プロローグ
僕はごく普通の男子高校生...のはずだった。
「はぁー」
今日で何回目だろう、またもため息をついてしまった。慣れないドレスのせいで太もものあたりがスースーしてどうにも落ち着かない。
「そんなこと気にしてる場合じゃないな」
右腕から伝わる冷たい感触を確かめて、少し落ち着くことができた。手に握っているのはいかにもSF映画でよく登場するような近未来感ある拳銃だった。真っ黒な銃身に光る青色のラインが張らせて、少しおもちゃにも見えるかもしれないが......
手が震えている
これは、争いに無縁な世界で生きてきた僕にとって刺激すぎる場面だったか......
『キーンー』
エネルギーチャージみたいな音と共にあれが現れてしまった。高さはおおよそ3メートルくらい、逃がさんとばかりに通路を完全に塞げている。多分その辺も予想した上のデザインだろうね。
なぜなら...
『条例24786ーA21により 致命級武装の使用許可が降りました あなたはここで処決されます 投降は受けません すべての防御システムに虐殺プログラムが組んでおります 抵抗すればするほどあなたは無残に殺されます あなたが選べる道は ①大人しく殺され ②その場で自決して楽に逝け 繰り返します 条例24786ーA2......』
先からずっとこれだからだ。警告音鳴きながらやたらに丁寧な口調でとんでもない内容を繰り返すアナウンス。内容の真実はともかく、この状況で対象の緊張感を煽るためならば十分すぎる。人は緊張するほど発揮しにくくなるのだ。致命的なミスも犯しやすくなる。
「ふふ...」
何故か笑ってしまって、僕の精神もとうとうイカれてきたかな。それともこの体はこのように作られたか
『カチャ』
無機質かつ不気味な音を敏感になった聴力で捉えた。給弾機構による音...だと思う。同時にあれの上にある2丁のガトリング銃が回転し始めた。
記憶中で銃を使ったことはもちろんなかった。しかし何故かこの銃ならば使いこなせる確信がある。精神を集中して(力)を発動する。膨大な情報が脳の中に流れてきた。
『ドールとの接続が確認 セイフティー解除』
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ドール03専用武器システム 《気違いのお茶会》
銃身シールド 100%
モード『プラズマショット』残弾数 7/8
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目標確認 ドールからの情報による補正完了
重力と磁場による干渉の補正を行います
空気成分の分析が終わりました
空気抵抗による影響の補正を行います
温度 湿度 気圧の補正を行います
【警告】未知のエネルギーと物質及び物理法則が確認されています
短距離射撃のためコリオリ力補正の必要がありません
プラズマの充填及び圧縮完了
弾道クリア ロックオン 発射準備完了
これらの情報を一瞬に脳の中で処理し、カドリング銃の片方を狙い決めた。銃身に引き金はついていない、撃ちたいって強く思えば撃てる仕様なのだ
『ドンンンーー』
巨大なハンマーに殴られたような音がして、そのガトリング銃はもうどこにもない。代わりに大きな穴が開いて、高温で真っ赤になってマグマみたいに流れている。
衝撃を受けた防御ロボットは一瞬バランスが崩れ、すぐ6つの足を使ってバランスを保とうとするが...
『ブーーー!!!』
狙いがズレ、鋼鉄の嵐が隣を掠めた。もう一方のガトリング銃による掃射だ。ここまでおおよそ3秒、一瞬でも迷ってしまったら今ごろ蜂の巣にでもされただろう。そう思えば冷や汗が全身から吹き出した。
防御ロボットはすぐに掃射を止め、狙い直そうとしているが
「遅い!」
この体の性能ならこの一瞬で接近できる。すぐさま跳躍し、ロボットと天井の間に身を滑らせてそのまま向こう側に着地した。
「さぁ、お茶会の時間だ!」
後ろへ目もくれず、明日も生きるために少女は走り続けた。
残されロボットの背後にはいつの間に2つの穴ができて、ピクリともしないままその場に留まった。