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【旧版】ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様  作者: 逢月 悠希
第3章 ストーカー、合法化する。
40/69

40.ストーカー、発見される。

 人目に付かないようにとトリフェーンを早朝に発ち、ラザラスと例のごとく彼の影に潜んでストーキングを続けているロゼッタはベリル街に戻ってきていた。時刻は、昼前といったところだろうか。


(うーん、やっぱり騒々しいよね!)


 トリフェーンを知った後、ということもあり、ロゼッタは大勢の人々で溢れかえったベリル街の賑やかさを感じていた。時間帯ゆえに早めの昼食を取る人々が外を彷徨いているようである。


(喫茶店行くんだっけ……荷物くらいおけば良いのに、駄目なのかなぁ?)


 先程、ラザラスは電車内でエマから連絡を受けていた。ちょっと急ぎの用があるということで、家に寄らずにそのまま喫茶店『アクチュエル』に向かうらしい。忙しい人だなぁ、とロゼッタは息を吐く。


 マンションを通り過ぎ、大通りを歩く。レンガ造りの可愛らしい喫茶店が見えてきた。

 ドアに掛かっている札は『CLOSE』になっていたが、特に気にすることなくラザラスはドアを開き、店内に入る――何故か、関係者と思しき人々が大集合していた。


『えっ、エマさんとかルーシオさんとかヴォルフさんとかクィールさんは良いとして……グレンさんとティナさん、アンジェさんまでいる!? なんで!?』


「俺が聞きたい」


 見事にロゼッタが目視しているラザラスの関係者一同、といった感じのメンバーであった。こうなってくると、ここまで揃って何故かユウとレヴィが不在なことの方が気になってくる。どうして鴉達だけハブられているのか。


「ラザラス」


 エマがラザラスに向かってゴーグルを投げ渡してきた。ラザラスはそれを難なく受け取り、意図を察してその場で装着する。


「兄さんのゴーグル……付けろってこと、ですよね?」


「ああ、それで良い。というわけで、アンジェリア、頼む」


 何故ゴーグルを装着するように支持されたのか。そもそも何故アンジェリアがここにいるのか……その理由は、彼女が展開した魔法陣を見た瞬間に察した。


(! やば……っ)


 ロゼッタはどうにか逃げ出そうとしたが、魔法陣の範囲が広すぎる。流石の彼女も不意打ちには対処しきれない!


「【光源開放】!」


 魔法陣が強い光を放つ。視界が真っ白になり――強い力で引きずり出されるように、ロゼッタは影の外に放り出された。


「きゃあっ!」


 勢いのまま、ロゼッタは床を転がる。その様子を、エマはにんまりと不敵な笑みを浮かべて眺めていた。


「ふっふっふ……アタシらの勝ちだねぇ! アンタの弱点は光魔法だろう!? ついでに言えば、影に潜んでたんだろう!?」


「んー、それ見抜いたのはおじさまだけどねぇ」


 光魔法【光源開放】は魔法陣を光らせるというシンプルなもので、下級魔法に分類される。光魔法の基礎中の基礎といえるようなものなのだが、この魔法は一瞬のこととはいえ全ての影を消し飛ばしてしまう効果を持つため、影に潜むロゼッタには致命的な存在であった。


「うう……っ」


 まずい、このままではどこだか分からない隣国に強制送還されてしまう。

 どうしたものかと思考を巡らせるロゼッタの傍に、クリスティナとアンジェリアがしゃがみこんだ。


「うわぁ、可愛い……! 噂には聞いてたけど、本当にジュリーと同じ種族だぁ……!!」


「じゅ……こ、ぶ……っ!」


「うんうん、絶対喜ぶと思う!」


「ティナさんもアンジェさん語翻訳出来るんですね」


 強制送還の対抗打を考える気力が無くなってしまった。何故だか分からないが、若干歓迎ムードである。エマもため息を吐き、やれやれと頭を振るう始末だ。


「アンジェリア。もう帰って良いぞ」


「やることやってお払い箱って酷くないですか?」


「酷くないよ、アンジェリアは仕事の途中で呼び出したんだ。だからラザラスを急かしたんだよ、時間があまりないらしいからな」


 ラザラスはゴーグルを外し、アンジェリアの方に視線を移す。「収録か?」と聞けば彼女はこくりと頷き、そのまま喫茶店を出て行った。何故かクリスティナもその後を追う形で喫茶店を後にする。


「ティナはロゼッタの姿が見たかっただけだとして……そろそろ新曲発表か。どんな曲なんだろな」


「ラズさん翻訳なくって良いんですか?」


「まあ、アレはひたすらひとりで楽器を弾き続けるだけだから」


「ああ……アンジェさん、全部自分でやってますもんね」


 アンジェリアは歌のみならず、ギターもベースもドラムもキーボードも、その他諸々全部自分でやるハイスペックアーティストである。

 彼女の場合は人と会話をすることが難しいためにそうなったのだろうが、才能にものを言わせた荒業だとロゼッタは思っていた。


「……話を戻すぞ。クリスティナが空気読んでいなくなってくれたしな」


 エマが咳払いし、こちらに向き直った。

 クリスティナが席を外したのはこれからの話題に関連することなのだろう。十中八九、ラザラスとロゼッタが来るまでにある程度話が進んでいたのだ。


「んーとね、ロゼッタ。どうせラザラスから離れたくないんだろ?」


「はい!!!!」


 即答である。


「うん、うるさいね。だったら、ちょっと協力してくれよ。具体的には、ラザラスの魔法能力のポンコツっぷりをどうにかこうにか偽装して欲しい」


 親指を立てれば、エマは再び笑みを浮かべてみせる。出来ないはずがない、と分かっていたのだろう。しかし、まさか面と向かって協力を依頼されるとは。


(まあ、万々歳って奴だよね)


 ロゼッタはどうにかこうにかごねる気でいたので少し肩透かしだった。とはいえ変なことを言ってこの話を反故にされることは避けたい。


「こっちも色々と事情があんの。ラザラスもアンタのこと、多分気に入ってるっぽいし」


 エマはヘラヘラと笑い、ラザラスに視線を移す。ラザラスは特に否定することなく、こくりと頷いてみせた。


「えっ、ホントですか!?」


「……まあ、確かに。苦痛ではないよ」


 やった! 嬉しい!!


 黒い尻尾をブンブン振り始めたロゼッタを見て、グレンが吹き出した。


「アタシが見てた感じ、恋人とかじゃなくてペットの犬枠だけどねぇ」


「この際それでも良いです!」


「強かな子ねぇ……」


 会話に加わらずに携帯端末を弄っていたルーシオはタイミングを見計らい、ラザラスの端末に何かを送信した。


「ラズ、いきなりで悪いんだが、今日中にクィール、レヴィを連れて行って欲しいところがある。竜人絡みじゃないが、ユウが今動けないんだ。それに規模が大きくてな。ちょっと協力して欲しい」


「えっ!? ユウさんが!?」


「大したことは無いんだが……アレを動かすのは流石に可哀想でな」


 いないと思ったら、何やら変なことになっていたらしい。レヴィは看病役か何かだろうか。キョロキョロと辺りを見回し、ロゼッタはルーシオに問いかける。


「ユウ、事故った? 大丈夫ですか?」


「ん? ユウだけ扱いが雑な感じか……それは良いか。事故っては無いんだが、苦しそうなんだよ」


「ええっ、それは大丈夫じゃないんじゃ……」


 美しい外見をぶち壊しにするレベルで口の悪いあの男が弱っている。

 ラザラスとは全く関係ないが、流石に心配になってしまった。


「大丈夫かなぁ……」


 ポツリとそう呟けば、ラザラスはロゼッタから目を逸らし、店の奥にある階段を見据えて口を開く。


「まあ、ユウさん綺麗だもんな。色々訳アリだけど、あの人、独身だぞ。良かったな」


「へっ!?」


「ラズ君、その解釈はいくらなんでも酷いんじゃない?」


 黙っていたクィールが口を開く。エマとルーシオ、そしてグレンは唖然としてラザラスを見つめている。

 しかし、ヴォルフガングだけは「へぇ」と楽しげに笑みを浮かべていた。


「まー、らずくんはそうなっても無理もないか。うんうん、おじさま、応援しちゃう」


 意味深なヴォルフガングの言葉に、クィールは目を見開き……顔をしかめた。


「! ああ、そういうことか! い、いや……それはそれで、色々どうなんですかね……」


「おじさまもそれはちょっと思う。すごく心配」


「あー、尚更、引き離せない奴かぁ……事が済んだら強制送還ってわけにもいかなさそう」


「『こういうこと』は外野が変にちょっかい入れるべきじゃないもんな」


「犬扱いのままの方が、ある意味健全なんだけどねぇ……踏みとどまってくれないかしら」


 何故かエマとルーシオ、グレンも顔をしかめている。ラザラスは疑問符が頭上に大量生産されているかのような間抜けな表情を浮かべていたが、上階から降りてきた人物の顔を見た瞬間に疑問符を消し飛ばした。


「ユウさん!」


 降りてきたのはユウと、彼に付き添うレヴィだった。ユウは寝巻きにしているのか着流しだけを身に付けた簡素な格好で、いつもより露出が多い……というより、左腕を袖に通していないせいで、半裸に近い格好だった。それでも様になってしまうので、美形は得である。


「押し付ける形になって、悪いな……まあ、俺自身がこんな状態でさ。生きてはいるから、安心してよ」


 普段は隠れていて分からなかったのだが、着流し姿だと首から左肩に掛けて赤黒いケロイドが広がっているのが分かる。目を背けたくなるような、非常に痛々しい状態だった。

 だが、そんなことよりも気になったのはその肩に取り付けられた器具と、明らかに人工的なものと分かる左腕だろう。


「ユウさん、義手……使えないって話だったんじゃ……」


「これ、『魔導義肢』っていう、あまり表には出てきてない義肢なんだって……魔力で動くから、関節が無かろうが壊死してようが、どうにかなるらしい……まあ、俺は状況が相当に悪かったから、接続部位が拒絶反応起こしてて酷いことになってるんだけど……」


 普通に喋ってはいるが、口調を作っていない辺り、本人の申告以上に酷い状態なのだろう。流れる冷や汗を、レヴィが甲斐甲斐しくタオルで拭っている。顔が赤いため、熱も出しているのだろう。


 ユウはふらふらと歩き、レヴィが引いた椅子に腰掛ける。意識が朦朧としているのか、いつもの勢い(※対ロゼッタ限定)もなく、彼はテーブルに突っ伏してしまった。


「何でそんな義肢使っちゃったの……」


 思わずロゼッタが話し掛ければ、ユウは力なく笑い、口を開いた。


「最近開発された奴で、データが足りないんだってさ……ジュリアスが使えるような代物かどうか試して欲しいって、どこぞの破天荒おじさんから送り付けられたんだ……こんなエグいものだなんて聞いてねぇぞ……許さねぇ……」


「破天荒おじさん……お、オスカーって人!? えっ、あの人芸能人じゃ……」


「何でそこでオスカーさんの名前が!?」


「俺が知りたいよ……ったく、関わって欲しくないんじゃなかったのかよ……人を実験台にしやがって……早くカルセドニー王国から帰ってこいよ……」


 ラザラスとロゼッタは知らないが、ユウは出国前のオスカーと接触している。全ての始まりはそこだったのだ――この男、あらゆる人間にちょっかいを掛けられすぎである。


「ああ、カルセドニー王国から送ってきた感じですか……」


「そもそもコレ、開発がカルセドニー王国の技術者なんだってさ……だから、現地調達して適当に送り付けてきたわけだ……はあ……いつの間にか身体の寸法知られてたみたいだし……あの瞬間のいつ測ったんだよ……ふざけんな、ほんっとふざけんな……マジふざけんな……ふざけんな……ふざけんな、俺より付与魔法使いこなしやがって……ふざけんなよ……っ」


「語彙力……」


 ぶつぶつと悪態(大体「ふざけんな」)を吐くだけ吐いて、ユウは何も言わなくなってしまった。力尽きてしまったようだ。


 確かにこれは動かせない、と納得したラザラスは彼を二階の自室に放り込み、そのままロゼッタを交えて作戦会議に移るのであった。

めちゃくちゃ軽ーく流されていますが、一応ロゼッタが発見されたので第三章は終了です。

次話より第四章に移ります。

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