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【旧版】ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様  作者: 逢月 悠希
第6章 ストーカー、情報屋を掻き乱す。
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66.ストーカーと会話を試みる/前

 喫茶店での会議が行われた翌日。テオバルドを隔離しているグレンウィルの家にクリスティナとレヴィ……それからラザラスが派遣された。


「さて、作戦は簡単よ。とりあえず雑談してきて。あの子、アタシには完全に心閉ざしちゃってるし……この際、仲良くなってくれたら今回はそれで良いわ」


 件の部屋から離れたリビングルームで、グレンウィルを含めた4人は作戦会議を行う。


「ラズちゃんは念のため。念のためすぐに突入できるようにしておいて。多分、そんなことは起こらないと思うけど……思いたいけど……」


「は、はい……」


「ティナちゃんも。何かされそうになったら大きな声で叫ぶのよ。良いわね?」


「分かったけど……うん……」


「レヴィちゃんは……」


「あたしは早撃ち得意なので大丈夫です」


「そうね」


 レースとリボンたっぷりの可愛らしいスカートの中に拳銃を隠し持つ物騒な少女は問題ない。しかしクリスティナとグレンウィルは非戦闘要員である。そのため話し合いには参加しないが、一応ラザラスをスタンバイさせておこう……ということで、このメンバーが集められた。

 なお、ラザラスがいるということはロゼッタも場にいることになるが、もはやそれは自然の摂理であるため誰も気にしていない。まあ何かあれば彼女も協力してくれるだろう。


「グレンさん、ここ1カ月くらいどんな感じですか?」


「部屋から出たがったのは最初の1週間だけね。居候してる自覚はあるみたいで、部屋には入れてくれるのだけれど、あんまりしつこくしたら追い出される……そんな感じ」


「人の家で引きこもりしてやがる」


 一体何をしているんだか、とラザラスが呟く。それを見て、クリスティナはくすくすと笑い始めた。


「この際だから言っちゃうけど、ラズよりはだいぶマシだよ。ラズが引きこもる時って鍵閉めてチェーンロックまでして、さらに棚持ってきて二重扉作っちゃうもん」


「う……っ、い、今は移動できそうな棚置いてないから!」


「うんうん、そういう問題じゃないんだけどね。まあ……ラズはもうちょっと物増やしちゃって良いとは思うんだけど。最近推理小説しか増えてないし」


 また引きこもらなければ良いんだけどね……と内心思いつつ、クリスティナはレヴィと視線を交わす。そろそろ行こう、という意思表示だ。


「ラズちゃんは動きがあるまではここでのんびりお茶してましょう……アタシね、唐突にニートになってる気しかしないオスカー社長のことが気になるの。ジュリーちゃんのお見舞い行くと、あの人絶対いるもの……」


「あー、はい。必ずと言って良いくらいにいますね……詳しくは聞いてないのですが、オスカーさんは何故か少しずつ俳優業をセーブし始めたみたいで……社長業はテレワーク的な感じで続けているみたいなので、ニートではないっぽいです……」


「えーと、えーと、行ってきます! 僕もその話題ちょっと気になるけど、聞いてたらいつまで経っても始まらないし!!」


「あ、ごめんなさい! お願いね、身の危険を感じたら叫ぶのよ!!」





「こんにちは。僕はクリスティナ=ブルーム。大体ティナって呼ばれてるよ」


「あたしはレヴィ=フロックハート。先日、捕縛されたあなたを床に沈めていた者です」


「え、何これ? 俺は一体何を求められてるの? 何らかの目的があることは分かるんだが、斜め上の方向にぶっ飛び過ぎてて困る」


 これに関してはテオバルドが正論だ。居座っている形になっているとはいえ、唐突に自室的な場所に女性が2人乱入してきたのである。理解できないのも無理はない。


「簡単に言うとお話ししに来たの。何かしら事情があるとは聞いてるけど、詳細は何も聞いてないから適当に喋ろう? あ、こんな見た目だけど、僕は24歳だよ。成人してるし何なら年上説まであるけど、あんまり気にしないで普通に話してね。楽しく会話しようか」


「えーっと……?」


「何か……問い詰めすぎて、あなたが何も喋らなくなったとは聞いています……」


「あー……まあ、喋る気は確かに失くしてたから、ありがたいかも。俺、話すの自体は結構好きだし、黙ってるとストレス溜まるんだよな」


「珍しいタイプの人だぁ!」


「何? 何なの? 君らの周りにはだんまり族しかいないの?」


 グレンウィルやエマのようによく喋る人間もいなくはないが、大体は喋ることを苦手とする、もしくは自発的にはあまり喋りたがらない人間がクリスティナやレヴィの周りには多い。

 少なくとも『話すのが結構好き』と言えるような人間は皆無と言っても過言ではない。だからこそ、テオバルドのようなタイプはかなり希少なのだ。


「うん、コミュ障かコミュ障気味かコミュ障隠して頑張ってるタイプが目立つかな」


「ひでぇ」


「あはは……」


 本当に酷いせいで、何も言えない。


「ただ、ラズだけは元からコミュ障ってわけじゃないんだけどね……後は多分、軒並み……」


 複雑な家庭環境から来る孤独感ゆえに無理をしていた可能性も無くはないが、夜道を歩けば後ろから刺されそうだった時代の彼はむしろコミュ充と言っても良いような状態だった。


「ラズって……ラザラスのことか。あいつ、大人しいんじゃなく拗らせてんのか。まあ、仕方ないんだろうが……」


「そもそも口調から変わっちゃったような気もする。昔はもっとぐいぐい来るタイプだったんだよ? それこそテオバルドさんみたいに」


 ふうん、と軽く流す気満々だったようだが、クリスティナは見逃さない。どうやらテオバルドはラザラスの事情を知っているらしい。


「ところでラズのこと、知ってるの? 僕はラズのお姉ちゃん的な何かだから、世間一般的にラズがどういう感じに見られてるのか、ちょっと気になる」


 実際のところは、クリスティナもレヴィも完全にテオバルドに関する情報を持っていないわけではない。

 彼女らは彼が誰かしらを元に作られたキメラドールで、その元が『ラザラスの関係者かもしれない』という情報は持っている。彼を題材にすれば、何かしら引き出せるかもしれない。


「気になる、とは?」


「昔ね、ラズはあることないこと広められちゃったことがあって。今でも変な印象持たれてないかっていうの、結構気になってて……ほら、僕は身内だからさ。どうしても客観的な立場では見れなくて」


「あー……なんかあったらしいな。それで今は違う名前名乗ってるんだろ? まあ、テレビとか見てたらねぇ。多少は」


「テレビ、見れる環境だったんだ。それで本人見てピンと来たの?」


「ん? ああ……じっと見る時間は無かったが、俺は下働きというか、奴隷みたいな感じだったし……ほら、仕事中でも音声は聞こえるし、容姿なんかも画面ちら見すれば分かるじゃないか」


(うーん、あの頃は未成年だったから、ラズは顔とか音声は流されなかったんだけどな……テレビだけじゃ本人って結び付かない筈なんだけど……)


 この国は重大犯罪を除き、基本的に未成年者に関する情報は伏せられることが多い。

 しかし未成年であるにも関わらず、ラザラスの名前が広まってしまったのは『加害者が財閥の御曹司であった』という1点が原因だ。加害者側が声高々に叫んだことにより、名前が流されてしまったのである。

 流石にそれ以外の情報は伏せて報道されていたものの、名前が流され、しかもそれは『ラザラスが加害者』であることを前提としたような報道だった。結果、彼に関する情報を持っていた人間は、面白半分にネット上で彼の情報を流してしまった。メディアも、それに便乗する形で偏見報道を続けたのだ。


 不幸中の幸い、オスカーの働きかけによって比較的早く事態は収束し、新たに情報がネットに出回るようなことも無くなっている。とはいえ、当の本人は今もなお立ち直りきれてはいないのだが。


(ここに来る前に検索は掛けてきたけど、もう全然情報落ちてなかったし……何なら、生放送出ちゃった時ですら大丈夫だったんだよね。保護されてから得られる情報でもない気がするけど……)


 エマが多少情報を渡してはいるようだが、それなら単純に「エマから聞いた」と言えばいい。そう言わないということは、何かを隠していることになる。

 やはり元からラザラスのことを知っていたと考えるのが一番辻褄が合うのだ。


(もうちょっと攻め込んでみようか)


 仲良くなってきて、とは言われたが、探りを入れてはいけないとは言われていない。

 クリスティナは論戦はあまり得意ではないため、誘導を掛けて知っている情報を吐かせるだけ吐かせる作戦に出ることにした……多分、この男は口を滑らせるタイプだ。


「僕、ラズと幼馴染なんだよね。家族ぐるみの付き合いで。だからラズが大変だったのは知ってて……テオバルドの口から悪口が出てこなくて安心してる。だってラズ、僕から見たら完全な被害者だし」


「何言ってんだ、襲われた方が被害者に決まってるじゃないか」


「そうなんだけどね……逆恨みって怖いよね」


「目立つ奴は大変だよなぁ。アレはこの国には随分と珍しい容姿だしな」


「そうそう。青い目だから、竜人の血が入ってるんだと思う。その割に、何故か魔法使うのは下手なんだけど……」


「単純に母親の血が濃いんじゃないか?」


「あー、なるほどね。いやー、ラズのお母さんしか見たこと無くて……全然似てないし、見た目はお父さん似なんだろうなって」


「だな。あれは典型的なハウライ人だからなぁ……純粋にハウライ人だっつっても通りそうだ」


(い、いや、わざと? それとも馬鹿なの……!?)


 淡々とキャッチボール式に話してみたが、出るわ出るわ。

 別にラザラスの父親が竜人だとも、その父親がハウライに多い白竜(ケツァルコアトルス)だとも言っていない。それ以前に、そもそも彼がハーフであるとすら明言していない!


 テオバルドは元があるキメラドールであることをエマに吐いたようだが、正体に付いては沈黙を貫いている……にも関わらず、これだ。残念ながら正体を隠したいようには到底見えない。馬鹿なのか、それとも、何か理由があるのか……。


(隠したいけど、話したい。そんな感じなのかなぁ)


 エマと顔見知りらしいことは分かっているが、そうなるとグレンウィルやヴォルフガングとも顔見知りだ。彼らが過度に突かなければ、それなりに情報を洩らしていたのかもしれない。突かれるから喋らなくなってしまったのだろう。


「……本当は、何か話したいこと、あるんじゃないの?」


 ぽつり、とクリスティナが溢す。話すのが好きなのであれば、思うように話せない状況は苦痛なのではないかと感じたのだ。その問いかけに、テオバルドは目を丸くした。


「まあ……無くは無い、が。色々聞いてみたいとか、まあ……うん」


「何とも言えない返し方するね……」


「改めてそう言われるとな、ちょっと反応に困るというか、言いにくいというか……そもそも俺には話題らしい話題が無い」


「うーん、プロフィール的な話題にしてみようか……テオバルドって、何歳?」


「……俺は何歳なんだろうな? 確かに自分の年齢は気になるな。君より歳下なのは確定なんだが。まあ、ほとんど変わらない気もするけどな」


 何故そう思ったのか。それを何とか、自分で話すように持っていきたいところだが……。


「とりあえず成人はしている気がする。いや、してるだろうな……19歳以上なのは間違いない。多分30までは行ってない」


「……。ラズは23歳だよ」


「なら23かと。多分」


 正体を隠したいなら即答するんじゃない。

 歳下確定だと言い出した理由が『ラズのお姉ちゃん的な何か』と言ったことしか浮かばず、試しに口に出してみた結果がこれだ。

 どうやら彼の中では自分はラザラスと年齢が横並びになる筈、という認識があるらしい。つまりクィールとも同い年ということになる。


「やっぱり歳下だね。それ分かっただけでも良かったかな」


 あまり触れすぎると喋らなくなるため、これくらいで引くことにする。何故か断定させて来ないことが気にはなるが……。


「あのさ」


 次の話題を何にするか悩んでいると、テオバルドの方から声を掛けてきた。


「ラザラスと言えば……違う名前を名乗るのって、どういう感じなんだろうな?」


「えっ?」


「いや、俺も……その、あの……ああ、この身体を作られてからはずっと『出来損ない』って呼ばれていたから。テオバルド=アークライトがすぐに馴染むのかなーって気にはなるんだ。ぶっちゃけ現時点では違和感すごいし」


 指摘はしないが、彼の場合は『元の名前』の記憶もあるのだろう。むしろ、言い淀んだことから察するにそちらが強いに違いない。「違和感がすごい」と言うのも仕方がないことだろう。


「ラズは名前は『ラザラス』のままだし、あんまり支障は無さそうだったかな……ラズより凄いことになってる人が他にいるから、その人に聞く方が良いかも。ほら、喫茶店に白い鴉の人、いたでしょ?」


「……。会話してもらえる自信が無いな……」


「寝室に忍び込むから……」


「クィールさん怯えさせるから……」


 何かしら抜けてはいるものの、敵意は感じない。

 とりあえずクリスティナとレヴィの中で『初手でストーカーさえしなければ、こうはなってない気がする』という残念な共通認識ができた瞬間だった……。

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