第130話 朝食
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「ふぁ~、おはようアシム君」
朝テントの中で目が覚めて外に出ると、ちょうど鉢合わせる形になったのかマーシャが背筋を伸ばしていた。
「おはよう、よく眠れた?」
「そうね、魔物が襲ってくることもなかったし思ったより快適だったわ」
昨晩は魔物の鳴き声すら聞こえてこなかったから当然だろう。勿論ここら一帯が安全地帯ということはなく、魔物は多くいる。
そんな中安全にお泊りできたのは、騎士団員達が周辺の魔物を駆逐しつくしていたからだ。夜中に魔物の反応が出るたびに団員が討伐に向かっていった。自分の索敵範囲が団員たちよりも広いので分かったことだが、他の生徒で気づいた者はいないだろう。
「じゃあ、朝ごはん作るから待ってて」
「うん、ありがとう」
朝ごはんを作るといっても事前に仕込みは終わっていて、スープの素になる塊にお湯をかけてパンに自家製ジャムをつけて一緒に食べるだけだ。
この世界は砂糖や塩など調味料になるものが貴重で、果物と混ぜてジャムにするという発想はないらしい。蜂蜜を作る魔物もいるのだが、危険なので一般には出回らない。
マーシャがジャムのおいしさに感動しているが、スープの素の方が苦労して生み出されたものである。王都にいる料理の師匠に提案し、塩や肉などを提供する代わりに調味料の研究を手伝ってもらったのだ。
それまでにも色々あったが、それらを乗り越えて美味しい調味料を手に入れることができた。まだ大量生産というわけにはいかないので、自分達で使う分しか作れないが。
「アシム様、今日はどこまで行く予定ですか?」
テラが朝ご飯を食べ終え今日の予定を聞いてくる。昨晩も話をしたのだが、この後森に入って騎士団員を護衛につけて魔物と戦う予定なのだ。午前の早い時間に切り上げてしまうため、1匹か2匹と戦えるかというところだ。
「結構進まないと辿り着かないけど、小さい洞穴があるところまで行きたいかな」
「事前に見てきたのか?」
ユーリの予想通り、昨晩皆が寝静まった後騎士団員にバレないように森の調査を行っていたのだ。マーシャやテラが苦戦しそうな魔物がいれば浅いところで戦おうと思っていたが、この森の魔物はそれほど強くないことが確認できた。
だから初等部1年生の実践練習に選ばれたのだろうが、リーダーとして把握しておくべきことだと思って調べていた。
「それで何がいたの?」
洞穴を見てきたという報告にマーシャが目を輝かせている。そこを目指すということは何かがあるということだ。
「暗くて詳しくは分からなかったんだけど、多分この森では強いほうの魔物が住んでるかも知れない」
「強い魔物? 危険じゃないの?」
「探りを入れた感じだけど、このメンバーなら余裕をもって倒せると思うよ。騎士団員さんもついてくるし」
洞穴はそこまで深くなく、奥に生物の気配を感じ取ったがそこまで強い気配ではなかった。ただ魔力を感じたので魔法の類を使える可能性がある。
「魔力を感じたからもしかしたら、ファイアウルフとかの魔物かもしれない」
魔法を使える魔物は危険だし、数も少ない。だが今回の相手は単体でいるうえに強くはなさそうなので、安全に倒せると思っている。
「ファイアウルフだったら危険じゃないの?」
「確かに僕達だけだったら避けるべきかもしれないけど、せっかく護衛がいるんだ挑戦してみない?」
学園生にとってはせっかくの実践を積める機会だ。自分の班には無理しない程度に経験を積ませてあげたいし、この程度ならユーリだけでも十分対応できるので安全性は高いはずだ。
「そうね、アシム君とユーリ君もいるから挑戦してもいいかも」
こうして他の班よりも奥地を目指すことになった。





