第138話 尾行報告
昨日の物騒な話から一転。本日は通常通り学園へ登校している。
何回も実家に帰るわけにもいかないので、後のことは使用人や私兵団に任せることにした。
情報収集は、元闇組織のボスであるライゼンを中心に行い、集まった情報の精査は優秀な執事のゲイルに任せることにした。
もちろん総指揮は父のアダンである。丸投げとも言う……。
「おはよう!」
「おはようございます!」
教室に入るとテラとマーシャが先に座っていた。
個人の席はなく、横一列に三人が座れるようになっているが、三人が座ると窮屈に感じるので基本的に二人ずつ座るようになっていた。
「おはようマーシャ、テラ」
「アシム君! ユーリ君は今日休み?」
今朝は久しぶりに一人で登校していた。
「うん。父上に仕事を言いつけられたんだ」
貴族の家に仕えているということは、例え学生の身であっても主人の言うことが最優先になるのだ。とはいえ、本当にアダンの命令で休んでいるのではなく、休む理由を作りやすいユーリが教会の内情を探ることにしたのだ。
これで、ライゼンの集めた情報もユーリが持って帰ってきてくれるので、誰にも怪しまれずに情報収集ができるようになる。
元々闇組織で潜入や尾行などは行っていたようなので、今回の任務をこなすのに最適な人材と言える。
悪事を行っていたことは良くないが、その技術が良い方向に生かされるならば少しは贖罪にもなるかもしれない。
「そうなんだ。学園を休むぐらい大変なの?」
「まあ、そうらしいね。詳しくは聞いてないんだけど、今は人材が欲しんだってさ。まあ、勉強はなんとかついていけると思うから大丈夫だと思うよ」
学園入学に当たり勉強を教えたのだが、最初は壊滅的だった。文字は読めるようだったが、試験に出てくるレベルになると解けなくなってしまった。
「そこは心配してないよ。アシム君の理想が高すぎてユーリ君可哀想だよ」
「そうかな? ユーリには僕の右腕になってもらう予定だから、これぐらい当たり前になってもらわないといけないんだけどな」
マーシャが少し遠くを見るようなそぶりをしたかもしれないが、気のせいかもしれない。
それから、その日は何事もなく授業を受けた。
戦って以来モリトンは大人しいし、精霊はもういないようだった。聖女を連れ帰ったこともバレていないようで、どんな人を助けたか聞かれる程度だった。
放課後になり寮の自室に帰ると、ユーリがすでに帰ってきていた。
「調査はどうだった?」
迎えの挨拶もないので単刀直入に質問をする。主人が帰ってくるまで部屋で健気に待っていたと思えば、可愛いものだが。
「まず、あのシスターは別に悪いことはしてないな」
「意外だな」
金にがめつそうなシスターだったので、何かしら裏でお金を操っていそうだったが、そういった不正はなさそうということだった。
「強いて言うなら、お布施を高くしろと信者にプレッシャーを掛けているぐらいだな。それがあいつの担当している教会の実績になっていることぐらいか」
「その実績で給料が上がったりするのか?」
脅迫程度ならばこの世界では罪にできない。もちろん証拠を集めれれば別だが、形の残らない犯罪を裁くのはとても難しいのだ。
だからこそ闇組織という裏家業が蔓延っており、自分の生活を荒らされたくなければそこにお金を落とす他ないのだ。
闇組織は、お金さえ払ってくれれば自分たちの収入源になる住民を助けるので、ある意味一番信用のおける護衛集団といえる。
その分、支配地域で悪さをしても裁かれないので、好き放題するところもあるようだ。だが、王都でそれをやると流石に潰されるので、違う領地での話らしい。
「いや、給料が増えることはないが、昇進に有利になるらしい」
「なるほど、昇進して給料を増やすのか……健全だな!」
そのシスターの弱みを握るというのは難しそうだった。
「弱みというわけではないが、あのシスター借金が相当あるらしく、生活に苦慮しているようだ」
「借金?」
「親が残した借金らしいぞ。俺が見ている時にも取り立てられていたな」
それは弱みになるのではないだろうか?
だが、不正を働いてお金を稼いでいるわけではないので、その弱みに付け込むのは気が引けるかもしれない。
「近くに建てる教会にあのシスターを配置したらこちらに靡いてくれるかな?」
できれば教会内部の事情をスパイしてくれるといいのだが……。
「教会に忠実な信者らしいから難しいかもな」
「そうか……まあ一応それとなく誘ってみてダメだったら無理はしない方向で!」
「わかった。これは私兵団に任せるぞ?」
「うん。ユーリは引き続きシスターの尾行をして、使えそうな材料を探って」
信者として優秀なようだが、脅迫まがいのことをやっているのは感心できない。
引き続きユーリに周辺情報を探らせる。シスターを勧誘するには子供だと難しいので、私兵団を使って工作を行わせることになった。





