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18.ストーカー、情報屋の闇を垣間見る。

(酷くない!? この人酷くない!?)


 ロゼッタは「信じられない」と言わんばかりにまじまじとユウを見つめる。

 いつもラザラスしか見ていないのでユウのことはあまり眼中に無かったのだが、彼は和洋折衷の不思議な格好をしていた。決して女々しい訳ではないのだが、派手な女物の羽織も軽々しく着こなせてしまっている美しい男だった。

 顔に残る痛々しい火傷の痕すら、彼の美を引き立てている気がしなくもない――が、全てを台無しにするレベルで口が悪い!!


『いたいたけな女の子に向かってド変態って失礼じゃないですか!? 何なんですかあなた!!』


 というわけで、ロゼッタはユウに向かってテレパシーを飛ばした。無属性魔法【魔力判定】を使ったところ、どうやらユウは光属性以外の全属性に素養があるらしい。つまり、テレパシーの受信は恐らく可能だと考えたのだ。


『何がいたいけな女の子だバカ野郎! てめーをド変態と呼ばずにいられるか! どうせラザラスの風呂覗いてんだろこのド変態!!』


『お風呂とトイレは覗いてません!!』


『着替えは覗いてんだな、よーく分かったよ、ド変態』


『うるさい器用貧乏!』


『うるせぇド変態! 無駄に豊富な魔力持ちやがって! 分けろ!』


 受信が可能どころか、送信も余裕といったところだ。

 ちなみに「器用貧乏」というのはユウの総魔力量がかなり微妙な数値だったためである。

 ユウの『光以外の全属性』という恵まれた魔法使いの素養を考えた場合、総魔力量は平均値の五倍程度欲しいところなのだ。

 しかし、ユウの総魔力量はせいぜい平均値の二倍程度。これで魔法戦をすれば、間違いなく魔力切れを起こすだろう。だからユウは付与以外の魔法をあまり使わない、否、使えないのだ。器用貧乏のテンプレである。


「ユウ、いきなり黙り込むんじゃないよ。ラザラスが困惑してるだろ」


「ッ、ああ……すみません。ド変態とテレパシーで殴り合ってました」


『格下? ねぇねぇ、格下なの? お医者様より格下なの?』


「うっせぇよ!! 五歳年上のお姉さんにタメ口きけるわけねーだろ!? 年功序列ってもんが世の中にはあるんだよ!!」


「あはは……私達にはロゼッタちゃんが何言ってるのか分かんないんだけど、これちょっと面白いね。ラズ君は分かるの?」


「く、クィール! 気にしてんだからポンコツにそんなこと聞くなよ! 二人の会話を盗聴する技術が俺にあるわけないだろ!」


「盗聴……!? お、おいド変態! 盗聴とかやってねぇだろうな!?」


『してますよ?』


「当たり前のように肯定すんな!!」


 現状、ロゼッタの声はラザラスには届いていない。そのこともあって、ロゼッタの暴走は止まることを知らなかった。


『ねぇねぇ、年功序列ってことは、エマさんとルーシオさんが上の方で、ユウがその次、ラズさんとクィールさん、それからレヴィちゃんって感じ?』


「俺だけ呼び捨てかよ……ッ、くそ、ド変態に舐められてる……!!」


「ああこれ、どうにかアタシらも会話参加できねーかなぁ。絶対ユウ視点面白いことになってんじゃん、ずりーわ」


「俺が鬱陶しいド変態に情報収入源にされかけてるだけですよ!」


「それだけで面白いじゃん……で、ユウ。ロゼッタの居場所分かる?」


「残念ながら、全く? これだけ会話してても、尻尾が出ません。魔力感知しようにも引っかかりません。レヴィ、呼びましょうか?」


「いや、どうせ無駄だろうし、素直に作戦会議しようぜ。ラザラスはストーカーくっ付いてても別に良いみたいだし」


「えぇー……まあ、気になるのはそこなんだよな。良いのか? ラザラス」


「? 別に、もう良くないですか? 知られちゃ困ることは全部知られちゃいましたし、今更……」


「……。お前さ、今年で二十三だったよな? ほら……いかがわしいものとか、部屋に置いてないのか?」


「置いてませんね。未成年の教育に悪いようなものはありませんから、ご安心下さい」


「ド変態の心配はしてねーんだけど……」


 ラザラスの感性がおかしい。しかしこの男、魔法能力とメンタルに加えて自分自身のことについても少々ポンコツが過ぎるのでこれはもう仕方が無いのだろう。


『ねえ、ユウ……わたしが言うのもなんだけど、ラズさん、大丈夫?』


「ストーカーの方がまとも、だと……」


 今年で二十三歳――今は十月なので、本当にクリスマスが誕生日ならラザラスは現在二十二歳だ――という、新たなラザラスの情報『年齢』が知れたことは勿論嬉しいのだが、ここまで受け入れられてしまうと流石に彼の精神面が心配になってきた。

 いくらなんでも、ストーキングがバレればもう少し引かれると思ったのに。そう思い、ロゼッタはユウにテレパシーを送る。ユウは最初こそ困惑を顔に色濃く写していたが、それはすぐに無表情に変わった。


『多分、ひとりだと寂しいんだと思う。ラザラスが良いなら良いか……って、正直俺は俺で思い始めた。コイツの『寂しい』は割と深刻な案件だからな』


『暴行事件関係者案件ですね分かります』


『ああ、もうその件も知ってるのか……まあ、安心しろ。加害者はラザラスに暴行を加えてから罪の意識を苛まれたか何かでビルから飛び降りて今は墓地に埋まっているし、加害者のモンペはもう燃やした。メディアの方はあの後大物俳優に苦言を呈されて、それを聞いて手のひらクルーした世間にも叩かれたんだが謝罪する意思皆無、そのまま風化っていう胸糞案件だ。燃やしたいな』


『ユウ、結構物騒だよね。トリガーハッピーって奴?』


『トリガーハッピーじゃねぇよ。『屑は一律燃えればいい』って思ってるだけだ。あと、俺達全員『屑を燃やしたい』って考えてる物騒集団だから安心しろ』


『わあこわい』


『お前はラザラスのストーキングするつもりなら、また違法組織に捕まらないようにだけ気を付けとけよ。今度はわざと助けねぇから』


『わあひどい』


 言っていることはなかなかに過激なのだが、要は「ラザラスが良いなら一緒にいてやってくれ」ということらしい。ユウはユウで、彼のことを一応は心配しているようだ――しかしこの男、色々と使えそうである。

 どう見てもエマと、それから最初のやり取りを思い返せばルーシオにも尻に敷かれていそうな哀れ過ぎる美丈夫の情報も得ておいて損は無さそうだ。


『ねえ、ユウって何歳? 『ユウ=ウォリス』って本名じゃないよね? 婚約者はどうしたの? 何でこの仕事してるの?』


「……」


 しかし数秒後、ロゼッタはこの質問をしてしまったことを本気で後悔する。


『歳は二十七で、割と最近知った本名は『フェリクス=アドマイヤ』……婚約者は、キメラドール作ってる団体に因縁つけられて八年前に焼き殺された。アリア……婚約者と一緒に育ててた、孤児の子ども達も一緒に死んだ。俺はひとりだけ生き残ってしまった……そうなったら、やることはひとつしかないだろ』


 さらりと答えてくれたが、それは到底、軽々しく踏み入れて良い領域ではない。ロゼッタはおもむろに首を横に振るい、声を震わせる。


『ごめんなさい……』


『良いよ、俺だったし。ちなみにラザラスもそんな感じの理由だが、不用意に聞くんじゃねーぞ。分かってると思うが、コイツはまだ色々と吹っ切れてねーから』


 分かってます、どう見ても元カノのジュリーさん引きずってますし。

 やっぱりジュリーさんの生存絶望的なんじゃないかなぁと頭を抱え、ロゼッタは躊躇いがちに質問を続けた。


『ら、ラズさん以外には……聞いても、大丈夫?』


 不躾なのは分かっている。それでも、情報はなるべく多く得ておきたかった。

 ラザラスは他人を一度懐に入れてしまうと途端に警戒心がゼロになるタイプの人間だと分かってしまったためである。「まずは味方から疑え」という言葉を知らなさそうな彼のことを考えるのならば、自分が色々知っておくべきだと思えてならなかったのだ。


「……」


 ユウは何も答えない。悩んでいるのだろう。そうしている間に、ラザラスがベッドから立ち上がろうとよろよろと身体を動かし始めた。


「ええと……すみません、明日も仕事、あるので……そろそろ、帰ります」


「えっ、ラズ君帰っちゃうの!? 帰れる!?」


「はは、魔法使えなかった頃を思い出しながら帰るよ」


 クィールに手助けされていても不安定さが否めない彼の姿を見て、ユウは【収納魔法】から一本の杖を取り出した。


「ラザラス、これを渡しておく。さっきヴォルフさんに作ってもらったんだ。よく分からんことになっていたが、俺はこれを届けにきたんだ」


「……杖、ですか?」


「ストーカーに杖に向かって【空間把握】を使ってもらえば、周囲の状況確認に役立つはずだ」


 ユウは表情を変えない。しかし、ロゼッタの話を無視する気はなかったらしい。


『まあ、答えてくれるかはさておき、レヴィとルーシオさんとヴォルフさんなら比較的まだ大丈夫なんじゃないか? あ、【空間把握】頼むぞ』


『比較的って辺りに闇を感じちゃうね。空間把握ね、ちょっと試してみる』


 その杖は、体重を支えるというよりは周囲の様子を探る目的で作られたような杖だった。杖に魔法を掛ければ、その中に魔力が取り込まれたような感触を覚える。


「あ……床に当たってる間は、空間把握の効果が出ていますね。見えます……ありがたいです」


「へぇ、良いじゃん。ストーカーさせてやるんだし、ロゼッタはありがたく便利に使っときな」


 ロゼッタは即座にテレパシーの対象をユウからラザラスに切り替えた。


『ありがたく使われます。後で色々試しますんで、丁度良い感じになるように指示出しお願いします』


「さんきゅ。でも、無理はしないようにな」


 ロゼッタは立ち上がったラザラスの背後に出来た影に移り、帰宅する気満々の彼をストーキングする準備に入る。そんな彼女の場所は知らないまま、ユウはテレパシーを送った。


『忠告だ。クィールに余計なこと聞くんじゃねーぞ』


『えっ、なんで!?』


『エマさんよりはクィールに聞きそうだなって思ったからだ。彼女、ラザラス以上にメンタルがヤバいから、うっかりでも聞くな。聞いたら燃やすぞ』


『彼女……』


『クィールは女。性別曖昧な見た目してるのがコンプレックスっぽいから、性別確認しないようにな』


『手遅れです』


『馬鹿野郎』


 前に聞いた時には「女性であるとは限らない」といった返事が来たが、あれは若干『お怒り』だったのだろう。申し訳ないことをしてしまった、とロゼッタは天を仰ぐ。


(女の子で、左手の薬指に指輪付けてて……どうも、ラズさんのお兄さんの関係者で……)


 既にユウの情報を得てしまっていたロゼッタの脳内で、ひとつの解答が出た。


(ラズさんのお兄さんの、彼女か婚約者ってとこ、か……)


 恐らく、エマも彼女同様の理由である。つまりユウ、エマ、クィール、そしてラザラスの四人は違法組織に大切な人を奪われている。発想が物騒になってしまうのも、無理はないだろう。


(わたしは……ラズさんの騎士になるんだ。でも、この人達の力にも、なれたら……)


 ロゼッタはラザラスに、この情報屋の人々に命を救われた。

 最初はラザラスだけに心を奪われていたし、そこに関しては今も変わらない。

 しかし、対象が広がることは決して罪ではないだろう。「力になりたい」という思いに、限度はないはずだ。

 幸いにも、ロゼッタには才能があった。何かしらの力にはなれるに違いない。発見さえされなければ、迷惑さえかけなければ、何をしたって許されるだろう。


(足だけは、引っ張らないようにしなきゃなぁ……)


 決意を新たに、ロゼッタは何故か合意を得てしまったストーカー行為を続ける。

 少しだけ顔を出した朝日が喫茶店を照らしている。「自分には何が出来るか」を考えながら、ロゼッタはラザラスの後を追うのであった。

第二部、終了です。

第三部も合法的にストーカーを続けます。

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