第146話 夜の隣人
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大きな木々が植えられた庭にガラスの破片が飛び散る。
カトリーナに蹴られた勢いで窓を突き破り、外に飛ばされたのだ。
「ゴホッ! ゴホッ!」
普通の人間の蹴りならば衝撃を殺してダメージを軽減できるが、今回は碌に軽減をできずに喰らってしまった。
「あら、まだ生きてたの?」
「ッ!」
こちらを休ませるつもりはないらしく、今度は顔面に足が飛んでくる。
どうにか身体強化魔法を発動させ腕を潜り込ませることに成功するが、ガード上からの衝撃馬鹿にならない強さであった。
「このっ!」
父親以上のスピードで迫りくるカトリーナを魔法とのコンビネーションでどうにか捌く。
風魔法を纏っているため接触した部分のカトリーナの衣服が破れ、肌に傷をつけていくが気にした様子はなかった。
「なんでついてこれるのかしら!」
カトリーナは自信があったのだろう、こちらが攻撃を捌けるのに苛立ちを見せた。
「鍛えてるんでね!」
「下等種族が! 這いずり回って死ね!」
重い蹴りのあと鋭い拳が飛んでくる。
なんとか避けることはできるが、カトリーナの攻撃が苛烈すぎて反撃に移れないでいた。
「アシム様!」
突如建物の陰からサリア様が飛び出してきた。
「来るな!」
この戦いの余波に巻き込まれたらただでは済まないだろう。
ユーリですらサポートに入れない状況なのだ。
「クソ聖女!」
サリア様の存在を認知したカトリーナが突如方向転換を行った。
「それは! 舐め過ぎでしょ!」
こちらを振り切れる自信があったのか、無防備な背中が晒される。
今まで防衛に振っていたリソースを攻撃へシフトする。
風魔法で推進力を増幅し右手に風魔法、左手に神聖魔法を携え物理と魂を破壊しにかかる。
一気に加速をして初速で圧倒する。
先ほどまで速さで負けていたとは思えないスピードで左右と拳を叩き込む。
「っ!」
声にならない声を上げカトリーナが吹き飛ぶ。
サリア様には危ないので来てほしくなかったが、正直こちらから意識を外してくれたのは助かった。
カトリーナの攻撃は技術はないものの、単純に威力と速さが桁違いだった。
なので、下手に攻撃をもらわないために防御へ全リソースを割かなければならなかった。
半分賭けみたいなものだったが、日ごろから身体強化と風魔法のコンボを体に染み込ませていて良かった。
そのおかげでほぼノータイムで加速でき、一瞬だがカトリーナの速さを上回ることができた。
壁に衝突し崩れ落ちたカトリーナに追撃を加えようと踏み込もうとした瞬間……。
「やぁやぁ。君凄いね、人間なのにヴァンパイアと対等に戦えるなんて」
塀の上、カトリーナの頭上に人影が現れた。
「誰だ!」
気配を全く感じなかった。
相当な実力者なのだろう。
しかし、それよりも……。
「羽が気になるかい? 確か人間の中ではカトリーナって名乗ってたっけ? そいつと同じ羽だってね」
「……」
確かに気になるがそれよりも今現れた人物が敵か味方かの方が重要だった。
正直カトリーナ並みの強さの敵が増えれば逃げるのも難しくなる。
「安心しなよ! 僕はコイツを追ってきたんだ。つまり君たちの敵じゃないってことさ」
「カトリーナをどうするつもりだ?」
敵ではないと言われて警戒を解けるような相手ではなかった。
「コイツは僕たちの掟を破ってね。まあ人間に過度に干渉するなって掟なんだけどさ。だから処分しに来たんだよ」
「理解した。お前たちは人間ではなく、別の種族で人間に過度に干渉しない。そして掟を破った者には罰を与えて情報を隠すといった手法を取っている。つまり人間に敵対するつもりも、味方になるつもりもない組織ということか?」
「アハハハ! 結構優秀じゃないか! 君の言うとおり人間の敵にも味方にもなるつもりはないよ。組織と言われたのは初めてだけど、結構的確かもね」
何かを待っているのか、こちらの話に付き合ってくれるようだ。
「ヴァンパイアとはなんだ?」
「その質問には答えられないな。君たち人間はなんだと言われたら答えられないだろ? 僕たちは僕たちでしかないのさ!」
確かに、人間の立場からしたらヴァンパイアはどういった生態をしているのか聞きたいが、ヴァンパイア側からしたら自分たちの生態を説明するのも変だ。
「そうかもな。人間との違いと聞いたら答えてくれるのか?」
「無理だね! 答える義理がないよ」
「そうか……それで、そんなに仲間を集めて何をするつもりだ?」
周りは完全に取り囲まれていた。
気づいていたものの、逃げることはできないことはわかっていた。
「そんなに警戒しないでくれよ。これから君たちの記憶を消すだけさ!」
「きゃあっ!」
後ろでサリア様とユーリが捕まる。
「クソッ!」
ユーリは頭を捕まれ何かの魔法を行使されたように見えた。
「安心しなよ。きれいさっぱり忘れたら何もしないからさ」
サリア様も記憶を消されたのだろう、意識を失いぐったりしている。
「最後は君の番だけど抵抗してみるかい? なかなか強そうだし、僕を楽しませてくれたら記憶を残してあげてもいいけど?」
「カベイラ様!」
「いいんだよ! それに、この子は信用できそうだ」
「信用?」
何か信頼を得られる行動でもしていたのだろうか。
塀の上のヴァンパイアが不意に立ち上がる。月明かりがその肢体を照らし出し、妖艶な瞳と男を虜にするであろうシルエットが地面に浮かび上がる。
「君は計算高い。今もその頭の中は面白いことを考えていそうだ! そして君は僕たちと敵対することを無謀だと考えている。だから君はこちらを怒らせるようなことはしないと信じているのさ!」
図星だった。
この女ヴァンパイアに気に入られれば悪いようにはされないと思っていた。
しかしそれとは反対に、敵対するならどうするかも考えていた。
「どうだい? 僕は君と戦ってみたいなぁ」
ショートボブに切りそろえられた銀髪を耳に掛けながらこちらを誘ってくる。
「構えろ!」
戦闘の意志を伝えるとヴァンパイアは満面の笑みを浮かべた。
「いいねぇ! 真祖である僕と戦えることを喜び給え!」
ヴァンパイアの真祖は、チャイナドレスのようにタイトなドレスで地面に降り立った。
「さぁ、始めようか!」
――――――妖艶な笑みを浮かべて





