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第142話 大きな釣り餌

カトリーナをカトリーヌと書いてしまう。

誤字報告ありがとうございます!

「本日はこのような場を設けていただきありがとうございます」


修道服のカトリーナがシャルルに対して礼を述べる。


「こちらこそ、バスタル王国で初めての大聖堂建設ということで嬉しい限りです」

「それも、アシム様の働きが大きいと聞いておりますわ」


シャルル姫と話すカトリーナは上機嫌のようだ。

それもそのはず、国で初めての大聖堂建設の主導者として名を刻めるのだ。教皇への道も確実なものになったと思うだろう。


しかし、これも教皇様に会うための布石に過ぎない。

こちらの最大権力者、シャルル姫を召還するためには国を巻き込むほどの事業が必要だった。

そこで教会をつくるなら国一番のものにしようと提案し、大聖堂建築計画が立ち上がったのだ。


出資は国の負担が多いがサルバトーレ家も多くの部分を負担しており、実務はサルバトーレ家と教会で行うことになった。


「教会を作ることは国民のためにもなります。大聖堂という立派な教会ができることで、神への祈りもよりいいものになるでしょう」

「ありがたきお言葉ですわ」


今日は挨拶程度の予定だが、こちらとしては本題はここからである。 


「そういえば、教会について気になることがあるのですけど……」


シャルル姫の言葉にカトリーナの表情がわずかに固くなるのを見逃さなかった。


「なんなりとお聞きください。今回の件で憂いがあってはいけませんから」

「憂い……というよりも個人的な興味なのですが、教皇様の体調が優れないというお話を聞きました」


事前に準備していたのか、カトリーナは表情を崩さず答える。


「ええ、最近は食べるのも辛いらしく、教会の回復魔法を使えるシスターがつきっきりで看病をしていますわ」

「それは心配ですね」

「教会の行える治療を全て動員しておりますので、必ず治してみせますわ」


心にもないことを聞いてシャルル姫はさらに神妙な顔つきになる。


「教皇様に面会をすることはできますか? 王城にいる回復術師が同行しているので」

「教会のシスターでも選りすぐりの人物が回復に当たっています。失礼だと思いますが」

「確認だけでも良いのです! 大聖堂が建設されるという時に教皇様の状態を知らないというのは後々不便ですから」


カトリーナに最後まで言わせないように言葉を被せる。


「それは一体どういう……」

「王城に努めている回復術師が教皇様の容態を確認できれば、陛下への報告もスムーズに行えます。もし教皇様が突然代わられる場合でも、迅速な支援が可能になるかと思いますの」

「そうですか。教会としては非常にありがたいですが……」


まだ迷っている様子なので援護を入れてあげることにした。


「僕からもお願いします。これでも陛下からの覚えはいいと自負しておりますので、次期教皇様を決める時もお力になれるかと」


直接的な誘いだが、教皇様を監禁して毒殺しようとしているカトリーナは焦っているように見えた。

 まともに戦っては、聖女であるサリアに負けてしまうのではないかと思っているのだろう。


「アシム様は陛下と仲がよろしいのですか?」

「アシムは国家反逆者を事前に捕らえた実績があります。すでに家からの独立も認められており、将来この国を背負う貴族になるのを期待されています」


シャルル姫の援護も入り、カトリーナはこちらを味方につけた場合のメリットを考えているようだった。


「それほどのお方が、何故教会に興味をお持ちになられたのですか?」


腑に落ちないのか、さらに確認を取ってきた。


「大聖堂建設の中心人物に名を連ねることは貴族にとっても大変名誉なことなんですよ。それに、これから協力関係になるであろう教会のトップとは強固な関係を作りたいと思いまして」

「そうなのですか。教会のことを頼りにしていただけて嬉しい限りですわ。教会としても理解ある人物との協力関係は歓迎します」


カトリーナはまるで自分が教会代表であるかのような言い方をする。

教会のトップと協力関係を作りたいという言葉は、外の者から聞けば現教皇との関係を築きたくて面会を求めているように感じるだろうが、カトリーナの立場からは違うように聞こえるはずだった。


――――――将来の教皇と繋がりを強固にしたい


どのように捉えるかは自身の責任なので、例えここで勘違いが起きようともこちらの知ったことではない。

もちろん本当に仲間にしたい相手ならば責任を取るが、()()()()()と仲良くなるつもりはなかった。


「それでしたら、教会の現状を確認していただく意味も含めて教皇様に会っていただけますか?」


こちらが善意のみで教会に近づいたのではないということを示したのが効いたのか、最も難しいと思われた面会を許された。


「ありがとうございます」

「あまり大勢で押しかけても迷惑でしょうから、回復術師だけを連れていきましょう」


その他のシスターやメイド、護衛は待機してもらうことにする。


「お気遣いありがとうございます。ではこちらへ」


ついに教皇様が監禁されている部屋へ入ることが許された。

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