第121話 精霊の噂
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教室に入る頃には既に次の授業が始まっており、全員何かを一生懸命書かされていた。
「アシム・サルバトーレ! 話があるから来なさい」
担任のドウグラスが自分を見るなり、勢いよく立って教室から引っ張り出される。
大人に手を引っ張られる形は、子供の身長だと割とキツイので遺憾の意を示してみる。
「先生! 自分で歩くので離して下さい!」
「あ、ああ悪かったな」
意外と素直に手を放してくれたことに驚いたが、本当に悪いと思っているような謝り方だったのでそれ以上責めようという気はなくなった。
「ここで話そう」
無人の教室をみつけ中に入ると外を一度確認して先生がドアを閉めた。
「あれはなんだ?」
唐突な問いに困惑する。
「先生落ち着いてください! あれとは精霊のことですか?」
「精霊……やはりか」
先生は顎に手を当て少し考え込むようにする。
「先生は知っていたのですか?」
精霊など初めて聞いたのでまだ自分が習っていない授業で登場するのかもと思った。
「知ってはいないな……」
歯切れの悪い答えで困っているのがわかる。
「知ってはいない?」
「ああ、俺が軍にいたころ噂程度になったことはあるが実際に姿を見たのは初めてだ」
軍の関係者でもわからないようなことらしい。恐らく一般の人など余計に分からないだろう。
「その時の噂って、どういったものですか?」
興味があるので素直に聞いてみると、少し間があって先生が話し始めた。
「これは俺たちが軍を率いて国境に向かい、敵国を退けた後の話なんだがな」
敵国との衝突は小競り合い程度しか起きていないと聞いていたが、軍が動くほどの事があったらしい。
「将軍が一度行方不明になってしまったんだ。それで何日か探したんだが結局見つからずそのまま王城へ帰還したんだ」
将軍様は大変な目にあっていたらしい。
「帰還して一週間経った頃将軍が恐ろしいほど強くなって帰ってきたんだ」
「強く?」
行方不明で弱って帰って来たのではなく強くなって帰ってきたことに違和感を感じる。
「噂によると精霊に選ばれたのではないかと言われていてな。すでに新しい将軍が決まっていたからなのかわからないが、帰ってきた将軍は数か月後に軍を辞め出て行ってしまったんだ」
行方不明に強くなって帰ってきた将軍が軍に残らずそのまま消えてしまうとは、何か事情があるのは確かだろう。
「その程度の話さ。ただ実際にその力を見たものは少なく、すぐに話はきかなくなった」
「それで、その精霊とは見つかったらダメなんですか?」
―――戦争になる
重い声に乗せて神妙な顔つきで答えが返ってきた。





