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【旧版】ストーカー竜娘と復讐鬼の王子様  作者: 逢月 悠希
第3章 ストーカー、合法化する。
24/68

24.ストーカーは王子様の性癖を守りたい。

「皆様こんにちは、『SINFONI:ALIA』の時間です」


 ラザラスもといLIANの放送事故案件二連発から一夜明け、本日もALIAの冠番組が放送されていた。

 本日の番組『SINFONI:ALIA』はALIAが発売日の近いCDの紹介や他歌手の告知などを行うものである。要は音楽番組だ。

 深夜番組なのだが、昨日の番組同様にリアルタイムコメントが取得される仕様になっており、画面は夜更し中の視聴者が流してくれる色取り取りのコメントで賑わっている。ALIAには『顔出しNG』という演出泣かせな特殊ルールが存在するため、全番組でリアルタイムコメント仕様が採用されているのだ。


 なお、実際に放送されている画面にはラザラスとアンジェリアの代わりに何故か黄色と薄緑のパステルカラーなテディベアが表示されている。

 このテディベア、マイクに吹き込まれる音声に応じて表情や動作を変えるという謎の高度技術を取り入れたキャラクターだ。要は、ラザラスとアンジェリアのアバターである。

 ALIAはどう考えてもテレビ向きではないタレントなのだが、この高度技術を用いることにより、顔出しNGのタレントで初の地上波進出という快挙を成し遂げたのだ。



「本日はまず……LIANが昨日の放送について謝罪したいって言ってるから、彼の話からね」


『尺的にあまりないから、さくっとお願いね』


(おおっと、厳しい。ラズさん頑張って……!)


 アンジェリアは目の前で苦笑するラザラスにテレパシーで指示を出し、リアルタイムコメントが表示されている画面へと視線を移す。


(えっと、アンジェさんに【感覚共有】してから……【識字】!)


 ロゼッタはアンジェリアの視覚と自身の視覚を繋ぎ、即座にコメント解読の準備に入った。

 昨日の『第二次放送事故未遂』である程度ラザラスの事情は周知されている点を考慮し、今は音読せずにコメントを確認するのみである。

 無属性魔法【識字】はその名の通り、対象の文字が一時的に解読可能となる魔法だ。ロゼッタはこれよりもさらに上位の解読系魔法が使えるが、今回は次々出てくる文字を理解するという目的の関係でこちらを使用している。


(わぁ、沢山文字が流れてる……って、これひっどいなぁ……!!)


 文字は、右から左に向かって次から次へと流れていく。その全てを拾うことは難しいのだが、目に付いたものを【識字】してみた結果がこちらである。


【リアン病院行った?】


【あれは酷い。何で病院行かないの】


【ていうかどんな落ち方したらあんなことになるんだ、病院いけ】


【病院行きなさい、頼むから病院行きなさい】


【む し ろ 病 院 が 来 い ! ! !】


(圧倒的病院率……!!)


 これ、視聴者全員が昨日放送されたラザラスと暴走おじさんのやり取りを見ていたのではないだろうか……?


 面白すぎてアンジェリアは口を押さえて肩を震わせているし、ロゼッタもロゼッタで衝撃的な光景に唖然とするしかなかった。ロゼッタがショックを受けないようにと「ラザラス宛のコメントは大抵辛辣な物だ」と事前情報があったことも理由のひとつである。


 しかし今回、皆見事に『病院』としか言ってない。心配しかされていない。

 画面上のユリアベアも、アンジェリアの動きに連動して必死に笑いをこらえていた。それを見た使用者も【ユリア耐えろwwwww】と彼女を応援している。リアンベアに関しては非常に落ち込んだ感じのポーズを取っているため、温度差が酷い。


 しかし、仕方がないのである――現在、ラザラスには本格的に何も見えていないのだから!


【これ、本当にリアンは何も分かって無いんだな……可哀想だから病院行って欲しい】


【魔法使えない子なのかもね。それだとなおさら困るよな、病院行くべきだな】


【とりあえずユリアさんはリアン君が病院ちゃんと行ったかどうか確認して下さい】


【そうですね、確認をお願いします。病院は大切です】


【あれ眼科? 整形外科? ああもう面倒だ、総合病院行け!】


【放送局の近くに総合病院あるじゃんか、早く行けよwwwwwwww】


【いっそ今からでも緊急外来に飛び込むべき】


 そして視聴者もそのことは分かっているようで、相変わらず『病院』という単語を連呼している。そろそろゲシュタルト崩壊が起こりそうだ。


 ここで何も分かっていないラザラスが意を決して口を開く。


「先日の放送では満足に話すことが出来ず、申し訳ありませんでした。全て、私の力量不足ゆえです……」


【無茶言うなよ、君らの放送スタイルじゃ喋れる方がおかしいからwwwww】


【アリスでも無理だろ、両目塞がった状態で延々喋り続けるとかwwwwww】


「その……今日は何とか挽回していきたいと思っております! どうぞ、よろしくお願い致します!」


【いや、挽回する前に病院行ってください! 生放送で病院行くとか伝説に残りますよ!】


【何なら今日の放送はリアンの病院レポで良いくらいだわ……あの顔面事故っぷりは心配過ぎる……】


【お前らが普段虐めるからリアン無駄に落ち込んでんじゃねーか! 責任取って誰かコイツを病院に搬送しろ!!】


 ラザラスの発言と視聴者のコメントの方向性がおかしい。視聴者は大体全力で心配してくれているというのに、肝心のラザラスは異常なまでに不安そうだ。

 この可哀想な状況を打開するために、アンジェリアはコメント欄を一通り確認し、口を開く。


「ねえリアン、病院行った?」


 ここでアンジェリアが発するべき言葉はこれ以外に無いだろう。視聴者からも【病院行きましたか!?】と追撃するような質問が相次ぐ。

 アンジェリアが投げかけた質問によって、コメント欄が炎上していないことに気が付いたのだろう。ラザラスの固まっていた表情筋が緩んだ。


「えっ? あ、ああ……まだです」


「何でいかないの!? 昨日は時間あったでしょ!?」


「あ、いや、怪我した時点で知り合いの医療従事者に看て頂いてますよ。大丈夫です」


「通院とかいらないの? どう考えても通院必要な傷よね?」


「まあ、ほっといたら治るかなって」


「病院行って!? 通院して!!」


 画面がさらに『病院』で埋め尽くされてしまった――アンジェリアの方も本気で心配している様子だった。まさか一度も病院に行っていないとは思っていなかったのだろう。


(まあ……確かに通院はして欲しいよね。せめてエマさんのところには毎日顔を出すくらいの気持ちでいてくれないかな……)


 腫れが酷いだけだと楽観視しているのか、それとも何かしら病院に行きたくない理由があるのか、ラザラスは『病院』という言葉を受け付けずに流し続けている。


「んー……私の事情を知ってらっしゃる方が多いのでしょうか? でしたら改めて、説明させて頂きますね。私は一昨日、階段から転げ落ちて顔を強打してしまいまして。特に酷かったのが目元付近だったようで、瞼が腫れ上がって開かなくなってしまいました。それで、放送画面を一切確認できないまま、その場のノリで話しております。皆様のお言葉を見られないのは、辛いですね」


「私も事情はよく分かっていないのですが、彼は元々あまり目が良くないので、寝ぼけたか何かしたんだと思います……あ、はい。傷そのものは見ていませんが、目を含めた全てが治るまでに3週間くらいかかるって聞いてます。不幸中の幸い、鼻とか歯とか後々容姿に響きそうな部分は無事だったみたいなんですけどね……」


「ははは……情けない話です……」


 アンジェリアはちらりとガラスで隔たれた隣の部屋を一瞥する。

 それに気付いたのか、番組スタッフがスケッチブックに『サプライズゲスト』と書いて彼女に指示を出した。アンジェリアは、にやりと悪戯めいた笑みを浮かべてみせる。



「ところで、リアン。今日の放送、サプライズゲストが来てるの。今日はパーシヴァルさんのCDの告知はしないからね。打ち合わせ通りには進まないわよ」


「……は?」


(えっ、待って。ここでサプライズゲスト?)


 話の変え方が非常に急だったが、アンジェリアは『わざと』こうしたのだ。狙い通り、視聴者の間で、ある男の名前が連呼されている。


(あの人、多分『大御所』って奴だよね……!? でもここで出てくるのはあの人しかいないよね!? こんな夜中におじさん引っ張り出しちゃうの!?)


 ロゼッタも勘付いた。そう、この流れで出てこられるゲストは、ひとりしかいない。

 アンジェリアは右手を上げ、外で待機していたスタッフに指示を出した。


「それでは登場して頂きましょう! 俳優、オスカー=クロウさんです!」


「はあ!?」


 ガチャリと無機質な音を立て、ドアがゆっくりと開く。


「ヘイ、大将! 賑わってるかい?」


 昨日見た美丈夫は居酒屋に立ち寄るような気楽さで収録部屋に入り、ラザラスの向かい側に置いてあった椅子に腰掛けた。


「ッ!? えっ、なっ、ん……!?」


「やあ、リアン君」


「うええぇえい???」


(ラズさん頑張って!!)


 破天荒おじさん、登場である――放送画面にも銀色のオスカーテディベアが増えた。彼用のプログラムがしっかり用意されていたようだ。

 つまりこれ、仕組まれるべくして起きたイベントだ。番組スタッフが一丸となってリアンに渾身のドッキリを仕掛けたのだ。リアルタイムコメントも大盛り上がりである。


「こ、こんばんは……?」


「こんばんは。私の名はテオバルド=エウレイカ……クラウディア王国の姫君、ロゼッタ様の護衛騎士をしております。以後、よろしくお願い致します」


「うわああぁかっこいい……!! じゃなかった、ア……じゃなくて、ユリア! 君! オスカーさん来るの知ってただろ!? おいこら笑うな!! スタッフさーん!? 俺だけ知らなかった奴ですよね、これ! おーい、スタッフさーん!!」


(あーあ、ラズさん崩壊しちゃった)


 怒っているというよりは、混乱し過ぎてどこに話を振れば良いのか分からなくなっている様子だった。

 昨日はある程度覚悟を決めた上でオスカーと対峙したが、今日は完全なる不意打ちを喰らってしまったのだから仕方ない。少なくとも、【守護騎士リアン】を演じていられる精神状態ではないようだ。


「えー、この番組は、リアン君が盛大にキャラ崩壊しながらお送りしておりま~す」


「オスカーさんやめてください……!! 後生ですから……!!!」


「いやいや、そっちのが良いよキミ。アリス君と口調被ってるとかいう事故も発生してないしね。ねえ、そう思うよね? 視聴者さーん?」


 破天荒おじさんが番組を乗っ取ってしまった。

 なお、彼が入ってきた瞬間からアンジェリアは沈黙を貫いている。何となくそんな気がしていたが、空間にラザラス以外の人間がいると彼女はやはり駄目になるらしい。


(ALIAの番組じゃないの、これ……?)


 これこそ放送事故なのではないかとロゼッタは思ったが、既に放送画面からユリアベアが退場している。画面にはリアンベアとオスカーベアしかいない。つまり、これまた仕組まれるべくして起きたものだ。

 深夜放送という少し自由が効く枠組みゆえなのか、今日はリアンとオスカーで対談する回なのだろう。リアルタイムコメントは【www】で埋め尽くされていた。


「さてさて、おれは事前に話を聞いているのですが」


「私は何も聞いていないのですが」


「リアン君の素性探れるとこまで探って良いよって言われたので、探りまーす」


「事務所的に駄目ですね」


「親友直々にGOサイン出てるから安心してね。てか、昨日の放送も大爆笑しながら見てたんだって。やったね!」


「社長ーっ!!!」


 ラザラスが色んなところから見捨てられている。そしてどうやら、オスカーとALIAの所属事務所の社長は親友関係らしい。そりゃオスカーが暴走しても誰も止めない筈だとロゼッタは肩を竦めた。


「そもそもALIAを君らのとこの社長に紹介したのがおれだったから、ある意味ALIAっておれのものみたいな感じだし。じゃあリアン君弄る権限もおれにあるかなーみたいな。別に良いよね?」


(謎理論! ラズさんツッコミ入れて!)


「~~ッ」


(駄目だ、ラズさん何か若干嬉しそう!!)


 弄られすぎてキャパオーバーしてしまったのか、ラザラスが『何か』に目覚めかけている――このまま放置しておくと、開花しなくて良いものが開花しそうだ。

 ロゼッタとしてはラザラスには王子様でいて欲しいので、そういう特殊性癖が開花されるのは非常にマズい!!


『ラズさーん!! わたし、ALIAとオスカーさんの話掘り下げて欲しいなー!! 多分視聴者もそれを望んでるからー!!』


 ロゼッタはテレパシーを飛ばし軌道修正(ラザラスの性癖的な意味で)を図った。元々、何かしらあればテレパシーを飛ばしていいという話だった。何も問題はないはずだ!


「!!」


 そして、ラザラスは正気に戻った――『何か』の開花は、未然に防ぐことができたのである。

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