第133話 出発
「それでは僕が同行して、実家の方で一度預かります。その後王城へ行きますね」
人が倒れていたということで、アシム班は急遽野営地に戻ってきていた。他の班は通常通り魔物を倒すので、呼び戻したりはしないらしい。
そして、人命を優先するため急いで王都へ戻ることになったのだが、教会関係者であろう服装をした二人に何か事情があるかもしれないので、一時的に保護することにしたのだ。
「いや、アシム君は二人を保護したらそのまま家に残って教会の治療を受けさせてくれ。報告は私から行うから、結果は使者を寄越そう」
「わかりました。報告は騎士団長に任せます」
騎士団長であるジークフリートが報告を行うのならば断わる理由がない。教会関係者っぽいので、治療を受けた時に事情が聞けたりするだろうが。
テラやマーシャと護衛の騎士はそのまま残ることになり、ユーリと騎士団長の三人で王都へ向けて出発する。
馬車は持ってきていないので、騎士の乗ってきた馬を借りる。ユーリもサルバトーレ家に来てから乗馬の練習はさせていたので、問題なくついてくる。
「今は安定してるように見えるが、一応怪我人だ。揺れが少ないようにゆっくり進むぞ」
騎士団長の後ろに橙色の女性を、自分の後ろに桃色の髪の少女を乗せる。
「んぅ……」
乗せるときの揺れで目が覚めたのか、桃色の髪の少女の瞼が開かれた。
「あ、目が覚めましたか。気分はどうですか?」
少女はこちらをまじまじと見つめ……
「きゃあ!」
馬から落ちそうになっていた。どうやら高いところにいたことにビックリしたようで、バランスを崩していた。
「おっと!」
胴の方に腕を潜り込ませ支えてあげる。その時に暴力的な膨らみが腕を包み込むが、決して狙っていたわけではない。最善の選択が最高の結果を生み出したに過ぎないのだ。
「あ、ありがとうございます」
まだ怖いのか、支えている腕をガッチリと抱え込んで離さない。名残惜しいが、このままでは馬を操れないので腕を離してもらう。
「この態勢だと進めないから背中に捕まってくれますか?」
「え……ああ! 失礼しました!」
今度は落ち着いて動いてくれたようで、問題なく態勢を整えてくれた。
「それじゃあ、今から王都へ向かいますからしっかり掴まってて下さいね。一時間ではつくと思いますから」
行きは、徒歩と集団移動が相まって時間が掛かっていたが、馬のみであるならばそこまで時間は掛からない。
「はい……あの、助けて頂きありがとうございます」
「はい。洞穴にいた時のことは覚えてますか?」
「なんとなく、人が来たのはなんとなくわかったのですが……」
この状況や、こちらの接する態度で助けられたのだと判断したのだろうが、洞察力は優れているようだ。騎士団長の鎧には国旗があしらわれており、それなりの身分だと推測できる。
「わかりました。移動で落ち着かないかもしれないですけど、身体は休めて下さいね。食欲はありますか?」
外傷がある状態ではないので、体力が戻れば大丈夫だろう。念のため水や食べ物を渡す。
「ありがとうございます」
桃髪の女性は素直に受け取り食べ物を口に運んだ。
「それでは出発しますね」
騎士団長の方も準備が終わっていたので野営地を出発する。
「あの……」
暫く進むと後ろから声を掛けられた。
「どうしました?」
「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
自己紹介をすっかり忘れていた。





