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第115話 人間好きの精霊

精霊は生まれてこのかた人間が大好きだった。

 人間は愛を語り、友情を語り、正義を語る。その姿が余りにも滑稽に見えて仕方がない。

 愛の裏に欲望があり、友情の裏に裏切りがあり、正義の裏に淘汰がある。

 どれもこれも自分が幸せになるため、自分を正当化するための言い訳にしか聞こえない。

 自分が幸せになるためには”他”を不幸にする必要があるのだ。この世の幸せは無限ではないし、”当たり”を引いた人の裏にはかならず”はずれ”を引く人が出る。

 しかし人間はお構いなしに幸せを追い求める。


他人の不幸が見えていない者、他人に不幸を引かせることを知っていてなお幸せを求める者。

 だからこそ人間は見ていて飽きない。欲望が渦巻く人間達が英雄だと讃えた者を裏切り者だと叫ぶ日、人を多く殺した者を英雄と讃える日。

 色んな人を見てきた精霊だからこそ、人間が大好きだった。

 そして今、目の前の才能溢れる子供も、そんな人間の一人であるということに高揚を抑えきれないでいた。

 能力の高い人間ほど面白い物語を見せてくれる。

 こういった人間は大抵英雄(えいゆう)悪人(あくにん)どちらかになる。

 今もその小さな身体は魔法の才をいかんなく発揮し、精霊を楽しませている。

 それもただの魔法ではない、赤い炎の魔法の中に上手く隠している”黒い塊”を感じる。

 懐かしくもあり、怖くもある。


これほどまでの才を持った人間には初めて出会う。

 しかし、それ故に残念でもある。

 現在契約を交わしているアイデン・ヴァルデックもまた才能溢れる人間の一人だった。

 出会ったばかりの頃はその才能を発揮しきれておらず、平凡な力しか見せなかった。

 だが、精霊の力を少し加えてやるだけで才能が開花し、今ではこの王都屈指の魔法使いとなっている。


目の前の子供はすでに才を発揮し、さらに底知れない大器を感じさせる。

 故に期待外れ、この人間には大きな欲望を感じない。

 欲が全くないわけではないが、アイデンなど力を持つ者特有の欲にまみれた野望がないのだ。

 貴族としての地位、魔法使いとしての地位、金への執着、名声など多くの欲を持つのが普通だ。


「だけど面白いなぁ」


精霊は子供に聞こえない声で呟く。

 ここから大きな野望が生まれるのか、それとも小さな欲で力を持つ者の末路が見れるのか。


「だから僕は人間が大好きなのさ!」


突然の大声に子供が一瞬眉を傾げるが、すでに魔法を放った後だった。

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