第126話 班
「ふぅ、今日も無事終了だな! 帰って本でも読むか」
「またあの本か?」
ユーリの指す本とは禁書のことである。
禁書に書かれている言語は理解できないのだが、文字を追っていると情景が頭の中に浮かぶのだ。
今持っている禁書は、サルバトーレ家襲撃の際に使われた催眠効果のあるもので、浮かんでくる情景は大量の薔薇に捕らわれて眠っているお姫様が浮かんでくる。
どうやら森の中を何かから逃げている最中に捕らわれてしまったようだ。しかし、その本を開いていると少しずつではあるが、彼女の身体を拘束している薔薇の本数が少なくなっているように見える。
いや、確実に減っているのが見えるのだ。だが、薔薇の本数はまだまだ多く、解放されるのかわからないといった感じだ。
「そう。またあの本だよ?」
別に悪いことをしているわけではないので、それがどうかしたのかと尋ねる。
ちなみにユーリにも本を読んでもらったが、何も見えないし文字もわからないそうだ。
「今から班のミーティングだろ?」
「わかってるよ。帰ったらの話だろ」
今からの話と、帰った後の話を混在されて不服である。
「今帰るとか言ってたろ!」
「気のせいだろ」
帰って本を読むと言っただけなので、家に着いてから本を読めばいいのだ。先ほどの帰る宣言は、実行されたときに言葉の責任を果たしたことになるのだ。
「まあいい、みんな集まってるから行くぞ」
「はーい」
この班分けは、来月の魔物討伐遠征のために行われたものだ。
初等部から実践をいきなり積ませるというのは、この世界の現状を色濃く現していると思う。
魔物や人間同士での命の奪い合い、そんなことが当たり前の世界で生きていくには遅いとか早いとか言っていられないのだ。
自分の振り分けられた班が集まっている場所へ行く。
決まった班で集まって当日の役割を分担するのだが、これが結構時間がかかりそうだ。リーダーや荷物の運搬方法など全てを決めなければならない。
学校に入りたての餓鬼共に出来ることとは思えないんだが、どうやら最初は班の大切さや難しさを学ばせるためにやるらしい。
それで危険になったらどうするんだと思わなくもないが、そこは対魔物のプロ、騎士団から護衛が派遣されるらしい。
それによって生徒達は班の運用に専念できるということだ。もちろん遠征先で魔物と戦う予定ではあるが、騎士団のお守りの中で戦うので体験的な意味合いが強い。
「アシム様! こちらへどうぞ」
「ありがとう」
マーシャの使用人であるテラが席を引いて促してくれる。ユーリにはこのような対応を求めているわけではないが、部下としての器量の差を感じる。
「なんだよ」
隣にドカッと座りながらユーリが俺の視線に気づいた。
「なんでもないよ」
「そうか」
雰囲気が悪いと感じ取ったのかマーシャが慌てて会話に入ってくる。
「そ、それじゃあ改めてよろしくね! アシム様、ユーリ君!」
普段通りの対応なので別にユーリと仲が悪いというわけではないのだが、慣れていない人はびっくりするのかもしれない。
ちなみにこの班は俺、ユーリ、マーシャ、テラの4人組だ。
「それじゃあこの班のリーダーはアシム様でいいかな?」
班の役割決めで、一番揉めそうなリーダーが早速決まりそうだった。





