一話:孤独な王
ギギッと音を立てながら、錆びつつある扉が開く。
十分な装備とは言えない格好の青年が一人、部屋に堂々と入ってきて、部屋の奥の真っ黒で、それでいて巨大な椅子に座っている人をじっと見つめる。
「お前が、魔王か」
部屋の中にある家具といえば、大きな椅子に部屋に敷き詰められた質の良い絨毯、そして天井からぶら下がるシャンデリアくらいで、青年の声が部屋に響き渡った。
「さあな」
曖昧に答えた。魔王と呼ばれた人は、ただ青年を見下ろすだけだ。しかし、それだけでもその威圧感は凄まじく、青年は自分自身の悲鳴を押し殺す。
「俺は勇者の加護を受けた者だ、魔王、あなたに聞きたいことがあってやってきた!」
「…」
「俺は人だ、だからこそ勇者という加護を神から受けた。しかし俺は勇者が必要なのかが疑問だ」
「ふむ…」
「もう何千年も前に魔物は滅びたというし、そもそも魔物がいない時点で国は、世界は完全に平和だ。冒険者という職業はあるものの、魔物はいないから半分旅人のような形になっている。しかし、なぜか魔王だけが残っている。だから俺のような勇者が生まれる」
「…」
「でも争う必要はないはずだ、魔物もいなければ魔王であるあなたが俺たちの国に攻撃してくることもない、なんなら誰の目にもつかない、そもそも入ったとしても簡単には抜けられない魔の森が設置してある時点で俺たちが干渉しようとしない限り魔王という存在に会うこともない。もはや魔王がいるかどうかも怪しいと言われている」
青年はすっと息を吸い込み、魔王に訴える
「なぜ魔王のあなたは何もしないんですか?」
青年の言葉が響き渡る。
しばしの沈黙の後、魔王が口を開く
「興味がない…それだけだ。」
ぽかん。
勇者は一瞬呆気にとられた、そして肩の力が抜けたようにへにゃりとわらい、魔王に言う
「なら、俺の国に来ませんか?」
「…………は?」
「勇者が魔王と仲良くなれば完全に国民は安心できる。」
笑顔で青年は言い切った
「その話に乗って、俺にメリットがあるのか」
「それは国に来てから決めればいいじゃないですか。こう見えても俺は王子ですから、それなりにいい部屋は用意できますよ。」
「…………いいだろう、その話に乗ろう。」
魔王は初めて椅子から立ち上がり、コツコツと音を鳴らしながら勇者の前に立つ。
身長は変わらない、いや、魔王の方が少し高いだろうか。
「案内しますよ、きっと気にいる」
どこか確信めいた王子がそうやって手を差し出す。
魔王はその手を握り返した。