね?」


車いすに座っている老人が話しかけてきた。


「教皇様?」

「まだ眠っていてもいいのだよ? お主はここに連れてこられて左程時間が経っていないからのう」

「あ、そういえば! カトリーナはどうなりましたか? それとここに僕たちを運んだのって……」


教皇様は手をかざしこちらの言葉を止める。


「カトリーナは連れていかれたのう。お主たちを運んだのは銀髪の女と、男だったのう」

「そう……ですか」


段々と記憶が蘇ってくる。

ヴァンパイアのカベイラに負けて、最後は力尽きて気を失ってしまったらしい。

約束通りサリア様とユーリは無事なようだが、カベイラの言う通りなら二人の記憶が心配だ。

消すと言っていたのでここ数時間の記憶なのか、数日の記憶なのか、もしかしたら全てかもしれない。


「教皇様は大丈夫なんですか?」


教皇様は病み上がりの状態で、体力が戻っていないはずだ。


「心配はいらんよ。目が覚めてしまってな、少し月明かりを見ていただけじゃ」


ここは教皇様の部屋のようで、俺たちがベッドを独占しているような状態だった。


「でもベッドが」

「大丈夫じゃ。眠たくなったら別の部屋で眠るからのう。それにお主たちをここに寝かせるように言ったのはワシじゃ」


そういうのならば大丈夫なのだろう。

カトリーナはヴァンパイアたちが連れ帰ったのだろう。

これでこちらに干渉しなくなればこちらとしては文句はない。


「お主には礼を言わないといけないのう」

「お礼なんてそんな。サリア様を助けたかっただけです」

「そうじゃなサリアを助けてくれて本当に感謝しておる。この通りじゃ!」


教皇様が座ったまま深いお辞儀をする。


「頭を上げてください! それに今回は大聖堂を建てる栄誉も貰えたので、僕も感謝しているんですよ?」


大聖堂計画は、信者の多いこの国にとって重要なプロジェクトになることは容易に想像できる。

そこの中心人物としての貢献度は、国民並び国王様からの高い評価を得られるだろう。


「大聖堂か……それも真にありがたいのじゃが、サリアはワシの娘のようなものじゃ。この娘を危険な目に遭わせてしまった。それを救ってくれたお主には感謝してもしきれんよ」

「サリア様のこと知ってるんですか?」


教皇様は意識が戻って一日も経っていない。

なので、サリア様が襲われたことなど知らないはずなのだが。


「あの娘はワシとずっと一緒におったからのう。カトリーナに謀られたと悟ったときはもう遅かったのじゃよ」


意識が混濁する中で考えたのだろうか。

身体が動かないうえに、大事な娘が危ない目に遭っていると考えると相当辛いものがあっただろう。


「そうなんですね」

「もう何もできないと思っていたが、お主がそれを覆してくれたのじゃ。この御恩は返させておくれ」

「わかりました! 素直に受けさせていただきます!」

「感謝する。ではもう休むといい、夜もまだ深いしの」


サリア様とユーリが気になるが気持ちよさそうに眠っているので、そのまま朝まで寝かしてもいいかと思った。


「わかりました。隣の部屋まで送りますね」


この部屋では教皇様は眠れないので、車いすを引いて隣の部屋へ移動させる。

ベッドへ寝かせて部屋を出る時にぼそりと教皇様が呟いたのが聞こえた。


「サリアを……頼む」


扉の閉まる音が長い廊下に響いて消えた。

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