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5. ケメコの私服

 委員長は相変わらずクラスの指揮を執り続けている。文化祭一日前とあって不備がないかの確認を入念に行っていた。

 

 部屋の飾りつけも終わって、あとはこまごまとした作業にうつっている。

 女子たちの中には着心地を確かめるためにメイド服姿になっているものもいた。

 男子たちはそんな女子の姿を見ながら雑談に興じていた。

 

「いいねぇ、いつもの制服姿と違って華やかだ」

 

「オレは制服姿も好きだけどな。そういえば2年のときの修学旅行は私服でもオッケーらしいぞ。先輩に聞いた話だとだいたい私服で来るらしい」

 

「まじかよ、何着ていくかな」

 

 男子たちの会話を耳に入れながら、文化祭当日にケメコをどうやって紹介するかという段取りを考えていた。

 

 ん……私服……。

 

「あーーーーーっ!」

 

 メイドロボのケメコが私服など持っていないということを思い出す。メイド服のままつれていったら、本当にメイド愛好家だと思われてしまう。

 

 まずい……、今すぐ帰ってケメコの服を用意しなければ間に合わない。

 しかし、さすがに文化祭前日に途中で抜け出すというのはいいずらかった。

 

「いいよ、いってこいよ」

 

 村田が親指で教室のドアを指差している。

 

「え、いいの? というかなんでわかったの?」

 

「いや、そりゃあわかるだろ。なぁ?」

 

 近くにいた男子たちはうなずきながら苦笑を浮かべている。

 

「最近の相沢って変だけど、なんかがんばってる感じだしさ。やっぱり彼女ができると変わるもんなんだな。応援してるぜ」

 

 純粋な目でぐっと親指を立てる村田の様子を見ていると、罪悪感が腹の底にたまりぐるぐると渦巻きだす。

 騙しているということは墓場までもっていこう……。

 

 電車の移動中に、ケメコに着てもらう服はどんなものがいいかとスマホで調べていた。

 そして、その値段に頬が引きつらせていた。

 

 なんで……女子の服ってこんなに高いんだ……。

 

 せいぜいが3千円ぐらいかと思っていたら、その二倍三倍はしていた。

 貯金していたこずかいで足りるだろうかと悩んでいたところに、メールの着信音が聞こえた。

 

 差出人はサイバーテクノロジー社であった。

 なんだろうか? もしや、3日後にくるレンタル終了日を報せるために送ってきたのかと思いながら文面を読み上げる。

 

「は? え? どういうこと?」

 

 そこには、送ったメイドロボに不具合があったことへの謝罪が書かれ、至急送り戻してほしいという旨がかかれていた。

 しかし、今送り返してしまえば明日にせまった文化祭には絶対に間に合わない。

 不具合といってもあのポンコツAIのことでもいっているのだろうと、無視することにした。

 

 

 玄関を開けるが、家の中は静かであった。

 ケメコはどこにいるのかと探そうとしたところで、すぐにその姿を見つけた。

 リビングのソファにもたれかかったまま目を閉じていた。

 

「ケメコ、ただいま」

 

 抑え目の声をかけるが動き出す様子はなく、寝息をたてながら胸が静かに上下している。

 

 ケメコはアンドロイドのはずである。

 

 しかし、一緒に過ごし、ご飯を一緒に食べてたりしているうちにそのことを忘れそうになることがあった。

 丸みを帯びてあどけなさを感じさせるケメコの寝顔をじっと見ていると、不意に電子音が鳴り響く。

 慌てながらポケットからスマホを取り出すと、見知らぬ番号からの電話であった。

 

 着信を止めると、無機質さ感じさせる水晶のような瞳がボクを見ていた。

 その表情もいつもの微笑みはなく人形のように硬かった。

 

「……起こしちゃったところ悪いけれど、今から買い物にいくよ」

 

 アンドロイドでも寝起きは不機嫌になるのだろうかと思い、気遣うように話しかけるとすぐにいつもの表情をとった。

 

「はい、かしこまりました。どのようなものがご入用でしょうか?」

 

「文化祭でケメコが着る私服だよ。まさかそのままメイド服でいかせるわけにはいかないだろ」

 

 ケメコは何度か瞬きした後、かすかな笑みを浮かべる。

 

「私服ならば問題ありません。おぼっちゃまの恋人として恥ずかしくない格好でいくつもりですから」

 

「え……ああ……、そうなんだ。なら、いっか」

 

 釈然としないままだったが、明日の文化祭をどうやって切り抜けるかの方が大事だった。

 


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