遺書 〜プロローグ〜
......○月✕日、青空広がる晴れやかな朝にーー私は今日 "遺書" を書きます。
念の為に書いておきますが、死期が迫ってる訳ではありません。いたって健康です。頭もしっかり働いているし、堅い食べ物も今は食べられます。
でも、それは今の私の話です。
私は一年、また一年と歳をとる度に出来る事が減り、出来ない事が増えていきます。
それは仕方がない事だと分かっています。だから特に悲観的に捉えていたりはしていません。
でも、少し怖いのは私の中の大切な思い出が無くなってしまう事です。
これは私の話ではないのですが、ある年配の方が脳の病気で物忘れが激しくなり、自分の事さえ思い出せなくなってしまったそうです。
その話を聞いて私は怖くなりました。
私もその病気にもしもなってしまったなら、私は大切な人達もその人達と築いた大事な思い出も忘れてしまうのではないかと...。
そう思ってしまったら途端、胸がキュッと締まるように苦しく、切なくなってしまいました。
出来ることなら忘れたくない。でも、病気になってしまったら気持ちだけでどうにかなる問題ではない。
ならどうすればこの思い出達をとっておけるだろう?と考えた結果、私は一つの答えに辿り着きました。
"私の大切な思い出を遺書として書き、記録しておくことにしました"
これで私がいつかこの思い出達を忘れてしまっても、これを読んだ時、読まれた時、何もかも私の事さえも忘れた私でさえも、これはいい思い出だと思えるのではないか?と、そう思ったのです。
病気にならない可能性だってあるし、そんなに悲観的になる必要なんて本当はないのかもしれないけど...。こういった、いざという時の保険を作っておけば今の私にその後、何かあっても安心できる。
後悔なんてしたくないから、私は私の頭がしっかり機能している内に不安な事は早々に片付けるべきだと思ったのです。
そう思って筆を取り、書き始める事にしました。
まずは始めに書くのなら...私が生まれた時の話だろうか? ...いや、出生譚から始めてしまえばなんだか凄く壮大な話になってしまわないだろうか? 私は別に歴史に遺る(のこ)ような人ではないのに...。
.........そうだ!「君」と出会った時の話から始めることにしよう! 「君」の存在、君と過ごした思い出は"私がこの遺書を書くことを決めた一番の理由"だから...。
それに、この遺書を一番始めに読んでほしいのは「君」だしね...。(...遺書だと言ってるけれど、もしかしたら手紙に近いかも?)
ーーあまり、文とか書いた事はないけれど、下手くそでも笑わないでね...?
これは「君」に送る「私」の最初で最後の"手紙"。
私がこの世界から居なくなった後、「君」が"最初"に必ず読んでね。
すごく短く済んでしまうかもしれないし、とびきりの大作になるかもしれないけれど、どうか"最後"までちゃんと読んでね...。(続く)
この小説は不定期更新です。