第108話 肩透かし
「それでは実践練習を行う相手を決める」
アシムはもう決まっているので、モリトンの方を見る。
モリトンもアシムを見ており、やる気満々といった感じだ。
「組み合わせは、俺が決めるぞ」
肩透かしを喰らった気分だ。モリトンのギラギラした視線にこちらも触発をされて、やる気になっていた矢先に対戦相手を自由に選べないときた、数十人のなかでモリトンに当たる可能性は低いだろう。
さらにいうならば、ここ一週間の練習を担任が考慮するとユーリと組まされる可能性が高かった。
「先生!」
「どうしたヴァルデック?」
並んでいる後ろの方から、モリトン・ヴァルデックが手を挙げて担任を呼ぶ。
「俺はサルバトーレとさせてくれ!」
「サルバトーレと?」
担任のドウグラス先生と目が合う。目で聞かれているのかと思い、頷く。
「しかしヴァルデック、今日の実践練習は木剣のみの使用だぞ? お前は魔法が得意だろ? 剣でサルバトーレとやり合うつもりか?」
「え!? 魔法は使っちゃいけないんですか?」
「ああ、初めての実践でいきなり魔法は危険だ」
「そんな……」
やる気満々だが、魔法が使えないとなると弱気になるモリトン・ヴァルデック。
「先生!」
今度はアシムが担任を呼ぶ。
「なんだ?」
厄介ごとはやめてくれというような顔で返事を返された。
「僕は魔法ありで構いませんよ?」
「お前が良くても」
「なら僕は魔法を使いません!」
先生はアシムの言葉に少し黙る。
「アシムこちらに来い」
ドウグラス先生がアシムを近くに呼び寄せる。
先生の側に行くと、皆に聞こえないように、顔を近づけてヒソヒソ声で話しかけられた。
「お前実践経験はどれくらいある?」
「こんな感じの練習なら毎日やってます」
「ユーリとか?」
「はい!」
「なるほどな。いいか? お前達2人はこのクラスでは飛びぬけて強い」
元軍人の先生はアシム達とクラスメイトの差をはっきりわかっているようだ。
「手加減はできるな?」
「はい、ライアとマイアにも教えているので、大丈夫です!」
「そうか」
ドウグラス先生は顔を上げて、モリトンに向かって許可を出す。
「サルバトーレとヴァルデックの対戦を許可する! しかし! サルバトーレは魔法禁止だ!」
「わかりました」
「はい」
モリトンは、アシムの魔法禁止というハンデに渋々といった感じだが、戦うことができるなら我慢するようだ。
「ハンデ貰って負けたからって言い訳するなよ!」
「しないよ!」
どうやらモリトンは強さの上下関係をつけたいようだ。
「よし! では他の組み合わせを決めていくぞ!」
先生の指示のもと、どんどん組み合わせが決められていく。
「では、始めるがそうだな、サルバトーレとヴァルデックの対戦は参考になるだろうから最後に皆で見るぞ!」
「え!」
「ふんっ! 仕方ないな」
クラスのみんなに注目されながら戦うことになるとは思っていなかったアシムは、驚きの声を上げる。
一方モリトンはクラスの模範となれると誇らしげのようだ。
「では散れ!」
抗議する暇もなく実践練習が始まってしまった。





