第1話 没落貴族
5歳の誕生日が終わった日、夢に見た。
”前世”の記憶、自分がこの世界とは関係のない日本という場所で生きていたことがあること。
朝目が覚め、夢を思い出す。
しかし、前世の記憶があっても、それはまるで自分のことではなく、他人の記憶のような気がした。
「この前世という知識も、そうなのか」
何故か色々なことを理解できてしまう。
それも知識量が増えたからだろう。
「何冷静に分析してんだか」
昨日までの自分を思い出す。
元貴族のサルバトーレ家嫡男。
2つ年上の姉と2つ年下の妹がおり、名家の跡取りとして期待されていた。
しかし、親が領地を上手く治められず、他の貴族から応援として借りた文官に嵌められ没落。
それが一年前のことだ。
「親は統治が苦手だったと納得しているみたいだけど、あれは完全に嵌められたな」
嵌められた親は、ポンコツに見えるが、実はかなり優秀な戦士なのだ。
その武勇一本で活躍を認められ、貴族にのし上がった家系だ。
「色気をだして、領地なんてもらうからだ」
元は王都に屋敷を持ち、騎士団で活躍をしていた武力派の貴族だったのだ。
現在はなんと、嵌めてきた貴族の元で武官として働いている。
なんとも情けない状態なのだ。
「詰んでませんかねこれ?」
貴族に嵌められ、借金まみれにされ、飼い殺し状態。
しかもその借金は、父親が一生働いても返せないので、息子の俺まで押さえられている始末。
昨日まではこんな最悪な状況も、理解できていなかったから最悪だ。
「独立したくても、できないな」
自分一人なら最悪逃げて、他国でハンターとかやってればいいが、俺が逃げる=家族の死を意味する。
「金貨1000枚返さないとダメか」
領地経営をしていれば、1000枚はなんとか作れるだろう。
しかし、個人が領地を経営できるレベルの資産を得るには、まさに貴族に任命されるぐらいの活躍が必要だ。
「そこも制限かけられてるし、どうしよう」
貴族になるぐらい目立つには、王国軍に参加するのが一番だが、手綱を握られている現状無理だろう。
「アシム!」
父親が俺を呼ぶ声が聞こえる。
「朝の鍛錬だぞ!」
日課の鍛錬の時間だった。
「取り敢えず金を稼ぐ手段を考えないとな」
訓練場となっている庭に向かいながらも、これからどうするか考える。
「おはようアシム」
「おはようございます姉上」
エアリス姉さんだ、毎朝の鍛錬を一緒にやっている。
女性で武官になる人は少ないが、さすが名家の血を引いているだけあって強かった。
「よし! 揃ったな! 始めるぞ!」
この時だけは、父親が偉大に見えるのだった。