4. 人間にあこがれるアンドロイド
次の日、学校は朝から賑やかな生徒たちの声が響いていた。
文化祭2日前となると通常授業はなくなり、すべて準備のための時間に使える。
校庭ではステージの設置や、学校入口のアーチの組み立てを指示する声が響いていた。
ボクたちのクラスでも教室内を喫茶店に改造するべく、委員長の指揮のもと飾りつけの真っ最中である。
テーマは『カントリー風カフェ』らしい。
女子たちは実に楽しげに飾り付けを楽しんでいる。
「見てみて~、このガーランドめっちゃいいよね」
ガーランド、まるで外人みたいな名前だが、ヒモに連続したオブジェを数珠繋ぎにしたもののことらしい。
よくわからないまま、この日まで色んなガラの布きれをちょきちょきとひし形に切っていた。それが、目の前で形になっていく。
「……万国旗?」
「ちがうよ! フラッグガーランドだよ。万国旗とか運動会じゃないんだから……」
ぼそりとつぶやいた感想に、作業をしていた女子たちから過剰に反応されてしまった。
その他にも近くの木材店からもらってきたという木片などを使って飾りつけは進んでいく。
味気なかった教室がこじゃれたカフェっぽくなっていくのは見ていておもしろい。中学の頃にはなかったことが体験でき、この高校に入れてよかったと思える瞬間であった。
教室の外での飾りつけを手伝っていると、他のクラスの状況も目に入る。
ときどきクラスの出し物の衣装を着た人間が廊下を通り過ぎていく。
頭からシーツをかぶってお化けの格好をしたやつや、魔女の格好……、そしてメイド服?。
うち以外にもメイドを出し物にしたクラスなんていただろうかと不思議に思っていると、視線の先の女子が近づいてくる。
「修一さん、きちゃった」
可愛らしい言葉とともにかわいらしく上目遣いをするケメコがそこにいた。
仕草はそれっぽいが表情が硬いままである。
「きちゃったじゃないよ! なんでここに!?」
「姫宮可憐はおちゃめな性格でサプライズが好きと書いてあったので」
ボクの反応を見てから、さきほどのコケティッシュな仕草をやめ、顎に手を当て考え込んでいる。
「こういうサプライズはいらないから……、心臓に悪すぎる……」
大声をあげたせいか近くで作業してた男子がこちらを見ている。
「大声あげてどうしたんだ? 相沢」
「な、なんでもない! 大丈夫だ!」
なんとか誤魔化して早くケメコをここから連れ出そうと焦っているところに、委員長の声が聞こえてきた。
「だれか、ゴミ捨ていってくれない?」
「はい! はいはい! ボクがいくよ!」
いつもと違って、誰よりも早く手を上げたボクに困惑する委員長から、奪うように膨らんだゴミ袋を受け取る。
「ねえ、相沢君、そこの子って……」
「ケメコ! 行くぞ!」
委員長の疑惑の目を振り切り、ケメコの手をつかんで足早に離脱する。その手の感触は人肌とは違うひんやりとしたものだった。
ようやく、校舎裏のゴミ捨て場に着いたところで息をつく。
「まったく……、どうやって学校に入ったんだよ」
「いまなら他の生徒の振りをすれば侵入もたやすいと予測しました」
外に買出しにいく生徒もいるため守衛の目も厳しくなかったのだろう。生徒たちも制服でいるよりも動きやすいジャージやTシャツ姿がほとんどである。
「とりあえず家の留守番しててほしい。たぶん今日は文化祭の準備で遅くなると思う。晩御飯の用意とかはできるとこまででいいからね」
ボクの手から家の鍵を受け取ると、ケメコは一礼して去っていった。
ため息をつきながら教室にさりげなく戻る。さりげなく、なんでもなかったように……。さっきのケメコのことでなにも言われませんようにと心の中でいのった。
しかし、不安は的中して委員長から抑え目の声で話しかけられた。
「ねえ、さっきの子なんだけど、相沢君の知り合い?」
「あー……、うん……、まあね」
さすがにあそこまではっきりと名前を読んでいたのに知り合いじゃないと言い切れるわけもないので、うなずいておく。
「そう……、だめじゃない外部の人間をつれてきちゃ」
「ごめん。勝手にきちゃったみたいでさ、ちゃんといっておくよ」
委員長の注意してくる口調はいつものように竹を縦に割るような勢いはなかった。年恰好も似ているケメコが、この学校の生徒でないとばれたのか聞きたいところだった。しかし、やぶ蛇にならないように余計なことは言わないに越したことはないだろう。
家に帰るとケメコが出迎えに玄関に現れる。
「おかえりなさい、おぼっちゃま。昼間は失礼しました」
「いや、大丈夫。なんとか誤魔化せたから、たぶん……、きっと……」
文化祭の準備で疲労のたまった身体をソファに預けていると、そわそわと落ち着かない様子でケメコはちらちらとこちらに視線を送ってくる。
そういえば、そろそろ夕飯の時間だなと立ち上がり台所に向かう。
そこにはキャベツの千切りとタレに漬け込まれた豚肉が用意されていた。
ケメコの見ると、そこには自慢げに胸を張る姿があった。
昨日の料理になれていない様子から、ここまでのことができたなら大した進歩である。どうやら、これを見せたくてさきほどから落ち着かない様子だったのだろう。
「おー、すごいじゃないか」
「これが最先端のメイドロボの実力です。未来を担うアンドロイドを送り出す企業サイバーテクノロジー社に不可能はありません。気に入っていただけたなら、ぜひご購入を検討ください」
「わかったわかった」
しっかりと宣伝もこなすケメコに苦笑する。
フライパンに火をかけて肉をのせると台所に香ばしいにおいがただよう。
重たそうにフライパンをゆするケメコに代わって肉を焼き、もりつけを彼女に任せた。
テーブルの上に出来上がった料理の皿を並べ食卓につく。いつもよりおかずは少ないが自らの手でつくりあげたことに満足感があった。
「おぼっちゃま、高校というところは賑やかでおもしろそうなところですね」
ケメコが自分から話題をふってくることに珍しさを感じた。何もすることがないときは、微笑んだままじっとしているため、何を考えているのかわからないことが多かった。
初めはそんな彼女に気まずさを感じたが、それが彼女のとっての自然体だと理解し始めると静かな空間も嫌いではなくなった。
「あれは特別バージョンだよ。ふだんはそんなんでもないよ。授業を受けて、終ったら帰るだけ。ひとによって部活にいったりもするけどね」
ごはんをほおばりながら、妙なことを気にするアンドロイドだなとケメコの表情を見るが、やはりいつもどおりの微笑を浮かべているだけで考えを読み取ることができなかった。
もしかしたら、ケメコは高校生活というものに興味を持っているのだろうか。
人間にあこがれるアンドロイドねぇ……。
「ケメコって、うちに来る前ってどんな家で働いていたんだ?」
「その記憶は残っていません。契約期間が終了したメイドロボは廃棄されるか、メモリーをすべて消去された上で再利用されます。個人情報の保護というやつですね」
「それじゃあ、レンタル期間が終わるとケメコの記憶は……」
「おぼっちゃまとの記憶も残らないでしょう」
紙くずをゴミ箱にすてるように気軽にいうケメコに寂しさを感じた。
「……怖くないのか? 用が済めば記憶を消されるんだぞ」
ボクの問いに彼女は、「よくわからない」と静かに口にするだけだった。
彼女のメモリにボクとのやり取りが残らないこと、それはいいことなんだ。ケメコに彼女役をやらせたと知る者はボクだけになるのだから……。
そうやって自分を納得させようと、味付けが薄めの肉を口に放り込んでごはんをかきこんだ。




