表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/68

16.ストーカー、騎士になる。

「おうおう、気付いてないとでも思ったか? アタシらは情報屋だ、居場所は分からんがラザラスにまとわり付いてんのは早々に気付いてたさ! 居場所は分からんがな!!」


 そう言ってエマはベッド下を覗く。まったくもって見当違いの場所だが、ラザラスの家ではベッド下が定位置になっていることもあり、若干惜しい。

 クィールはというと、扉という扉を開け閉めしてロゼッタを捜索している。こちらも若干惜しい。


「まあ、『ラズ君の傍にいる』ことは分かっても居場所がさっぱり分からないから、『ロゼッタ捕獲会議』が毎日開かれることになっちゃったんだけどね……まさか空飛んで移動しても着いてくるとは思わなかったし、ミンチ大量発生現場でよく逃げ出さなかったなって思ってる……度胸あるね……」


「しかしアンタすごいね。今さっきクィールにアンタが『近くに絶対いると思う』って教えてもらったんだが、未だにちょっと信じられねぇわ。ヴォルフガングに頼んで超高性能な魔力探知機用意したんだけど、こいつでも微妙過ぎる反応があるかないかレベルだからな」


(ヴォルフガング……あっ、おじさまか!! あのおじさま、声と性格も凄いけど名前も何かイメージと違うんだけど!!)


 どうやらロゼッタが考え込んでいた間に情報共有がなされていたようである。

 エマは立ち上がり、ガイガーカウンターのような小さな箱状の機械を持って部屋の中を歩き始めた。額縁の傍にも来たのだが、彼女の反応を見る限り機械が満足に反応していないようだ……というより、その「微妙過ぎる反応」はロゼッタではなく、ラザラスに反応している気がしなくもない。何しろ……。


「そういえば、ずっとラズ君に着いていってるなら放送局の不審者対策バリケード群も突破してることになるんだもんね……科学じゃ君には勝てないんだね……」


(ええ、負ける気がしませんね)


 問題はこれである。

 ALIAの職場である放送局は一年程前から元々厳しかった警備関連が一層厳しくなり、部外者はネズミ一匹侵入できないような状態になっているのである。

 魔法の使い方を把握したロゼッタは無属性魔法【調査】の効果で全機械の構造をチェックし、大体ではあるものの、それらがいかに素晴らしいものかを理解している。


 だからこそ、機械ごときには絶対に負けるはずが無いと、ロゼッタは自身のオリジナル魔法【隠影】に絶対の自信を持っていた。あんな小さな機械で発見される程、ロゼッタの魔法はやわではないのである――ラザラスに魔法をドンドコ使っていなければ、恐らくまだ普通に隠れていられたに違いない。


(んー、テレパシー送ろうにもクィールさんだけじゃなくてエマさんも魔法能力無いみたい。姿、現した方が良いのかなぁ……でも、それやったら捕まるよなぁ……)


 しかしロゼッタはその高い能力を駆使して、まだストーカーを続ける気満々であった。図々しいにも程があるが、残念ながらロゼッタは相変わらずラザラスしか見えていないのである。

 ちなみに、普通に声を出すという手もあるにはあるのだが、それをすると音で場所が見抜かれる可能性があるためロゼッタは失礼を承知で黙り続けているのである。彼女、ラザラスが関わらなければ無駄に頭が回るのだ。


(んー、一旦喫茶店の外に逃げとこうかな……見つかりたくないしなぁ……)


「あ、まだ姿現すなよ?」


(……あれ?)


 何やら話の方向性がおかしい。ロゼッタは例え脅されようと出る気は無かったのだが、どうやらその必要は無かったようだ。


「アタシらは情報屋だ。それが小娘ひとりに翻弄されまくって情報漏れまくってるなんて、許されないわけよ。だから、どうにかしてアンタ引きずり出す。良かったらそれまで付き合って欲しいんだわ。何というか、アンタ放置してもラザラスのプライバシーが犠牲になるだけっぽいし」


「可哀想に……」


 エマ曰く、ロゼッタは外部に情報を漏らすことはないだろうし、情報屋の意地とプライドでロゼッタを自分達の手で発見したいとのことだった。そのため、見つかるまでは引き続き隠れていて欲しいとのこと――そしてラザラスのプライバシーは墓地に送られようとしている。


「あー、でも、ラザラスじゃ身の安全が保証されるか心配だっていうならクィールでも良いぞ」


「私は嫌です!! 絶対に嫌です!!」


「駄目だってさ。じゃあ、ラザラスかユウだな。アイツら、何かもう……枯れてるし?」


「やめてあげて下さい!!」


(『身の安全』ってそういうこと!? 確かにラズさんそういう気配全く無いし、家に一切そういうもの無かったけども!!)


 ラザラスのプライバシーに関しては「好みの女性のタイプを知りたい」という名目でベッド下やら本棚やら散々捜索されてしまっているためにもはや手遅れ気味なのだが、哀れなことに、コンビニに行くようなノリでユウまで犠牲になりかけている。ロゼッタが「うん」と言えばさらに犠牲者が増えてしまいそうだ。


(気にはなるけどねー……ユウさんもよく見たら綺麗だもん。あの火傷の痕といい、婚約者が過去形なことといい、闇しか感じないからねぇ)


 気にはなる。情報収集のためにラザラスからいったん離れてエマ達の誰かにくっつくのもアリだろう……考えはするが、“考えるだけ”なのだ。

 残念ながらロゼッタはラザラスの傍から動く気は全く無い。ラザラスのプライバシーはこれからも犠牲になるのだ。


「まあ、うん……それだけじゃないよ。あれね、戦力。アンタの護衛的な意味。そういう意味じゃアタシやルーシオ、ヴォルフガングは却下だわ。レヴィは……思春期だから、勘弁してやって」


(あっ、そこ気にするんだ)


 思春期の女の子はそっとしてあげて欲しいようだ。年齢的には明らかに一番近いというのに。

 ロゼッタも思春期の女の子なのだが、やっていることがやっていることなので放置してはもらえないようである。


 エマは「うーん」と悩み、相変わらず得体の知れない方向を見ながら口を開いた。


「あのねー、ラザラスは腕っ節だけなら本当に強いんだよ。魔法が得意なアンタには分かりにくいかもしれないけど。でもメンタルがはっきり言ってゴミなんだよ」


(大丈夫です、よく分かりましたので)


 話を聞いて、ラザラスが精神的に脆いことは分かっている。そうなった理由に関しても理解出来た。何も問題ない。それでも傍にいたいと思っている。


「……」


 ロゼッタは約束通り、隠れたまま何の反応も起こさない。それを見て、少し悩んでからエマは話を続けた。


「えーとね……もうはっきり言うけど。ラザラスの『お姫様』になろうとか、多分考えない方が良いよ? コイツ、『王子様』にはなれないと思うよ?」


 ロゼッタの年齢を気にしてか、エマは『お姫様』と『王子様』という比喩的表現を使っているが、要するに「男女の仲にはなれないと思う」と言いたいのだろう。それを聞いて、ロゼッタは思わず息を呑んだ。


(……。好きだなぁとは思ってたけど、それは考えて無かったな……)


 これに関しては彼女の境遇に難があった――自分は適当な男と“つがい”にされるのだろうという『商品』としての価値観が、抜けきっていなかったのだ。


(ああ、そうか。普通は『好きだ』って思ったら、付き合いたいとか、そういう話になるんだね。でも……わたし、そういうの、よく分かんないや)


 ただ、一緒にいたかった。忙しく動き回っていることを知った時は、彼を守りたいと思った。しかし、それ以上のことは考えていなかったのだとロゼッタはここに来て漸く気が付いた。

 それでも、ラザラスに向ける感情が親愛とも友愛とも異なっていることは何となく理解している。とはいえ男女交際が出来ないだとか、結婚出来ないだとか、そんなことはどうでも良かった。


(うーん、現状どちらかというと、わたしが王子様……いや、むしろ……)


 この先、考えが変わる可能性もある――けれど、今は。

 ロゼッタはおもむろに頷き、そして結論を出した。


(陰ながら王子様を守る存在……そう、わたしは『騎士』だ! これからもラズさんを影からお守りする! それがわたしの使命!!)


 色々と――いや、むしろ、最初から全てが間違っているのだが、困った事に誰も彼女を止められないのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしよろしければ、お願いいたします。
小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ