第135話 立場
「固有魔法?」
「ああ、もしかして知らなかったのか? シャルル様は固有魔法という個人の魔法を持っているんだ」
「初耳だな……」
凄そうな魔法なので話ぐらいは聞きそうだが。
「これは公にされている事なんだが……まあ大々的に広めていることでもないからな」
「え?」
固有魔法なんて凄そうなものを王族が持っているなら、国民の求心力に繋がりそうだが、何かあるのだろうか。
「ああ、後継者争いで問題になりやすいからな。王家に国民の支持が集まると同時にシャルル様の人気も上がってしまう」
「それが何か問題でも?」
国の王女が人気というのはむしろいいことではないのか。
「確かに王族の権力が盤石にはなるのだが、シャルル様の声がどうしても大きくなってしまうんだ」
「え? 女王になるってこと?」
リーゼロッテはその質問に首を振る。
いくら名声を獲得しても、王子を差し置いて女王になるということはなさそうだ。
「それはない。だが国王が発する言葉と、王女が発する言葉の重みが逆転したらどうなると思う?」
「国王は面白くないよな」
そのとおりと頷かれる。
「だから次期国王である第一王子がなにかしら実績を残さない限り、シャルル様の働きが表に出ることはなくなるんだ」
納得できないという声音を混ぜながら説明してくれる。
確かに国王という立場で、常に妹の顔色を伺うのはやりづらいだろうし、威厳が台無しである。
なので、シャルル姫の力は公表して王家への求心力を獲得するが、その活躍は発表されることはないということだ。
「でも王族への支持を集めるためにシャルル様の力を隠すのは勿体ないと……」
「ああ、この国は戦争も度々起こる。武力は国を治める重要な要素になるんだよ」
ならば、シャルル様の実績が大きくなる前に、王子が戦場に出るなりして結果を残す必要が出てくるということか。
「そこでだ!」
ここからが本題であると言わんばかりの声を上げる。
「今回聖女は教会から逃亡している。いや、表向きは何も起こっていないが、今教会の中はゴタゴタで溢れ返っているといっていいな」
「まさかそのゴタゴタが原因で、教会から逃亡?」
聖女は教会の中でも重要な位置にいると思うのだが、違うのだろうか。
「端的に言うと権力争いだな」
「権力……この国は争いが絶えないな」
「他の国も変わらないぞ? アシムが権力に触れるような立ち位置になったから目につくようになったんだろう」
確かに、権力と密接に関係のある貴族というものには縁が深いとは思う。一度没落しても復活する程であるが故に。
「でも、今回は何も知らずに巻き込まれそうな予感がするんだけど」
「ははは! 力のある奴の宿命だな。他の生徒が見つけていれば騎士団だけで連れ帰っていただろう?」
「確かに……今回は護衛としても、貴族の立場としても保護するのに都合がよかったから」
「そういうことだ。これから苦労するだろうが頑張れよ!」
自分の立場を再認識させられる出来事になりそうだった。
(あれ? 出世したら余計に面倒なことに巻き込まれるのでは?)
重要なことに気付いたが、家族の将来のためにこの道から逃げることは考えられなかった。
あの後詳しい情報を説明し、リーゼロッテは帰って行った。
メイドが淹れてくれた紅茶を飲みため息をつく。
「ふぅ……どうしたものかな」
まるで、老練の兵士が戦場で一人ゴチるような言葉が口から洩れる。
今は、久しぶりに自身の部屋で何をするでもなく時間を潰している。
実家に意味もなく留まっているわけではなく、今回聞いた話を父であるアダンに報告して相談するために滞在することにしたのだ。
先ほどの話を簡単にすると。
・教会の権力争いで聖女が邪魔なので、排除しようとする動きがある
・王家は感づいてはいるものの、決定的な証拠がない限り動けない
・カトリーナという人物が次期教皇候補なので、恐らくその人物が主犯である
・とりあえずカトリーナという人物が、教皇に納まれば追撃などはなくなるかもしれない
要するに、カトリーナという人物が教皇になるには、求心力の高い聖女が邪魔で仕方がないということだった。
となれば、そのカトリーナが教皇に納まるまで保護すれば大丈夫なのだろう。
(いや、待てよ? 聖女という存在がある限りカトリーナの権力が安定しないのでは?)
もしかしたら教会内で教皇派と聖女派で別れてしまい、それを疎ましく思われるかもしれない。そう考えるとカトリーナという人物がいる限り、聖女という立場は危険なのかもしれない。
一人で考察をしているとアダンが仕事を終え、帰宅してきた。
「父上!」
「アシム、帰ってたのか。どうしたんだ?」
「今晩は訳あって泊まっていこうかなと思っています。それと、お話があるので夕飯の後にでもお願いできますか?」
アダンに今回の事を相談するため、約束を取り付け話すことになった。
それまでは我が家の天使であるアイリスと至福の時間を過ごした。
約束の時間になり、部屋の扉をノックする。
「入れ」
「失礼します」
入るとすでにアダンはソファに座り、食後のコーヒーを嗜んでいた。
「話とは、先ほどの聖女のことか?」
アダンには軽く説明はしている。これから話すのは、聖女を長期的に匿うのか、それとも教会の権力争いに巻き込まれないために、どうすべきかなのかを相談するためだ。
「はい。先ほどは倒れているところを保護したというところまで話しましたよね」
「うむ」
聖女の環境の話をして、もし長期的に保護するならば、教会を敵に回すかもしれないという内容を確認した。
「そうだな。教会を敵に回して問題がない……わけはないな」
「はい」
国民のほとんどは教会が信仰する神の信者だ。そんな組織を敵に回すなど悪手であろう。
「そうだな……とりあえず本人から話を聞いて決めようか。現状答えを出すことはできんからな」
「わかりました」
聖女自身に教会内部のことを聞かなければ判断できないのは確かだった。
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