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洞窟

 泊っていくようにと引き留めるパルマおばさんに、大丈夫だからと言い聞かせて、麻子はいつもより早めに山に帰って来ました。


これから天候の悪い日は、それぞれの家で仕事をすることにしようとイレーネと話し合ったのです。

今回、大量の刺繍糸を持ってきておいて本当に助かりました。あれだけ糸があれば、ネットで注文を受けていた春服の縁飾りができるでしょう。

こちらには、必ず晴れた日に来ることを二人と約束しました。


パルマおばさんの念押しするような目にはまいりましたが、これも自分を大切に思ってくれているからこそなのです。

子どもの頃に母親を、大学生の時に父親を亡くした麻子にとっては、パルマおばさんは唯一の親のような存在です。そして朗らかで何でも話せるイレーネは、姉のような存在でした。

独りぼっちの麻子のことを心配して、神様が二人に会わせてくれたのかもしれませんね。



 苦心して洞窟まで登ってきた麻子は、日本に戻ったらアウトドア用品店に行こうと思っていました。雪道を楽に歩けるような靴が必要でしたし、いざという時に食料や寝袋、一人用のテントもリュックサックに入れて担いできた方がいいような気がしました。


ふふ、手芸の仕事をしているとは思えないようないでたちになりそうね。



洞窟に入って奥の方に歩き始めた時に、いつもとはなにか違う感じがしました。

空気の中にピーンと張りつめたような緊張感が漂っていたのです。


「……君か。まさかこの洞窟に住んでいるなんて言うんじゃないだろうな」


この声は……?


「マクスさん?」

「ああ。」


奥の岩陰から短銃のようなものを構えたマクスが出てきました。背中にはパンパンに荷物が入ったリュックサックを担いでいます。眼光鋭く麻子をねめつける様子は、麻子を助けてくれたあの親切な人と同一人物とは思えませんでした。


「答えてもらおう。なぜ、ここにいる?」


これは、答えようによってはすぐにでも撃たれそうな気がします。

麻子はブルブル震え出した両手を上げて相手に無抵抗だということを知らせると、ゴクリと唾を飲み込みました。


「あの、あの、私……異世界から来たんです! こ、この洞窟の奥に出入り口があって。ホントです!」


「………………」


沈黙が重たい。


「持っているカバンをこっちに放れ」


麻子は茶色のカバンをそっとマクスの前に落としました。マクスは用心しながらカバンを拾うと、片手で短銃を構えたまま、中身を地面にぶちまけました。


「あ、『携帯』が……」

「何だと?」

「そこの長四角の板のようなものは精密機械なんです。高いものですから丁寧に扱ってください」


銃を前にしようと、麻子のもったいない精神は健在でした。まだ買い替えるまでには一年半もあるのです。壊されでもしたらたまったものじゃありません。

マクスは携帯を拾うと麻子に渡して、機械を起動するように命令しました。


麻子はいつものように電源を入れてギャラリーを開けると、次々にスライドしていきながら何枚もの風景や人物の画像をマクスに見せました。


「ほら、私が言っていることは本当でしょ? 私はこの世界ではない、地球という星の日本という国から来たんです。夏にここへ繋がる扉を見つけて、ダレン村のイレーネと偶然出会いました。イレーネたちと手芸店をやっているのも本当です」


「信じられない話だな」

「信じられないのは私も一緒です。ここの洞窟にはイレーネも入ることができなかったのに、どうしてあなたは入れたんですか?」

「ふん、あんな魔法量の結界などで侵入が防げると思ったとは、お前も無防備だな」


「魔法?! 結界ですってぇーーー?!」


なにそれなにそれなにそれ? ここの世界には『魔法』があるの?

聞いてないよ~


「なんだ、本当に何も知らなかったのか?」


麻子のあまりにも驚いた顔に、マクスもやっと警戒を弱めたようでした。


「魔法なんて知りません。イレーネも一言だって言ってなかったし。絵本の中には描いてあったけど、想像上のものだと思ってました」

「庶民にはあまりなじみのないものだからな。とりたてて説明する必要を感じなかったんだろう。ところで、アサコが異世界から来たと言い張るのなら、私をそこに連れて行ってもらおう」

「は?」

「君が異世界に帰るのなら、私も一緒に行く」

「はぁ……」


なんていうことになったのでしょう。


『今日は厄日?』


「何か言ったか?」

「いえ、なんでもありません」

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