04 [一人じゃない]
「ぼ、僕はいいから...遠慮しときます!」
「あら、なんか不都合でもあるかしら?」
「いいえ、そうじゃなくて、そ...その......恥ずかしいから」
もう自分の体に慣れたとはいえ、他の人になるとまた別な話だ。
「女の子同士だし、別に恥ずかしいことはないよ」
「いや...えっと、ずっと一人で入ってたから」
「ならばなおさらよ!洗い方とか、お姉ちゃんとしてしっかりチェックしてあげるわ!」
「お、お姉ちゃん?」
そういえば、セシルちゃんの方が僕より少し高いから、隣から見れば姉妹だと言えなくもないか......
「やはり...アリスちゃんのことは放っておけないわ」
そう言って、セシルちゃんはベッドから降りって急に僕を抱きしめた。
(む、胸が大きい!)
「その顔は昔も見たことあるからわかるよ。無理に元気のように見せかけて壊れかけの顔」
「......」
「アリスの身に何かあったのか、あたしは知らないけど、これからはあたしがいるからね。貴方はもう一人じゃないよ」
「セ、セシルちゃんだって!これからは僕が守ってあげるから!だから、その...もうそんな悲しい顔しないで...」
いつの間にか、セシルちゃんは泣きそうな顔になっていた。思えばセシルちゃんは多分すべてを失われた、友達も家族も。なのに僕のために自分の感情を抑えていた。まったく、いったいどっちの方が放っておけないよ。
「あたし、悲しい顔に?」
「自覚はないみたいね。僕はもう大丈夫だから!後で自分のことを教えるよ。その代わりに...セシルちゃん、いいえ、セシルお姉ちゃんも、もっと僕のことを頼りにしてください!これからは二人で生きていくから!」
「ふふっ、アリスちゃんはやはり優しい子だね。わかったわ、これからは頼りにしてるよ!じゃ、一緒にお風呂行こう。手を出して」
「はい!セシルお姉ちゃん!」
お姉ちゃんは僕の手を繋いで、お風呂に向かって歩き出した。
あれ?なんか僕、流されていない?
ということで、勢いで更衣室まで来たのはいいけど、すぐに後悔することになった。
「はぁ...」
具体的に言えば、目のやり場とか、かなり困ってる。セシルお姉ちゃんは僕よりすこし高くて160くらいはあると思うけど、スタイルがとても良くて大人の女性の魅力がある。元男子高校生かもしれない僕にとってかなりきつい。それに
(なんだこれ、この敗北感は...くっ!)
あれから五年経ったのにこの体は成長の兆候など一切見当たらない。
(いいけど、運動の邪魔にもならないし。でもこのすごくイライラする気持ちはいったい...)
「アリスちゃん、まだかしら?」
「は、はい!今行くよ」
悩んでたら、いつの間にお姉ちゃんは既に済ませて更衣室から出た。
「アリスちゃんこっちに来て、あたしが洗ってあげるよ」
「じ、自分で洗えるから大丈夫!」
「そう?じゃそこで洗いてみて」
もう子供じゃないし、このくらいは当たり前だから!僕はすぐに自分の体を洗い始めた。
「ぶっぶーですわ!なんですかそんな乱暴な洗い方!やはりあたしがしっかり教えてやらないと!」
僕も一応普段から身嗜みにそれなり気を配ってるけど、本物の女子からダメ出されたらしい。
「え?でもこの体はすごく頑丈だから大丈夫だとっ」
「ダメ!」
「あ、はい...」
すっかり折れてしまったのである。
それからは肌と髪の洗い方をいろいろ教えて貰って、セシルお姉ちゃんに隅々まで洗われた。そことか、あそことか...
「う...もうお婿に行けない」
「アリスちゃん、何か言ったかしら?」
いまさら元男子高校生かもしれないことを言えるはずもなくて、この状況を少し楽しんでる自分に罪悪感を覚えた。
「いいえ!なんでもないよ!それより、体も綺麗になったしそろそろお風呂に入ろう」
「ふふっそうですね。あ、髪はちゃんと自分で纏めるね」
「もう〜これくらいはさすがに自分でできるよ」
頬を膨らませて抗議しつづ、セシルお姉ちゃんとお風呂に入った。
アリスちゃん、かなり精神が引っ張られてるが、本人は完全に無自覚。