第129話 野営
ジークフリートの実力を垣間見た後、特に問題もなく目的地付近まで到達した。時々魔物との遭遇があったりしたが右に出れば右にいる騎士が、後ろに出れば後ろにいる騎士がその都度撃破してくれるので、学園の生徒は何もせず安全に過ごせた。
「そっち頼む! あ、マーシャとテラは夕飯を作り始めてて」
ここまで危険が無かったからなのか、野営の準備というよりお泊り会に来たかのような雰囲気が漂っていた。野営の準備も終わり、各班で夕食をとっているが魔物が出てくる場所にいる集団にはとても見えない。
「なんか思ってた感じと違うわね」
マーシャが今の状況をみて拍子抜けといった表情をしている。
「そりゃあ、ここまで騎士が守ってくれてるし、こんだけ人がいればね」
「こんな感じで大丈夫なの? 先生は戦場の雰囲気を感じてもらうって言ってたわよね?」
担任のドウグラス先生は、現在の世情を鑑みて生徒達に命を懸けて戦うという場を体験してもらいたいようだが、今のところそういった緊張感はない。
「本番は明日らしいしね、今日は早めに休んで備えろってことじゃない?」
「そうなのかな」
事前に聞いていた話で覚悟を決めていた分、肩透かしをくらった感じなのだろう。テラとユーリは普段通り過ごしている感じだが、マーシャだけソワソワしている。
「今は休める時だからね。常に緊張状態じゃ持たないよ? 気持ちを切り替える準備をして今は休もう」
「アシム君はまるで戦場馴れしてるみたいね? 経験でもあるの?」
分かっている風なことを言われてムッとしたのか、刺々しい口調で言い返してきた。
「サルバトーレ家は武に関しては厳しい教育をしてるからね。今度ユーリと僕の鍛錬見る?」
「戦場を感じるくらいの鍛錬なの? ユーリ君……」
そんな厳しいことをしているのかと少し引いているようだ。
「ん? そうだな、アシムとの鍛錬中は常に殺そうと思ってやってる」
「ころ……」
「おいっ! お前いつも僕を殺そうとしてたのか!」
「そういうことなのね」
使用人のまさかの発言に憤る主人……常に部下に命を狙われているから戦場馴れしているのかとマーシャは納得したようだ。
「サルバトーレの鍛錬は常人にはそれぐらいの覚悟が必要だってことだよ」
「確かに厳しいのは認めるけど……」
ユーリは魔法は苦手だが、戦闘センスはピカイチなので厳しいメニューを課している。そのおかげか実力はメキメキと伸ばしているので育成方針は間違っていないはずだ。
「そこは自分の命を懸ける覚悟でいいのでは?」
テラの突っ込みにユーリが目を逸らす。どうやらうちの使用人は故意に主人の命を狙っているようだ。





