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大切な話

 マクスの話というのは、やはり光月(ひかりづき)の一の日に行われる神事「子鈴おろし」のことでした。


「アサコの話から計算すると、明日が新年の最初の日だと思う。だから多少無理をしてでもこれから都に向かいたいんだ」


やっと普通に動けるようにはなってきたマクスですが、敵の真っただ中に飛び込んでいくような体力はまだありません。けれど、それでも行く、這ってでも行くんだという決意が、マクスのギラギラと見開いた目の中に静かに燃えていました。

よほど大切な神事であることは、マクスのこの態度からも伺えます。


「わかりました。それではこれから都に向かいましょう。でも、都では私の知り合いの家に寄ってもいいですか? 皆、心配してると思いますから」


都行きを反対すると思っていた麻子が、あっさりと出発を了承したので、マクスは肩透かしを食らったかのような呆けた顔をしていました。


「いいのか?」

「ええ、いいですよ。私はマクスさんを全力でサポートする、そう決めていましたから」


麻子の不敵な笑みを見て、マクスもニヤリとしました。

「お前の全力のサポートは、ものすごそうだな」


動けるようになったマクスが最初に見たのは、空を自在に飛ぶ麻子の姿でした。

日本で一緒に暮らしていたマクスは、麻子が一見しておとなしそうに見えるけれど、芯が強くここぞという時には譲らない頑固な性格だということはよく知っています。


そんな麻子が手に入れた魔法の力。

今までマクスの周りにここまでの魔力量のものはいませんでした。


「これならシガルばあさんも文句は言うまい」

「シガルばあさん? マクスさんのおばあさんですか?」

「いや、直接の親族ではないが、ナサイア一族にとっては大きな影響力を持っている長老だ。このばあさんがナサイア一族の(おさ)を決める。そしてその伴侶もな」

「伴侶……」


麻子は忘れていた胸の痛みを思い出しました。


神様に、二人でここの世の終わりを防ぎなさいと言われたり、ここ何日かマクスの介護をしていたりするうちに、マクスがナサイア一族の家長かもしれないということを、すっかり忘れていました。


急に沈み込んだ麻子を見て、マクスは意を決したように話し始めました。


「アサコ、これから大切なことを話す」

「……はい」

「俺の名前、ナサイア・ド・マクシミリアン・バンダルのド・バンダルというのは、バンダル家の家長であるという意味だ」

やっぱり、マクスは家長だったんですね。それに家の名前がやっとわかりました。バンダルだったんだ……


「家長さんだから、新年の神事に出席しなければならないんですね」

「そうだ。それに今年の神事ではナサイア一族の(おさ)が選出される。その長の最有力候補が俺なんだよ。しかしいつの世にも、自分の利益のためだけに動く(やから)がいる。それが今回、俺を(おとしい)れたウランジュール家の人間だ」

「ウランジュール家の人が、マクスさんをあんなひどい目に遭わせたんですか?!」


おのれ、ウランジュールめ!

大切なマクスさんを…………目にもの見せてくれる!


麻子の顔がよほど怖かったのか、マクスは「まあまあ」と手をあげて、麻子の怒りを(なだ)めました。


「そんなに怒るなよ。ウランジュール家の全員が敵という訳じゃない。現にシガルばあさんもウランジュール家の傍系の人間だ。実は……旧政府と癒着しているナサイア・ド・クラナガン・ウランジュールという人間が今回の首謀者だということはわかっているんだ」


「旧政府?! 敵は旧政府だったんですか? てっきりマクスさんは旧政府側の人だと思ってました。でも今、都は新政府側の人間でいっぱいだって聞きました。それなのにどうしてマクスさんが……」


「まて、そういきり立つな。俺は新旧どちらの政府にも関わっていない。ただ俺の婚約者の縁先に新政府側の人間がいてな、旧政府の者たちが自分たちの御しやすい(おさ)を選ばせようと画策しているという情報を掴んできた。」

傀儡(くぐつ)というわけですか……」


「ああ。どうも旧政府の者たちはウランジュール家のクラナガンと手を組んで、奴の息子のケンドリックスをナサイア一族の長にしようと目論んでいたらしい。そこで穏やかに政府を改革しようとしていた者たちは、一気に革命を起こさざるを得なくなったという訳だ」


ケンドリックスというのは、リーン神が言ってた人ですね。

でも、はぁ~

婚約者……やっぱりいたんだ。


麻子はズキリと胃の腑に射し込むような痛みを、作り笑顔で抑えこみました。


「あの山小屋にいた時に念話がかかってきて、エロールには俺が都に帰る光月までは、改革を待つようにいったんだけどな……どうも待てなかったみたいだ」


念話というのは、電話のことでしょうね。そして……

「エロールという方が、マクスさんの婚約者なんですね」


「ああ、婚約者だったと言ったほうがいいかな。アサコ、俺は山にいたあの時、子鈴に呼ばれて都に帰ったんだ。そこでエロールにもシガルばあさんにも結婚の話を解消してくれと話をした」

「え?」


マクスは真剣な目で麻子を見つめています。

あの原始魔法爆発で転移する前に、もの言いたげに麻子をジッと見ていた時の目つきに似ているような気がしました。


「俺は……お前に惚れた」


「………………」

な、何か信じられない言葉が聞こえたような気がします。

本当に? 本当なんでしょうか?


「言いたいことを言い合って、一緒に仕事をして、何気ないことに笑って、そんなお前との生活が妙に心地よくて、知らず知らずのうちにあの日本での生活が永遠に続くことを願っていたんだ」


「マクスさん……」


「アサコは俺を助けに来てくれた。うぬぼれても……いいんだよな?」


マクスの念押しするような問いに、麻子は真っ赤になってコクコクと頷いたのでした。

そんな麻子を見て、マクスは安心したように深い吐息をつきました。


「アサコ!」

初めて抱かれたマクスの胸は、大きくて熱い胸でした。力の戻ってきたゴツゴツとした両腕が、涙ぐんでいる麻子を強く抱きしめて離しませんでした。

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