第99話 料理
「おお~!」
「アシムさ、君、こんな高そうなお店いいんですか?」
双子のクラスメイトを個室で食べられるようなお店に連れてきた。
平民だとまず通されない特別な部屋なのだが、以前何度か利用したこともあり、顔パスで通されるようになっていた。
「ユーリ、席について注文しといて。店長に挨拶してくる」
部屋の前でアシムはいったん別れ、料理長や店長に挨拶をしに行く。
「失礼します!」
「おう坊主! 久しぶりだな」
「お久しぶりです師匠!」
「貴族様が師匠なんて呼ぶな」
「師匠だって貴族に坊主って言ってるじゃないですか!」
「ちげぇねえ!」
「あははは!」
「ガハハハ!」
白鬚をくるんと上向きに整えた料理長とアシムは仲良さげに話し込む。
「アシム様! よくいらっしゃいました!」
「店長! ご無沙汰しております!」
「本当お久しぶりですね」
アシムは以前このお店に足を運ぶことがあり、訳あってここの料理長に弟子入りしていたのだ。
「坊主! 久しぶりに一品作ってみろ!」
「わかりました!」
元気よく返事をしたアシムは洗面台へ向かい、手を洗う。
「よし! チャーハンを作ってみろ!」
「はい!」
店長は微笑ましそうに二人を見送りながらキッチンを後にした。
「材料や調味料は好きに使え」
師匠からの期待と信頼の情を感じとりながらアシムは食材を調理しはじめた。
☆
「アシム君どうしたのそれ?」
大量の皿を手や関節を駆使しながらみんなの待つ部屋に入る。
「僕が作ったやつもあるから食べてみて」
「なかなか来ないと思ったら料理作ってたんですか!」
「そうそう、久しぶりに師匠に会えたからね。料理を見てもらいながら皆にも振舞いたかったんだよ」
「アシム君の師匠?」
「ここの料理長と縁があってね、料理を教えてもらったんだよ」
「貴族は自分で料理をするものなの?」
マイアは疑問を口にする。
世の中の認識として、貴族は料理をする側ではなく、させる側なのだ。
その認識は間違いではなく、料理人を雇うのが普通だ。
サルバトーレ家の使用人の中にも料理人がおり、普段の食事はその使用人が作っている。
「いや、僕は趣味で料理をやっているんだよ」
「へえ~、料理が趣味なんだ」
ライアは不思議そうにする。
「まあ、僕が師匠に弟子入りするきっかけになった料理がこれなんだ!」
「魚の切り身?」
「お! よくわかったね! 正しくは寿司というんだ」
「これ生だよね?」
「そう生だよ!」
「あの、言いにくいんだけど……」
ライアとマイアは生ものを食べる文化がなく、戸惑いを隠せない。
「お腹を壊さないかって? 大丈夫! ちゃんとした料理人監修の裏メニューだから!」
「裏メニュー」
料理人監修と聞いても、双子は裏メニューという言葉に不安を隠せないでいた。





