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【旧版】ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様  作者: 逢月 悠希
第5章 ストーカー、王子様を見守り続ける。
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63.ストーカーと人魚の王子様

半年置き投稿作品みたいになっていて悲しい……。

『ねぇ、起きてる?』


 夜中。ロゼッタが眠れずにぼんやりと起きていると、頭の中にジュリアスの声が響いた。どうせ眠れないし、お話を聞くのも悪くない――そう思い、テレパシーに返事をすることにした。


『起きてますよ。どっか移動した方が良いですか?』


『病室から出ては来て欲しいかな。アンタの病室の前にいるから』


『前!?!?』


 オスカーが帰る前に【痛覚麻痺】を掛け直してくれたことと、その後しばらくじっとしていたこともあり、身体はもう痛くなかった。

 居ても立っても居られず、ロゼッタはソファで横になっているラザラスを起こさないように気を付けながら、こっそりと病室を抜け出す。


「やぁ」


「い、いや……『やぁ』じゃないでしょう……?」


 基本的にろくでもない行動しか起こさないロゼッタだが、今回に関しては彼女が正しい。ジュリアスの行動がぶっ飛び過ぎている。

 ロゼッタは目の前の車椅子に乗って笑う青年を見て、どうしたものかと狼狽える。


「来ちゃいました」


「病室に返品するのが正しい気がするのですが」


 そもそも、つい最近まで昏睡していた男が、何故普通に動けているのか。


「返品しないで欲しいなぁ。で、何で動けるかって? ラズ達と再会する前、オレの精神が最高に不安定だった時期に車椅子への移動だけは無理矢理訓練させられてたからかな」


「!?」


「その頃は『リハビリとかどうでも良いから、もうさっさと殺して欲しい』くらいに考えてたけど……今となっては感謝してる。こうやって、こっそりアンタに会いに来れたしね」


「いや、その、もしかしなくとも、アンジェさん状態ですか?」


「そ。ちょっと困ってる……アンジェとオスカーさんには相談したんだけど、諸々の事情があるからさ。こうなってること誰にも言わないでね?」


 元から勘は鋭いタイプに見えるが、それにしたってこちらが考えていることが読めすぎている。そう思ったロゼッタの問いかけを、ジュリアスは迷うことなく肯定してみせた。


「だからさ、もう少しオレが安定したら、魔力の制御の仕方教えてくんない? アンジェ状態なのはこの際どうでも良いとして、流石に歩く爆発物にはなりたくないからさ」


「あはは……はい、わたしで良ければ。アンジェさんの方も、どうにかできたら良いんですけどね」


「オレが実験的に色んな方法をひたすら試してみようかな。アンジェを助けられるなら助けたいしね。ずっと苦しんでたの、知ってるから」


 これはもう心配しなくて良さそうだな、とロゼッタは安堵する。

 それと同時に、穏やかで、相手に全く警戒心を抱かせない人柄だからこそ、あのラザラスと親友になれたのだと感じた。


(何故か急に……男の人が怖いなって、そう思ってたんだけど……この人は平気だ。すごいな……)


「オレ、何でか知らないんだけど、誰彼構わず『警戒させない』のが特技でね。これだけは自信があるから、行けるかなって思って来てみたんだ……アンタと話したいなって、そう思ったのも事実だけど」


「あ……」


 アンジェリア状態だからこそだろう。やはり、気付かれていたようだ。そんなに分かりやすかったのだろうか?

 せっかくジュリアスが目覚めて、お祝い状態だったというのに……なんだか、情けなくなってしまう。


「とりあえず、移動しない? この病院、巡回に気を付けて移動しないとだけど、実は外、というか中庭に出れる場所あるから……変わってなかったら、だけど」


「え……ざる警備……」


「オレもそう思う。閉められたくないから、秘密だよ?」





「ホントに出れちゃった……」


「わざとなのかな……まさかとは思ったけど、2年前から変わってないとか……」


「出れる確証は無かったんですね!」


「うん!」


 何故かジュリアスが夜勤の看護師さんの巡回ルートを知っていたため、上手く回避しながら中庭まで出てきた。「看護師さん、お仕事増やしてごめんなさい」などと思いつつ、置いてあったベンチに腰掛け、一息吐く。


「大丈夫大丈夫。巡回ルート的に2時間は病室覗きに来ないから」


「その……結構定期的に入院してたって解釈で良いですか?」


「だね。オレ、足は元から悪かったんだ。走れないし、調子悪い時は杖付かないと歩けないし、定期的に車椅子乗ってたしって感じ……本当は、とっくの昔に切断されてたって、おかしくなかったんだ」


 それは、ロゼッタが座るベンチの傍で、慣れた手つきで車椅子のストッパーを降ろす様を見れば分かる。そもそも車椅子の操縦にも慣れ過ぎている。彼の足が元からボロボロだったことは察していたが、それが『随分と前から』であることを理解するのは、そう難しいことではなかった。


「んー、そうだね」


 もはや諦めているが、考えることが筒抜けになってしまう。とはいえ、元々身近にアンジェリアがいた都合上、ロゼッタはこの現象に慣れているので気にはならないし、これはこれでコミュニケーションだと普通に受け入れている。元々ロゼッタは裏表が無いに等しい人間だ。あまり困らないのである。


「アンタ、察しが良いっぽいね……それで合ってる。もう6年前になるのかな……生まれ故郷の洞窟が、崩落して。その時にオレ、アンジェを庇って、両足潰したんだ……アイツ、そのことにずっと責任感じてたんだよね」


「まあ……助けられた側からしてみれば、そうなりますよね……」


 話を聞いているうちに、ロゼッタは無意識に俯いてしまっていた。

 現在のジュリアスは、両足共に太腿より下が魔導義肢となっている。彼はたまたまオスカーという様々な方面に顔が利きそうな人間が背後にいたからこそ、それを手にすることができたわけだが……普通に生きていれば、まず手に入らない代物であることはロゼッタでも理解できる。


「あの時も言ったけど、断れないって分かってるし、苦労させるって思ってたから……オレの想いなんて、とてもじゃないけど言えなかった。後押ししてくれたこと、ホントに感謝してるよ。ありがとね」


「あれは単なるエゴでしかないんです。感謝されることじゃ……」


「オレが一番人のこと言えないのは分かってるけど、自分のことは棚に上げて、蹴り飛ばす勢いでアイツの背中押そうと思う」


「えっ」


 困惑と共に顔を上げれば、ジュリアスは「やっと顔上げてくれた」と困ったように笑った。その優しげな顔を見ていると、色々と思うところが出てくる。考えている内容が筒抜けになることは分かっているため、ロゼッタは多少躊躇いつつも、それを口に出すことにした。


「あの……っ、あ、あなたも、大変だったんですよね? こうなる、前から……なのに……」


「優しいって? そう思ってくれると、素直に嬉しい。オレも……間違っても余裕があるわけじゃないからさ。ちゃんと対応できてるか、不安ではあってね」


「余裕なんて、なくて当然だと思います。そういうわたしも、あまり……」


「ごめんけどアンタは分かりやすい。当たり前だよ、オレのは職業柄ってのもあるし、育ち方のこともある。今となっては好き放題に負の感情出せるけど、人前では常にニコニコ笑ってなきゃ駄目だったんだよね」


「……」


「バカらしいなって笑って欲しいんだけどさ、オレの元の『お仕事』は村で崇められていた神様のために踊ること。神楽舞って奴だね」


――元通り舞えたところで、あの村でのオレの扱いなんて、たかがしれてるのに……オレ、本当にバカみたい、だろ……?


 そういえば、ジュリアスはあの時、随分と後ろ向きなことを言っていた。元々住んでいた村での扱いが、非常に悪かったことは確実な言葉だ。


「そうだね。普段は、鉄格子で入口が塞がれた洞窟の中に放り込まれて、誰かが来たら笑顔で対応して、儀式の日には鎖を付けられて外に出されて、言われるがままに祭壇で踊る……それが、普通だって思うような生き方してたんだ」


 ジュリアスは繁殖場等といった気味の悪い場所ではなく、『外の世界』で産まれた存在だ。

 しかし彼は、ロゼッタと同じ『異形』の竜人。閉鎖的な村の中に、彼が普通に生きられる場所はなかったのだ。結局は彼も、『閉ざされた世界』で生きることを強いられた存在だった。


「どっかから逃げてきて、洞窟の中に棲みつき始めたアンジェに外の世界の話を聞くまでは、全然『おかしい』なんて思ってなかった。『外の世界』が存在するんだってことを知って、憧れだしたのもその時。洞窟にはアンジェが入ってきた小さな穴があったけど、この翼じゃ飛べないし、外になんか出れなかったんだけどね」


「……」


「そうこうしてるうちに、唐突にオレが自我を持ち始めたって怪しんだ村の人達が洞窟に乗り込んできて、アンジェが見付かって、オレを穢したとかそういう理由で彼女、目の前で殺されそうになって。全力で抵抗した結果、入れ墨じゃ制御不能なレベルで魔力が膨れあがっちゃって……結果、洞窟が崩落して潰されて、踊れないならお払い箱、忌み子は出ていけ……みたいな感じ?」


「酷い……」


「ほんとにね。でも……なのにオレはさ、村から追い出されても『神楽を舞う』ことが自分の存在価値だと思ってた。後々、この声と音楽的センスを評価してもらえるようにはなったけれど……やっぱり、長年やってきた方に気持ちが引っ張られたんだろうね」


 だから、彼は『元通り舞えること』にこだわり、二度と元には戻らないと分かっていたのに足を繋げたままにしていたに違いない……きっと、痛みだってあっただろうに。


「……」


 ロゼッタが無意識に拳を握りしめていると、ジュリアスはふいに、「話は変わるけど」と口を挟んできた。


「童話に出てくる『人魚姫』って、足を手に入れた後も苦しんだって話、知ってる?」


「人魚姫……?」


 人魚、は分かる。足が魚になった人型の生命体だ。

 架空の存在だが、人魚を模したキメラドールが存在するらしいという話は聞いたことがある。

 ジュリアスが話しているのは架空の存在の方だろうが、どちらにせよロゼッタはその童話を知らない。


「知らないみたいだから、ざっくりあらすじ交えて話すね。人魚姫は嵐の夜に溺れた人間の王子様を助けて、そして王子様に恋をするんだ。だけど王子様は地上で生活していて、人魚姫は海で生活している。だから、会えないんだ。それでも王子様に会いたかった人魚姫は魔女にお願いして、地上に行けるように足を手に入れて……その代償に声を失って。そこまでして手に入った足は歩くたびにナイフで抉られてるのかってくらいに酷く痛むんだ……しかも人魚姫は、その恋が叶わなければ、最終的に泡になって消えてしまう」


「こ、恋は、叶うんですよね……?」


「叶わないんだよねぇ、それが」


「……」


 ジュリアスが唐突に語り出したのは、悲し過ぎる童話の話だ。何故この話をしたのかと聞くまでもなく、彼は勝手に語り始める。

 能力に目覚めたばかりだというのに、暴走させているというよりは、力を使いこなしている。そんな印象だった。


「『足痛い?』って聞かれると、真っ先に人魚姫の話が浮かぶんだよね」


「ということは、やっぱり痛かったんですね……」


「うん、正直ね。痛み止めがなきゃ夜も眠れないくらい。『じゃあ切れば?』って言われちゃいそうだから、誰にも言わなかったけど」


「そんなこと……!」


「ほんっとバカだよね? 強迫観念的な奴だろうなーって思ってるんだけどさ。あの頃のオレはどんな形であれ、足が必要だって思ってた。失ってはいけないんだって。そうじゃなきゃ必要とされないし、幸せになんかなれないって」


 こればかりは、生まれた環境のせいなんだろうけどね――そういって、ジュリアスはどこか悲しげに笑ってみせる。


「……。『人魚姫』は、どうして足にこだわってしまったんでしょうね。苦しい思いをして足を手に入れなくたって、幸せになれる方法、恋が叶う方法……探せば、きっと他にもあったと思うんです」


「オレはね、彼女は人間と結ばれるためには、『人間』になるしかないって思ってたんじゃないかって思ってる。同じ立場に立たなきゃいけないって、そう思ったんじゃないかなーって。実際問題、生活拠点が地上と海ってなかなかえげつない壁だと思うし?」


「でも、結果的に酷い目に遭って、それなのに、報われなくて……」


「これしかないって思うのは、分からなくはないんだ……オレもさ、自分は『人魚姫』になるもんだと思ってたんだよ。彼女と違って、声は出るけどさ。足痛いの我慢して、強引に隣に立ち続けて……目の前で、好きな人が別の人と結ばれて、自分は消える。それが正解だって、思ってた」


 そう言ってジュリアスは「バカだなぁ」と苦笑する。自分の話が無茶苦茶なことに気付いたのだ。


「今にして思えば、それに耐えれる気が1mmもしないんだよ。『正気か?』って思うんだ」


「ふふ、そうでしょうね」


「オレに人魚姫は無理。むしろ人魚姫を尊敬する。絶対に無理」


「もう『人魚姫』じゃなくて『人魚の王子様』ってことで、話を変えちゃいましょう? あなた達はちゃんと結ばれそうですし」


「う……っ、アンタ、割と恥ずかしいこと平然と言うよね……」


 ジュリアスは若干俯き、狼狽えてしまった。芸能人だから『王子様』くらい言われ慣れているかと思いきや、そうでもなかったようだ。しかし、彼はゆるゆると頭を振るい、顔を上げて見せる。


「……それよりも、本題」


 『人魚の王子様』は、真剣な眼差しをロゼッタに向けた。


「アンタは、耐えれるの?」


「え……?」


「人魚姫みたいに、ラズの幸せ見届けて静かに泡にでもなる気? 誰も望まないからやめなよ」


 遠回しにずっと自分のことを言われていたのだと、ロゼッタはようやく気付いた。

 ジュリアスはロゼッタと境遇が似ているからこそ、それに気付いたからこそ、自分の境遇を話すことで、少しでもこの手の話題に対するロゼッタの抵抗感を無くそうとしたのだろう。


「……正直なところ、何も考えていません。わたし、色々と考えないようにしていたみたいで……急に、色々考えるように、感じるようになったみたいで……分からなくて。むしろ、自分のことさえ分からなくて……」


「『幸せになりたい』とは考えてるみたいだけどね。それ、そのまま口に出して良いと思うけど」


「それは……」


 自分には、許されない気がする。

 読まれてしまうのを分かっていながら、ロゼッタは言葉を続けることができなかった。


「オレは、オレに希望をくれたアンタに、希望を抱いて欲しいと思っているよ。多分、今はまだ難しいだろうけど……せめて、幸せになることが許されないことだなんて、思わないで。アンタにもだけど……オレは何よりもアイツに、幸せになって欲しいと願っているから」


「……」


 何かが、こちらに向かって来ている音がした。

 走っている。看護師さんだろうか?


「え、あ、あの、戻らないと……っ」


「だから2時間は来ないってば。まあ……これだけ騒がしくしたら、看護師さんも来ちゃうだろうけど。もう素直に怒られようと思う」


「いや、あの……」


「ダメ元でテレパシー送ってみたら、通じたみたい。前まではできなかったから、闇堕ちしたついでに何かやったっぽいね……ほんっっと、バカだなぁ」


「ロゼ!」


 中庭に現れたのは、ラザラスだった。

 淡い金髪に月明かりが反射して、きらきらと輝いている。


「頼むから、あまり心配させないでくれ……そろそろ心臓が止まりそうだ……」


 彼は安堵した様子でこちらに歩み寄ってくる……かと思いきや、何故かかなり距離を取ってしまい、近付いて来ない。近付いて来てくれない。


「ラズさん……」


 近付いてくれないなら、近寄れば良いのだろうか。そう思い、ロゼッタは歩みを進める。


「お、おい、こら。無理は、しなくて良いから……っ」


「……。気付かれちゃいましたか」


 気付かれたくはなかったが、どうせ、これ以上は無理だった。足が地面に結いつけられたかのように、動かないのだ。それなのに、震えは止まらないのだ。


「大丈夫です。あなたが優しいのは、わたしに何もしないのは、分かっています。しばらくしたら、落ち着くと思います……ちょっと、昔を思い出しちゃった、だけなので」


「……ごめん」


「えっと……ラズさんは悪くないですよね?」


「……」


 何故謝るのだろうか。

 事実、自分が勝手に怯えてラザラスは何も悪くないのだが。そしてラザラスはラザラスで随分ときまりが悪そうに見える。そして彼が何も言わないせいで、沈黙状態と化してしまった。

 どうしたものかと思っていると、背後から「ちょっと?」とジュリアスが声を掛けてきた。


「ラズ。ちゃんと言わないと伝わらないよ」


「き、君は状況把握が早すぎる……!」


「多少なりとも芸能人やってたら、これくらいはできないと生きていけないんだよ。分かる?」


 何かを理解したらしい。

 ジュリアスの状況把握能力が高いことは確かだとロゼッタも感じているが、彼は一体何を理解したというのだろうか。


「……」


 そして再び訪れる沈黙。またジュリアスが何かを言うかと思いきや、今度はそれはないらしい。


「あー……えっと、うん……」


 沈黙を破って話し始めたのは、意外にもラザラスだった。彼はしばらくきょろきょろと目を泳がせていたのだが、どうにかこうにか、といった様子でロゼッタに視線を合わせてきた。


「ロゼ、そのー……めちゃくちゃなこと言うんだけどさ……怖いとは思うんだけど……近付けなくても良いから、頼むから……俺から、離れて、行かないで欲しい……」


「え……?」


「だから、ごめん……怖いなら離れろって、君が楽なようにしろって、言えたらいいんだけど……それは、言いたくないなって……」


「……。むしろ、離れなくて良いんですか? わたし、ストーカーですよ?」


「ストーカーだなんて、思ってない。思い返せば、割と、最初から……」


 それはそれでどうなんだとロゼッタは思ったが、間違いなくジュリアスも思っているだろうが、どこか必死そうにも見えるラザラスを見ると指摘する気にはなれなかった。


「……影の中にいる分には、大丈夫かなって思うんです……でも、ずっと、そのままかもしれない……」


「それでも良いから……っ、俺と、一緒にいて欲しいんだ……っ」


「どうしてですか? それってどうい――」


 ロゼッタが理由を聞こうとしたその瞬間。中庭のドアが勢いよく開いた。それはもう、壊れるんじゃないかという勢いで。


「いずれ来るのは分かってたけどさぁ……ここまでベタな展開にならなくても、良いじゃんか……」


 盛大なため息と共に、ジュリアスはそんな言葉を漏らす。そして、諦めたかのように彼は車椅子のロックを外し、ドアを勢いよく開けた主――ベテランと思しき看護師の元に向かうのであった。


「ごめんなさい。病室帰ります」


「あなたもですよ!!」


 怒っている。当然だ。

 理由を聞いている場合ではない。早く帰らなきゃ。


「は、はい! ごめんなさい!!」


 走ってみた。走れる。これなら明日には退院できそうだ。これ以上、ラズさんに余計な迷惑を掛けずに済みそうだ。


「……うん。これからも一緒にはいてくれそうだし……それだけで充分、かな……」


 少し離れた場所でラザラスが呟いた言葉は、ドアが閉じる音に消されてロゼッタには届かなかった。

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