43.ストーカー、熱弁される。
「まあまあ……今日は僕の家においで。ね?」
ジュリアスとの面会を終え、案の定、落ち込み倒して帰ってきたラザラス。
彼は何故か(?)ストーカーの受け入れを拒否してしまった――連動して落ち込み倒したロゼッタの手を引き、クリスティナはエレベーターに乗る。時刻は夕方くらいだ。
「……。あー、そういうことか……」
エレベーターを降りた直後、受信したメールを見てクリスティナは軽く息を吐く。
「すっごい謝ってるから、許してあげて。同種族の相手を見るのが、今ちょっと辛いって」
「……。いや、まあ、冷静に考えたらストーカーってだけで放り出されて当然なんですけど」
「それは僕も思うよ」
マンションの十階の角部屋がクリスティナの部屋だった。
扉を開ければ、ラザラスの部屋と全く同じ間取りだというのに別物に見える、女性らしい部屋が目の当たりになった。
奥の机の上だけパソコンやら本やら謎の模型やらで少しゴタゴタしていたが、それ以外は綺麗にまとまった部屋だ。家具や壁紙のパステルカラーが可愛らしく、ロゼッタの乙女心をくすぐる。
「わあ……」
「ラズの部屋、殺風景だもんね。テレビとか見る? ……あっ、そうだ」
部屋に上がり、クリスティナはバタバタとテレビ下の機械を弄る。
「君、色々と事情聞いた感じ、ALICE君……ジュリーの凄さは知らないでしょう?」
「えっ、あっ、はい」
「人生の9割くらい損してるね」
――押しが強い。
「ALICE君は類稀なる音域の広さの持ち主でね、JULIAちゃんの苦手な音域を補ったり、癖が強い部分でも平然とハモったり、とにかく、うん、JULIAちゃんが不安定になった部分を補うサポーターみたいなことやってたんだよね。それって逆に言えば何が来ても臨機応変に合わせられるってことじゃん!? 尊くない!?」
「そ、そうですね」
「あとはね……今から見てもらうけど」
「わたしは何か見るんですね」
「もっちろん! ラズも一発でハマってたから絶対君も気に入るよ!」
「見ます」
「だよね!」
押しが強い。本当に押しが強い。
だが、『ラズも一発でハマった』という発言でロゼッタはあっさりと陥落した。ラザラスが関わると彼女が変になるのは、もはやいつものことである。
「ALICE君の本業は歌手なんだけどね、何故か声優の方で有名になっちゃった人なんだよね。持ち前の音域の凄さと、登場人物に憑依したみたいな演技の深さ……たまらないよぉ!!」
「えっ、あの人、チャラ男に憑依出来たんですか?」
「出来ちゃったんだよ! 後で元チャラ男のラズがテコ入れしたって聞いたけど!」
「ラズさんすごい」
「僕からしてみればどっちも凄いよ! いやー……ラズが急に連れて来た友達が、あのALICE君だったんだから……僕、電話越しに声聞いたとき昏倒しそうだったもん。人生何起こるか分かんないよね」
「え……ティナさんは、すぐ気付いたんですか?」
「僕はALICEファンだから、ありとあらゆるアニメ見てたの。確かに徹底的に声変えてたけど、少女漫画の特典CDに吹き込んでた役の声が、割と地声に近くて……ええと、まあ……困らせるだろうから、黙ってたけどね」
「ファンの鏡ですね」
「もう理性との戦いだったよ……あっ、時間無いな。最終話だけ見てもらおうかな」
「最終話だけ」
「『英雄は正解樹の傍にて眠る』っていう神アニメ。ALICE君が主人公だよ」
「えっ、それジュリーさんの役、死にません!?」
「まあまあ」
ああこれジュリーの役死ぬな、とロゼッタは思った。
「最終話だけだからざっくり説明するね。主人公のアイクは幼い頃に故郷の村と、村が守っていた大樹を焼かれて、悲しみのあまり復讐鬼になっちゃうの」
「……何か、ええと、あはは……」
「これのブルーレイ、ラズに貸す予定だったんだけど……ちょっと、貸しにくくなっちゃったよね」
ラザラスが見たのが何年前なのかは分からないが、現状かなり洒落にならないことになっている。
実際のところ、復讐鬼になったのはジュリアスではなくラザラスだったのだが……。
「アイクは誰も巻き込みたくないって孤独に復讐劇始めちゃうんだけど……その結果、ねぇ」
「ラズさんの顔が過ぎりまくるんですけど」
「そうだね。まあ、ラズには絶対に孤独な復讐劇をさせるものかってことで、僕も勝手に参戦したわけだ……君は知ってそうだけど、僕の両親はキメラドールで、思いっきり組織の被害者だし。ぶっちゃけ無関係ではないし」
「すみません、その通りです。知ってます、というかお会いした時に気付きました……ところで、尚更このアニメ、ハッピーエンドで終わってない気がするんですけど」
「まあまあ」
ああこれ絶対にアイク死ぬなとロゼッタは思った。
「戦いの中でね、アイクは故郷の大樹は世界樹であったと知った上に、全ての元凶は隣国を支配する王にあると理解しちゃうの。だから、王を暗殺すべく城に潜入して騎士達を退けて暗殺に成功したのが前回の話……って感じかな?」
「え、暗殺成功するんですね。志半ばで死んじゃうのかと」
「まあまあ、とりあえず見ててよ。僕は料理してるから」
これ絶対復讐終わって気が抜けた瞬間にアイク死ぬ奴じゃん、とロゼッタは思った。
そしてラザラスは絶対に孤独にしないぞと勝手に誓った。
……何となく、それをクリスティナに求められている気がしたことも理由だが。
言うまでもなく何十回と見ていると思われるクリスティナは席を立ち、キッチンへと向かう。
料理スキルがポンコツなロゼッタからしてみればそちらを見ていたいところなのだが、彼女の好意(……と書いて「熱意」と読む)を無駄にするのは流石に悪いと思い、テレビ画面に集中することにした。




