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【旧版】ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様  作者: 逢月 悠希
第4章 ストーカー、情報収集をする。
45/68

44.ストーカー、アニメを見る。

 最終回だからなのか、いきなり本編に突入した。


『はぁ……っ、は……っ、く……』


 画面には、亡骸に剣を付き立て、乱れた呼吸を繰り返している淡い金髪に青い目をした青年の姿が映し出されている。


(……なんか、色合いラズさんっぽいよね)


 彼が、主人公の復讐鬼アイクだろうか――話を聞いたところ絶対死にそうな主人公の色合いが、微妙にラザラスに似ているせいで、ロゼッタはいきなり複雑だった。


『みんな……約束、守れなくてごめんなさい……』


 クリスティナの補足から判断するに、亡骸はこの国の王だろう。

 しかし、悲願を果たしたというのにアイクは今にも泣き出しそうな顔をして笑っている。どうして、喜ばないのだろうか。


 それ以上に、だ。


(全然声違うんだけど……)


 ラザラスのスマートフォンに残っていたジュリアスの声は、外見の印象そのままの、男性にしては高めな可愛らしい印象を与えるものであった。


 しかし、テレビのステレオから聞こえてくるアイクの声は、ジュリアスの地声から最低でも一オクターブは下げてきている。

 落ち着いた印象を与えるその声は、もはや別人の域であった――これが表向きのALICEの声だとすれば、クリスティナはよくALICEとジュリアスが同一人物だと気が付いたものだ。ファン怖い。



 ロゼッタはアニメの方に思考を切り替える。画面は王の亡骸の上で呼吸を整えるアイクの姿から、アイクの回想シーンに移る。



『せいっ、はぁっ!!』


『まだまだ詰めが甘いぞ! もっと真剣になれ!!』


 映し出されたのは、大樹を囲むように木製の家が立ち並ぶ、緑豊かで美しい場所。事前情報からして、間違いなくアイクの故郷である。


 そこから少し離れた場所で、アイクと男が木刀を交えて戦いの訓練をしている。アイクの剣術はこの男に学んだものなんだろう。


『はい! 父さん!!』


 今、画面に登場しているアイクは最初に見た彼よりもずっと幼く、声も高い。

 女性声優を当てている……と信じたいが、どうもジュリアスが演じているようだ。意識して聞けば、面影が感じられる。


 しかし、今度は普段の声より一オクターブくらいは高い。つまりジュリアスは少なくとも三オクターブ分くらいの声域を操っていることになる……上も下もまだ出そうだが。

 クリスティナの過剰評価でも何でもなく、彼の声帯はお化けだった。



(それにしても……似てない親子だなぁ)


 父さんということは、この男はアイクの父親なのだろう。全く似ていない。


『アイク、お前は本当によく出来た自慢の息子だ。常磐の女神様の愛を感じるな』


『そんな……畏れ多いです、父さん。でも、常磐の女神様はきっと僕を見て下さってる。女神様を守るためにも、僕はもっと強くならなければなりません。明日も訓練、よろしくお願いします!』


(やっぱり親子だよね。血の繋がりないのかな?)


 アイクの村は“常磐の女神”という存在を信仰しているようだ。

 そういえばクリスティナは村の木が世界樹だと言っていたから、つまり世界樹に女神が宿っているのだろう。それを守るのがアイク家の役割なのかもしれない。


 厳しい鍛錬を終え、アイクと父親は村に戻る。村の住民達は、彼らを暖かく出迎えていた。


『アイク、今日もお疲れ様。毎日毎日、本当によく頑張るね』


『お、訓練帰りか? 良い魚が採れたから、好きなだけ持ってってくれ!』


『お帰りアイク。怪我は無いかい?』


 アイクはとても村人達に好かれているようだ。

 照れ臭そうに笑って「ありがとうございます」と返す姿が可愛らしい。


(キサラは謎キャスティングだったんだろうけど、アイクはハマり役って奴だったんだろうな)


 未だ本人に会ったことはないのだが、何となくアイクは噂に聞くジュリアスに近い印象を感じる。この時点でのアイクは可愛らしい男の子、といった感じだった。


 アンジェリアに触れて顔を真っ赤にしていたジュリアスが容易に連想出来る。


(……これは、血の繋がり皆無確定だね)


 テレビ画面には、村のほんわかした優しい暮らしの様子が流れる。

 困ったことに、父親どころか母親も全くアイクに似ていなかった。それどころか色素の薄いアイクに対し、村人は全体的に褐色である。多分アイクだけ別民族か何かだ。


 よくよく考えてみると、両親ともに歳が行っている印象である。両親の容姿から子どもが出来なかったんだろうな、と想像するのは容易い――このアニメ、妙に凝っている。



 そうして月日が経ち、アイクは最初に見た青年くらいの大きさになっていた。


『ああ……何ということだ。女神よ……どうか、アイクをお守り下さい……』


 巫女と思わしき老婆が、木の前で必死に祈りを捧げている。

 何故か名指しされ、アイクは怪訝そうに、微かに顔を歪める。


『何が起こっているのかは分かりませんが、何故僕だけなのですか!? 皆で助かりましょうよ!!』


 クリスティナから事前に聞いていた情報からして、嫌な予感しかしない。

 この後燃えてしまうのか。やめて欲しい。


 そんなロゼッタの心境など露知らず、村人達はアイクを取り囲み、押さえ込んだ。当然、アイクは困惑している。


『い、一体何を……!?』


『良いからこっちに来い!』


『さあ、早く!』


 驚き、暴れるアイクを無理矢理家の中に連れて行く村人達。

 その家には、地下室があった。村人達はアイクをその中に閉じ込め、悲しげに笑う。


『アイク、辛い思いをさせると思う。だけど、アンタにだけは生きて欲しいんだ』


『お前ならどこに行っても上手くやっていけるさ。この前、稽古の様子を見たぞ。上手になったなぁ。その力、正しく使うんだぞ』


『そうだね。人を傷付けるためには使って欲しくないかな。アイクは優しい子だもの。そんなことをすれば、自分をどんどん苦しめていくだろうから……だから、約束よ。その暖かい手を血で汚さないで』


 アイクに優しく語り掛ける村人達。

 次第に騒然とする家の外。


 村人達は皆、武器を手に駆け出していった――ただひとり、アイクの父親を除いて。


『ごめんな、アイク。こんな時だからこそ、残酷なことを告げさせてくれ』


『何を言っているのですか!? 開けて下さい! お願い……開けて!』


 大きくなる銃声や悲鳴は地下室にいても聞こえるらしく、アイクも何かが起こっていることを察したらしい。

 彼の願いに応えることはなく、父親は近くにあった重そうな壺を地下室の扉の上に乗せる。


『お前は常磐の女神様が、子に恵まれない私と妻に授けて下さった宝物。不思議だっただろう? 聞いてはいけないのかと思いつつ、自分と私達が似ていないことを気にしていただろう?』


『父さ、ん……何、を……』


『本当は、お前が成人したら告げるつもりだったんだが、もうそれは叶わない。だが、勘違いしないでくれ。大樹が初めて蕾をつけ、そうして花開いた美しき純白の花。その中から生まれたお前のことが、女神様への信仰心を抜きにして皆大好きだったんだ……お前は永遠に、私の自慢の息子だ』


(う、うわ……)


 握り締めるグラスの中に入っていた氷が、カランと音を立てた。

 何だこれ。誰も幸せになれないじゃないか。


『さようなら、アイク。清く生きろよ』


 父親が走り出す。直後、響いた銃声と、何かが倒れる鈍い音。

 何とか外に出ようとアイクは藻掻くも、壺が邪魔をして扉が開かない。そうこうしているうちに、家が崩れてしまった。


『嫌だ……っ、嫌だ! 父さん! みんなぁ……!!』


 画面は切り替わり、村人達を皆殺しにした者達の手によって火が放たれた。

 赤々とした炎が、思い出の詰まったアイクの大切な村を燃やしていく。地下室にいるアイクには、それが分からない。分からないまま、アイクは泣き叫ぶ。


『いやだぁあああぁ――ッ!!!』


(きつい……)


 役に憑依する、と言っていたクリスティナの話が良く分かる。

 彼の演技に、彼が演じる『アイク』に、引き込まれる――悲痛に響く泣き声を聞けば聞く程に、胸が痛い。


 アイクがやっと外に出ることが出来た時、その頃には村一面が焼け野原と化していた。村人達が必死に守ってきた大樹も黒焦げだ。


『あ、あぁ……うあぁああああぁっ!!』


『ん? なんだぁ? まだ生き残りがいたのかよぉ』


 泣き崩れるアイクの傍に、忍び寄る影。

 どうやら村人達の家から焼け残った金銭を回収していたらしい、気持ちの悪い笑みを浮かべた男だった。


 その男を見た瞬間、アイクは腰に差していた木刀を抜き、襲いかかってしまった。


『お前か……! お前が、村を……ああぁああっ!!』


 真剣ではないため、一撃やそこらではなかなか致命傷にはならない。怒り狂うアイクに、男は懇願するように色々なことを告げていく。


 誰に命じてここに来たのか、その目的は何だったのか――この言葉が、この時に出された名前が、アイクを流浪の復讐鬼に変えたのだろう。



『う……っ、ぐ……ぅ、ふ……っ』


 回想が終わり、王に剣を突き立てたアイクのシーンへと画面が切り替わる。


 アイクは、泣いていた。

 王の亡骸の上に、涙がぽたぽたと落ちていく。


(村人の誰にも……復讐なんて、望まれてないって奴、かな……)


 数日前にラザラスに告げたが、ロゼッタは基本的には復讐賛成派だ。

 あれは、ラザラスを慰める目的で言ったわけではない。本心からそう思っている。


 だからこそ、アイクに『誰も恨むな』という方が無茶だということが身に染みて分かる。それなのにアイクは、「ごめんなさい、ごめんなさい」と涙を流し続ける。本当に優しい子だったんだな、とロゼッタは奥歯を噛み締めた。


『いたぞ! “世界樹の種”だ!!』


『捕えよ、殺しても構わん! 我が国に世界樹の恩恵をもたらせ!!』


 そんなアイクに、兵士達が襲い掛かる……兵士だけではなく、服装からして街の住民も加わっているらしい。


 アイクは涙を拭い、人々を決して殺すことなく受け流し、王宮を駆け抜けていく。身を斬られ、殴られ、それでもアイクは前に進む。


(あー……そうだよね、決死の覚悟で来てる相手を殺さずにって、厳しいよね……)


 次から次へと人が襲い掛かってくる。アイクはその全てを受け流しきれず、傷を負いながらも城を脱出する。

 だが、それで終わりではなかった。城の外にも、アイクの命を狙う者がいた。


『はは……っ、生かして逃がす気はないって、ことかな……』


 そしてアイクは、城下町どころか、この国中が自分の敵だということを悟る。


 アイクは次第にボロボロになっていく。“世界樹の種”という言葉を理解しているのか、ここでは死ねないと必死に走り、国境を目指す。


『ッ――!』


 だが国境を超える直前、アイクは背中を複数の矢で射抜かれた。



(……ッ、やっぱり、やっぱりこれ、死ぬ奴じゃん……!!)


 クリスティナよ、なんてものを見せてくれるんだ。

 色々と洒落にならないし、このアニメの影響でラザラスが変な覚悟を決めていないか少し怖い。


 そして「これ絶対にユウに見せちゃマズい奴だ」とロゼッタは空になったグラスをぐっと握り締める。割れそうだ。



『はは……帰ってきちゃった、なぁ……』


 フラフラになりながらも走り続けたアイクは無意識のうちに、生まれ故郷に帰って来てしまったらしい。


 アイクの復讐歴は、比較的長かったようだ。

 焼け野原になっていた村はすっかり苔と草に覆われていた。中央にそびえ立つ大樹――世界樹も例外ではない。


 苦しげに息を吐きながら、足を引きずりながらもアイクはゆっくりと世界樹に近付いていく。この辺りでエンディングテーマとスタッフクレジットが流れ始めた。


(……ジュリーさんの歌だ)


 エンディングテーマはしんみりとした、格好良い低音の曲。

 ALICEではなく、あくまでも「アイクが歌っている」という設定なのだろう。アイクの音域に合わせて歌われている。

 静かで、どこか悲しげな印象を受ける歌詞と旋律が、アニメの雰囲気を壊すことなく流れていた。


『ごめんなさい……皆の約束、守れなかったのに……それでも僕は、ここが大好きなんです……この地で死ぬこと、許して、下さ……』


 苔に包まれた世界樹に触れたアイクの身体は、遂に限界を迎える。

 横向きに倒れ込んだアイクの目に、かつて共に生きた村人達、そして両親の姿が映った。


 アイクは手を伸ばそうとして、それをやめる。

 伸ばされかけたアイクの手を、ひとりの女性が掴んだ。アイクと同じくらいの年頃の村娘だった。


『おかえりなさい、アイク』


『お疲れ様、待っていたよ。こっちにおいで』


 村人達は皆、笑みを浮かべていた。

 アイクは、静かに涙を流す。


『何で泣いてるのさ。約束破ったって? ……大丈夫、私達は気にしないよ。また一緒に暮らそう?』


 アイクが流した涙が世界樹に落ちた瞬間、世界樹に光が灯り、再び美しい新緑の葉が木を彩っていく。アイクはもう、動かなかった。


 しかし、最期の彼は、安らかな笑みを浮かべていた――後に、この国で語り続ける物語。それは、国に加護をもたらす世界樹の種を隣国から取り戻し、世界樹を蘇らせ国を守った英雄の話。


 英雄の名はアイク。世界樹は国を守るものであると共に英雄の墓として国が率先して守り続けた。アイクは孤独な復讐鬼ではなく、皆に愛される英雄として名を残したのだ……。

※無駄に作り込んでしまった設定供養コーナー ~アニメ見てるだけで1話終わりました~


『英雄は世界樹の傍にて眠る』

作中時間軸3年前に放映されていた、中世ヨーロッパ系王道ファンタジー。

村が燃えたり首が飛んだり人が処刑されたりと色々残酷なので、余裕の深夜枠。


主人公と主題歌にALICEを起用し、作中音楽の大半をJULIAが作っているALIAフル活用系アニメ。

(ロゼッタは気付いていないが、JULIAは声優としても参加している。あとオスカーもいた)


主人公のアイクは『Travelling Game』のキサラに次ぐALICEの代名詞と言われている……が、コアなファンはこっちを推している。クリスティナもそのタイプである。


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