22.ストーカー、破天荒おじさんと出会う。/前
※前後編です。後編は夕方頃に上げます。
「こんにちは」
食器を下げ、ラザラスは自然な動作で振り返り、破天荒おじさんを見上げる。ラザラス自体がかなりの長身なのだが、破天荒おじさんは元々ラザラスよりも長身の上、撮影用衣装のブーツでさらに背が底上げされている。
「うん、こんにちは。いやー、スタイル良いね~」
「そうですか? ありがとうございます」
ロゼッタは彼が誰なのか知らないのだが、恐らく『大御所』と呼ばれる存在である。
破天荒おじさんは気さくな感じの話し方をするが、纏う雰囲気は非常に上品な男である。ラザラスが『王子様』なら、破天荒おじさんは『王様』だろう。大体そんな感じの雰囲気だった。
種族はヒト族。色白だが血色が良い、この国のヒト族に多い肌の色だ。恐らく彼はグランディディエ人なのだろう。
足はスラリと長く、切れ長の黒の瞳と磨き上げられた純度の高い銀を思わせる艶やかな髪が美しい、理想的な年の取り方をしている男だ――男の職業はモデルか俳優だろうとロゼッタは考える。
「落ち着いてるね、慣れてるのかな」
「そうですね。貴方にお会いして動じない自分自身に、とても驚いています」
「あっ、そっち? カメラじゃなくて? ふうん、カメラは平気なんだ。見ない顔だから、芸能人じゃないんだとばかり……ああ、じゃあ、さっきのは偶然じゃないね」
破天荒おじさんが言うように、ラザラスは彼が連れてきたカメラの画面にモロに映ってしまっている。だが、彼は特に動じていないようだ。
それは元俳優志望の彼だからこその特性なのだが、そんなことを破天荒おじさんが知っている筈がない。それでも破天荒おじさんは、ラザラスが一般人ではないという結論を導き出していた。
「……?」
「キミが立ち上がったタイミングさ。カメラワークをよく理解した動きだよ。キミは、おれが一番綺麗に映るタイミングで動いてた。これがドラマの撮影なら拍手喝采物だね。いや、バラエティ受けも良いね。若い子って自分が目立とうとして、主役を立てるとか考えずに前へ前へ行っちゃう子が多いんだよ……ってことは、キミ、俳優さんでしょ? その辺弁えてる辺り、売り出し中の子かな?」
(おおおお……っ! すごいぞ、この破天荒おじさん!)
そういえばラザラスはコンコンと机を叩き、破天荒おじさんの様子を伺っていた。あれは自分が出るタイミングを秒単位で考えていたのだろう。こちらもすごいのだが、この短期間でラザラスが考えて動いていたことに気付く破天荒おじさんもすごい。
「あー、これ、失礼だったわ。同業者なのに知らなくてごめんね」
破天荒おじさんは肩を竦めてオーバーなリアクションをする。つまりこの男、俳優らしい。ぶっ飛んだ言動が目立つ男だが、「例え若手だろうと俳優仲間は大切にしたい」という隠れた思いが感じ取れる。
「違いますよ。俳優なら、顔面事故らせませんって」
(闇を感じる……)
ラザラスはくすりと笑みを溢し、軽く首を傾げてみせた。
色々と知っているロゼッタからすれば、闇しか感じない発言である。だが、言っていること自体は間違っていない。
「俳優は顔が命ですから、こうなってしまうと仕事になりませんよ」
「えっ、顔面事故気にしてる? ごめんごめん。ていうかそれ、どうしたの」
「階段から転げ落ちまして」
「……病院行った?」
「まだです」
「行けよ!!」
(それには同意します!!)
このやり取りの直後、少し間が空いた。
会話終了かと思いきや、破天荒おじさんはじっとラザラスを見つめている。何とか彼の正体を思い出そうとしているのだろう。
「あーっ、分かった。キミ、ALIAのLIAN君でしょ?」
「!?」
(やっばい! このおじさん本当にすごい!!)
驚くことに、破天荒おじさんはラザラスの芸名をピンポイントで当ててきた。しかしALIAは容姿非公開のタレントである。ここで肯定するわけにはいかない。
どうにか切り返して誤魔化そうとラザラスは頭を働かせ始めたが、大御所のマシンガントークは止まらない!
「いやー、懐かしかったよ。キミのキャラ、まんま『守護騎士テオバルド』だよね? 何故かパーソナリティしながらおれの役を完コピしてくるから、面白くっていつも聞いてたの……ふうん、こんな綺麗な子だったんだねぇ。おれが女なら口説いてたかも……なんちって?」
「えっ、あ、えぇ……?」
「一回映画見てるくらいじゃあの精度では再現できないよねぇ。てかアレ、結構昔の作品なのにね。リアン君、過去作片っ端から見てるくらいにはおれのファンだったりする? ていうか、絶対そうだよね~!?」
ラザラスの肩に腕を回し、破天荒おじさんはケラケラと笑っている。ラザラスが顔面事故してなければ絵になったのだろうが、残念ながら現状は美丈夫がミイラ男に絡んでいる謎めいた絵面にしかなっていない。
それはさておき、破天荒おじさんが連れてきた裏方の皆様が大変慌ただしくオロオロしている。
「えっ、まっ、やば……これ、ガチの放送事故……!」
「だ、誰か! 事務所に連絡入れろ!」
「リアンさんの所属事務所って『ELIPHALET』で合ってますっけ!?」
「どこぞのアイドルグループみたいなことになってなかったらALIAの他二人と一緒だろ!? 急げ!!」
「んー? あっ、そっかそっか、はっはっは。ごめんね、みんな~」
スタッフらしき男がスマートフォンを取り出して走り出した辺りで、破天荒おじさんは漸く自分のミスに気が付いたようだ。
「ALIAは顔出しNGだったね。キミもキミで逃げないし、明らか肯定としか取れない反応してるからモロバレだね。ごめんけど、これ、生放送なんだわー」
「ははは……その、私も誤魔化すつもりでいたのですが、そのー……」
「『守護騎士テオバルド』の演技しながらパーソナリティしてるって、言い当てちゃったもんねぇ……ねえねえ、おれのファン?」
再び飛んできたこの質問。ラザラスは恥ずかしそうに口元を手で覆い隠し、声を震わせた。包帯やら湿布やらのせいで分からないが、間違いなく顔を赤く染めているに違いない。
「ッ……その……はい、大ファンです。大好きです……わ、私はALIAのおふたりのように、声を変えたまま素のテンションで話すということが出来なくて……身バレ防止のために、どうにかしようと考えた結果、オスカーさんのモノマネに手を出しました……」
「やっだ~、告白されちゃったわ~、嬉しいねぇ嬉しいねぇ!!」
(破天荒おじさんずるい!! わたしも『大好き』って言われたい!!)
ラザラスは完全に破天荒おじさんことオスカーのペースに飲まれてしまっている。芸歴一年半が芸歴ウン十年の大ベテランに勝てるはずがない。
というより、オスカーを上手く扱える芸能人は多分存在しない。ゆえに彼は『破天荒おじさん』なのだ。
「ああ、それで『ユリア姫を守る守護騎士』になっちゃったのか。でもやめといた方が良い気がするなぁ……キミ、話してみた感じ良いキャラしてんのに、ALIAの番組だと中身が見えなさ過ぎて胡散臭い間男みたいになってるもん。少なくとも守護騎士はやめとこうよ、素のおれっぽい感じで行ってみる? あー、ダメか。なおさら間男になるわな、はははははっ」
「あはは……」
「ま、ALIAのトーク番組は仮面歌手なふたりの素の姿が見れるのを売りにしてたわけだし、演技じみた子が入っちゃうとやっぱ浮いちゃうよね」
「うぐ……っ」
「あー、なるほど! キミ、今は目が見えないから今日の放送黙ってたんだね! いやー、ALIAのトーク担当は完全にアリス君の方だっただけに、ユリアちゃんはあまりトーク得意じゃないし、お互いが無言貫いて事故らないかヒヤヒヤしたんだよねぇ、あははははっ」
「うう……」
オスカーの毒舌がぐっさぐっさとラザラスに突き刺さっていく。
ロゼッタは「何だこのおっさん埋めるぞ」と飛び出したい気分になっていたが、それこそ放送事故不可避なので大人しく黙って破天荒おじさんを眺めていた。




