第128話 ジークフリート
「本日はジークフリート騎士団長率いる、王国騎士団の皆様が護衛をしてくれます! 礼!」
校庭に集められた初等部1学年の全員が、事前に打ち合わせていたとおり騎士団へ頭を下げる。今回は騎士団全体というわけではないが、ジークフリート率いる一団がお守りをしてくれるということだ。ちなみに副騎士団長のリーゼロッテは騎士団長が居ない間のお留守番なので、この遠征にはついてきていない。
学年全体での行動になるので、学園の先生のみでは不測の事態に対応できないという理由と、学園の生徒へ騎士団や軍への入隊をアピールする場でもあるようだ。
「ジークフリートっていうのか」
初めて騎士団長の名前を知った。
「アシム君知らなかったの? この間お話ししてたよね?」
「騎士団長としか名乗ってくれなかったからね」
マーシャがそうなのかと納得する。この行軍とも言えなくもない遠征は、前世でいうところの遠足みたいな雰囲気だ。
まるで緊張感のない生徒達がおしゃべりをしながら校門を次々に潜っていく。
「では行くぞ! 遅れるなよ!」
自分のクラスが出る順番になり、担任のドウグラス先生に引率されながら門をくぐる。ちなみに同じ班単位で固まっており、野営をするとき班での行動となる。何か困ったことがあれば、まず担任に相談することになっている。
先頭を騎士団長が馬で進み、その後ろに数名の騎士団員、生徒と先生方と続き、その周りを守るように騎士団が展開している。
しばらく歩いていると、先頭の騎士団長が手を挙げて止まれの合図を出してきた。それを認知した先生方が自分たちのクラスに止まれと号令を出す。
ざわざわしていたが、前にいる騎士団長がじっと動かないことに異常を感じ、段々と静かになる。どうしたんだろうと前を覗こうと背伸びをする生徒が増えてくる。
「どうしたのでしょうか?」
テラが疑問を呟くが、隣にいたマーシャは首を傾げる。
「さあ、アシム君何かわかります?」
「魔物だろ」
俺が答えるよりも先にユーリが正解を言い当てる。確かに魔物だ、索敵範囲には大分前から引っかかっており、単体の魔物がすぐ近くにいることが分かっていた。
「うん。魔物だね、騎士団長が何かやるのかな?」
「誰か生徒に戦わせたり?」
「もしかしたらね」
このまま進んで魔物と遭遇し、生徒がパニックに陥らないように止めたのかもしれないが、いずれにしろ誰かが倒さなければならない。
少しすると目に見える範囲に魔物が姿を現した。騎士団長は馬から降りて、腰から下げていた装飾剣を抜いて構える。
「騎士団長が倒してくれるみたいだね」
魔物はトカゲ型で、四足歩行をしている。こちらのことに気づき立ち止まって様子を見ている。この人数を見て危険を感じたのか、トカゲの魔物は方向を変えて一目散に逃げだした。
「逃げた……」
マーシャが残念そうな声を出す。どうやら騎士団長の戦いを見れると期待していたらしい。
「騎士団長追いかけないで構えてるよ?」
ここから魔法の攻撃を放って倒すというわけでもなく、ジークフリートは剣を後ろに引き魔物に狙いをつけているように見える。すると、剣を中心に風が吹いたかと思った瞬間、騎士団長が剣を振りぬいた。
「えっ」
遠くでトカゲ型魔物の血飛沫が舞った。





